第八章・その一
ビーコムはゲーム内に閉じ込められたプレイヤー救出作戦を計画します。
その作戦とはいったい?
第八章・起死回生の秘策
ビーコムの会議室には、ビーコムのゲーム開発担当だけでなく、白衣を来た数人の技術者らしい人物も加わっていた。
「えー、本日お集まりいただいたのは、先日来からプレイヤー大量死を起こしている当方のオンラインゲーム、『カリバーン・サーガ』の残るプレイヤーたちの救済方法についての討議をするためです」
ビーコム開発責任者であるプロデューサーがよく通る声で会議の開催を宣言する。
「現在プレイヤーの死者は五〇人、ログオフに起因するものと思われるもの三一件に対し、キャラクター死亡に起因すると思えるものが十九件起きています。どちらの処理もいったんログオフ手続きをする、という意味で共通の信号を用いていますので、この処理自体は当方で全てロックしております」
続けて広報担当が現状を説明、さらにシステム担当が
「ただし、ログオフ信号を止める、という処理で、本来想定していた『キャラクター転生システム』が機能しなくなっており、キャラクターが死んだ時点でプレイヤーはゲーム内にとどまることすらできない昏睡状態となります。これは長時間続くと精神障害等が起きることも考えられますし、キャラクターの生きている今のプレイヤーたちにもどんな影響が出るかは未知数です。早急な対策が望まれます」
と報告する。
一同が改めて事の重要性を再認識すると、白衣の一人がこう持ちだしてきた。
「聞くところによると、ビーコムのゲームサーバーは私どものサーバーと比べるとはるかに強力なシステムとなっているようですね、その強みが何か活かせませんか?」
「というと、どのような?」
「互いのサーバに同時に負荷をかけることが出来れば、あわよくば我が方のサーバをダウンさせることができるやも知れません。サーバさえダウンすればプレイヤーの方々は無事に現実へと戻れるかと思います」
「なるほど、つまり互いのサーバの力量差を使った力比べ、というわけですか」
「ただし、こちらのサーバはあくまで受動処理ですので、そちらがうまく負荷をかけられなければうまくいかない、という欠点は残りますが…」
付け加えられたカマロン技術者の言葉に、一同は躊躇の念を隠せない。
「では、カマロン殿の方でサーバの電源を切るなどの停止処理はできますか?」
「私どものサーバは通常サーバとは完全に別系統です。電源を切ることはもちろん出来ますが、無停電電源装置と非常用自家発電装置がありますので…」
白衣の技術者はそこで言葉を切り、別の技術者に確認を求めている。
「…完全停止までに要する時間は、最低でも約二年ほどになるかと」
「二年…!」
「じつは当方サーバは巨大地震等も考慮に入れていた関係で、長期稼働も視野に入れた地熱発電を用いておりまして、それが稼働した場合の最も消耗の早い部品の耐用年数が二年、ということです。つまり、場合によっては無限に稼働し続けるという恐れも…」
「なんだとっ!?」
ビーコム役員たちが一斉に席を立つ。その表情には愕然としたものが多く、完全に袋小路となっていることをまざまざと見せつけられた状態となっている。
「やはりサーバダウンを狙う以外に方法はないのか…」
ビーコムプロデューサーが苦々しい口調で呟く。
「ではカマロンのサーバを攻撃する手法でなにか適当なものはないのか?」
プロデューサーの問に、幾つかの挙手
「ではそこの方、発言をお願いします」
挙手したビーコムの一人に指示を与えると
「ゲーム内で巨大競技会を開くというのはどうでしょう? 競争や格闘技、ゲーム内で妥当と思える種目を一斉に開催するのです」
「異議あり!」
発言に対してすぐに異議の声。続けてその者に発言が許されると
「競技会では実際に協議に参加するプレイヤーの数はひどく限られ、サーバ負担も限定されたものとなります。恐らくは徒労に終わるかと」
もっともな反論に、一同も沈黙する。
「モンスターを大量に投入して狩猟大会を行なってはどうでしょう? モンスターの数量分ビーコム側の負担は増えますが、プレイヤーが多数参加すればするほどカマロン側にも負担を与えられるかと」
「ログオフできず意気消沈しているプレイヤーたちが、そのような狩猟大会に積極的に参加すると思うかね?」
続く提案にも、納得せざるを得ない反論が上がると同時に出席者たちの落胆の声がこだまする。
「大量のモンスターたちにプレイヤーの本拠地、城塞都市を攻撃させてはどうでしょう? そうなればほとんどのプレイヤーが戦わざるを得ませんし、共通の敵となれば団結力も高まるでしょう」
「その方法は確かにいいかもしれないな、だがモンスターが都市破壊を始めるとデータ処理は膨大なものとなり、一方的にビーコムの負担が増えるが対策はあるかね?」
「迎撃戦イベントとして事前に予告を出し、プレイヤーに防衛線を築かせればかなり持ちこたえられるかと思います。ただし…」
「ただし、なんだね?」
「私どものテストプレイヤーからの報告によりますと、一連の工作に深く関わっている人物のキャラクターがプローニャを牛耳っているとのこと、こちらへの都市攻撃は意図的にプレイヤーを避難させ、カマロンのサーバを保護する妨害活動を取る可能性も考えられますが」
「なるほど、では実際にプレイヤーが居るプローニャ、クラトスのうち、ターゲットとできるのはクラトスのみ、というわけか」
「そうなりますね。ちなみにデータ処理部門の試算によりますと、最強のモンスターとして設定されている四元龍を投入した場合、原野で五〇〇頭、都市部で一五〇頭が限界とのこと、四元龍は討伐に1〇名位上のプレイヤーを想定しているので最大で五〇〇〇人以上を動員できます。ただし都市破壊の程度がひどければ一〇〇頭以下でもこちらのサーバが限界に達する恐れがあります」
そこで白衣を着た技術者からこんな情報がもたらされる。
「私どもの試算では、カマロンサーバは三〇〇〇人までであれば戦闘処理を行うことができます。これ以上となるとサーバダウンの恐れが発生しますので、それを目標に計画を練られてはどうでしょう?」
「ということは、原野で完全に防ぎ切らないとこちらのサーバが先にダウンする、という恐れがあるな。これについては誰か良い案を持っていないか?」
「イベントクエストとして事前予告し、四元龍迎撃戦として企画してはどうでしょう? 先導する者がいれば城外に防衛線を展開でき、城壁に到達する前に撃退することも可能かと思います」
「そうか、では我々ビーコムスタッフでプレイヤーを先導し、防衛線を展開する方向で計画を練るとしよう。クエストの企画と参加者の人選は諸君に一任する。期日は各部の進行状況により決定し、準備が完了次第各部に伝達。ただしこの作戦は失敗すると全員が死ぬ恐れがある危険なものだということを忘れないように! では諸君、健闘を祈る!」
プロデューサーの締めの一言に、各担当者たちは足早に各々の準備を開始した。
ビーコム主導の超巨大作戦、いよいよ決行!
エステルたちを待っているのは勝利か? それとも…?