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漆黒の姫君(Caliburne Saga「1」)  作者: 首藤えりか
第一章・始まりの街プローニャ
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第一章・その一

正式版本編スタート!

単なる息抜き、現実逃避でいまだ目的のない主人公は、誰と出会い、何を始めるのでしょう。

  第一章・始まりの街・プローニャ


 「うわぁ、なんかドキドキするね」

私の隣に立っていた白いチュニックに同色のミニフレアスカートを着た少女は、私と広い初夏の海原を見比べながら、この世界全てを満喫するかのような明るい口調で私に語りかけた。

まぁこの白一色の軽装はゲーム「カリバーン・サーガ」初期設定のもので、私も、そしてあと十四人いるプレイヤーキャラクターもほぼ同じものを着てるんだけどね。

昼下がりのおひさまはポカポカ暖かく、晴天の空と相まって、ごくごく軽装の私たちでも過ごしやすい時間帯となっていて。

けど、本運営初日で初ログインとなる私にとって、この娘とはたった今会ったばかりのはず…

「う、うん…」

何か答えなきゃと私の絞り出したのは、ホントに間の抜けた生返事一つ。

「うーん、元気ないなぁ。そんなんじゃいつまで経ってもフレ出来ないゾ?」

私の鼻をつんつん突きながら、赤いショートボブのその娘はまるで旧知の仲でもあるかのような物言いをやめようとしなくて…

「えと…あなた、誰?」

さすがに気になって私はボソリ…

「あ、ごめーん! 自己紹介してなかったね、私きららだよ~」

「きららさんかぁ、私は…あ、あれ?」

天真爛漫に答える彼女を前に、私はしばらくボー然…

そう言えばこのキャラ、なんて名前にしてたっけ?

「うーん…」

「…もしかして、自分のつけたキャラ名忘れちゃった、とか?」

半ば呆れ顔のきららはふうっ、とため息一つついて、

「もしかしてあなた、オンラインゲームって初めてだとか?」 

ずいっと顔を近づけるなり鋭い事を問いかけてきた。

「うん…」

思わずコクリ、と私。

「やっぱそっかぁ、私もそんな気がしてたのよねぇ」

腕を組んでニコニコうんうんと頷くきらら。その腕の上で、明らかに私より豊かな胸がぷるるん、と揺れた。

「…いいなぁ…」

つい漏れた私のため息に、きららは思わずキョトン、そして、私の視線に気づいたのか自分と私の胸を交互に見比べ…

「勝った♪」

胸を張り、ちょっとだけ威張って見せたあとで、

「あ、でもダイジョブだよ、あなたもそのうち私のようになれるから」

「そっかなぁ…」

そんなとりとめのない会話をしてるうちに、私たちの乗っている初ログイン処理専用の帆船は陸地へと近づいて行く。正面には小さな街が一つくらいは入りそうな広さを囲う高い城壁、そしてその一画の門から延びる複数の桟橋…

延々と連なる小高い山や平地は緑一色に覆われ、いかにも中世ヨーロッパ、といった趣を見せてる。

船は三本マストの、コロンブスが乗っていたというサンタ・マリア号のようなレトロな作りだけど新品のような木肌の甲板や舷側は実物さながらのやさしい肌触りを…って、肌触り?

私はびっくりしてたった今手を置いたばかりの手摺りから手を離して、まじまじとそれを見つめた。

「あなた何にも知らなくてこのゲーム始めたとか?」

信じられないけど…とでも言いたそうな、怪訝な表情を見せるきらら。私と同じくらいの歳…多分十七~八歳だと思うんだけど、瑠璃紺るりこんの大きな瞳が印象的な、ずっと大人びたはっきりした表情の…うん、なかなかの美人だよね?

「そうだけど?」

「うっそーっ! まぢで!?」

すっかり呆れ果てた表情のきららは、それでも嫌な顔一つせずにこのゲームの大まかな特徴を説明してくれたの。


 まず、専用ヘッドセットのVSESヴィーセスによって現実さながらの体験ができること! つまり五感全てが堪能できるってこと。見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる…そして、果ては痛みまで体感できるものらしいの。それってなんかすごいかも!


 そして、ゲーム内ではリアリティを重視しているため、プレイヤーキャラクターの名前やパラメータ等は外部に一切表示されないってこと。今までのゲームでは当たり前だった、頭の上にキャラクターネームが表示される、ステータスが第三者からも覗けるということがないらしくて…

つまり私の名前も私かゲームシステムくらいしかわからないんだって!?


 ゲームのログオフは、宿泊施設でベッドに寝たときしかできないシステムらしいのね。

というのも、脳神経に変な信号が流れたままだと現実に戻った時に変な後遺症が残るらしいの。それって確かに怖いから、無難な設定、なのかなぁ…


 最後に、このゲームでは世界観と技術レベルさえ満たしていればどんな事でもできる! って夢の様なゲームなのね♪ だから、ありがちな狩人や傭兵ばかりじゃなく、食堂のウェイトレスや花屋、仕立屋、そしてこわーい暗殺者! というのも選択肢にあるみたいです!! 当然電気やエンジンといったものは存在しないので、そういう機械絡みっていうのは無理らしいけど。


「はうぅ、なんか頭こんがらがって来ちゃった…」

あまりに長々とした説明に私はもうちんぷんかんぷん、というかほんと私って、そういうややこしいの苦手なのです。

あ、それと…キャラクターの容姿って、ゲーム用信号端末「VSESユーザーデバイス」に付属のリング状ボディスキャナーをくぐることで得られた情報から作られているので、ほぼ実物そのままだったりするのね。だから…まだ幼児体型の私の体格もそのままキャラに反映されてて、はうぅ、ショック! って事になったわけなの。まぁ最初に髪や瞳の色とヘアスタイル、キャラクターネームくらいは自由に決められるんだけど。

 私は琥珀こはく色に設定したロングストレートの髪をちまちまいじりながら、「もうちょっと調べてくるべきだったかなぁ…」とか後悔してたり…

と言っても、指で空中に横棒を書き、それをスライドアップすると現れるメニューからオンラインマニュアルはいつでも見れるみたいだけどね。

「にしても…」

ふと気になって、私はきららにちょっと質問。

「なんで私に声かけてきたの?」

その質問に、ちょっと小首を傾げたきららはすぐさまぽんっ! と手を叩き。

「すっごくかわいかったから!」

私が想像もしてなかった返事を返してきたの。

「なっ!?」

思わず後退りした私、もしかしてこの子、変な趣味があるとか?

「信じてないなぁ? でもあなた、まぢかわいい顔してるよ? ヤキモチ焼いちゃうなぁ…」

「そ、そっかなぁ?」

確かに学校でもそこそこ男子の視線は集めてたみたいだし、自分でもブサイクな方じゃないとは思うけど、どっちかと言うとロリ顔系なところが不満なのね…

色白のつややかな肌に卵型に整った小振りな顔とか、あかね色の、くるりとしたつぶらな瞳、つんと形よく整った鼻筋に桜色の上品な唇…って、うーん、自分でもなかなかの美人…なのかな? とは思ってはみるけど、やっぱりどこか子供っぽくて…

同級生に言わせると、「あんたの悩みは贅沢すぎるのよっ!」だって。でも背丈はけっこう低いほうだし、スタイル的にも発育途上だし、やっぱロリロリっとしてるから…はい、もういいです。

 船が桟橋に近づき、NPCの船員たちが機械的に接岸作業をはじめる。

描写的にはかなり荒削りで、味も素っ気もないものだけど、こんなとこまで細かく描写してもねぇ、という判断が働いたのかもね。それでもそんな違和感がない程度には描写してるけど。

頭上に役職とキャラクターネームが表示されたNPCたちは、それを除けばプレイヤーキャラとそんな違いはないのよね。表情が少しアニメチックだったりとか、そういう点はあるんだけど…


「さぁプローニャに到着だ! みんな降りろ!」

船長に設定されているNPCが大声で私たちに叫ぶ。ぞろぞろと船を降り、城門をくぐって私たちは城の中へと入っていく。

「うわっ!!」

門をくぐるとそこはちょっとした街でした。まぁ外見から予想した通りだったんだけど、それでもかなりの建物が密集してるのにはちょっと驚かされちゃった…

門を入ったところからすぐに露店がズラリと並び、最初の露店…じゃなくて、これは受付だったのね。美少女NPCの受付嬢が、上陸したプレイヤーたちのキャラを呼んでいる。

「…きららさん!」

「はいっ♪」

何人目かにきららが呼ばれ、さっそく書類にサインしてる。うーん、けっこう手続き、めんどいのね・・・

「…エステラーニャさん!」

・・・

誰かの名前を受付嬢が呼んでるけど、これには誰も反応がない。

「ねぇねぇ、あのエステラーニャって、あなたの名前じゃないの?」

脇から肘でつんつんつつきながら、きららが私に問いかけてくるけど…そうだったかな?

見ると他の人はみんなサイン済ませてるみたいだし…

「…私だっけ?」

そう言えばそんな名前にしたかなぁ、と首を傾げながら、私は受付へと向かう。

「ここにサインお願いします。」

”上陸申請書”と書かれた書類を差し出し、私にサインを促す受付嬢。

「ううっ、なんか私にも呼びにくい名前なんだけど、せめてエステルって名前に替えちゃっていいのかな?」

ダメ元で声をかけてきた受付嬢に聞いてみると…

「別の名前を名乗るのは自由ですが、キャラクターネームの変更は認められません!」

…なんとも機械的な返事、はうぅ、やっぱ名前つけるの、ミスったなぁ、なんてちょっと後悔…

仕方ないので、「エステラーニャ」とサインを済ませると、百枚の袋詰め金貨らしきものを渡されて…ふむふむ、これで初期装備を整えろってことなのね♪

私は受付嬢に一礼するときららに引っ張られるようにして街の中へ。

「ほらほら、こんなものまで売ってるよぉ!」

色とりどりの衣装やアクセサリーを見つけて、私にくいくいと手招きするきらら。

「うわぁ、すっごいねぇ!」

現実社会の精巧に作られた装飾品とかじゃないけど、少し荒削りなところがすごく味わい深いアクセサリーの数々、衣装も実用重視で無機的な傾向が強い現実社会の服と違って、レトロというかクラシカルというか、そんな遊び心のあるおしゃれなものが多い。

ビスチェ風のブラウスや、ふわっとしたデザインのミニスカート、うーん、ちょっとゴスロリ系? の雰囲気が漂うコスチュームがたくさん並んでるの。

「これかわいいっ♪」

その中でも基調は黒なんだけど、胸元に銀の折り返しがついてていかにも胸を強調しそうなビスチェに私は釘付け。けっこう凝った金糸銀糸の刺繍がすっごい豪華そう♪

「それにするのかい? 三〇リーンになるよ!」

NPCのおかみさんは私が衣装を手にとったのを見てさっそく声をかけてくる。

「うん、これ買いますっ♪」

言って袋を開けて…えっ?

金貨には「一LEAN」と刻印されてる、つまりこの服一着で手持ちの三割使っちゃうんだ!?

「…買わないのかい?」

「うううっ、か、買いますっ!」

やっぱかわいいものには代えられないのですっ!!

続けてそのビスチェに似合いそうなややミニ丈のフレアスカートとロングブーツを買った私の手持ち金貨は…たった一〇枚、これ、もうやばそう。

「ねぇねぇ、えっちゃんは何買ったの?」

赤い簡素なチュニックにスカートと、厚手の革の胸当てをつけたきららは私の着替えたばかりの黒いコスチューム一式に目を丸くし…

「うわっ、高そうな服ばっかじゃん!」

「え? そ、そうだけど…えっちゃんって?」

「あ、エステラーニャって呼びにくいからえっちゃん♪ てもこれ、モンスター狩りとかがメインのアクションゲームだよ? 武器とか防具どうするの?」

「え・・・?」

きららの予想もつかないツッコミに私は…ただひたすら呆然・・・

「…で、手持ち金いくら残ってるのよ…」

ジト目で私を睨みつつ、呆れたように聞くきらら。

「…一〇リーン…」

「まぢっ!?」

心底驚いたきららは、ふっと少し離れた武器屋に疾走して…

「こっちこっち!」

すぐさま私を呼びつける。

「何とか買える武器あるよ~」

そそくさと来た私を確認すると、とある武器を指し示す。

それは…小振りでなんとも貧相な…双剣で…

「なんかかわいいって言えば聞こえはいいけど、武器としてみたら弱そうだね…」

「でもでも、たったの八リーン! お買い得だよぉ♪」

「うっ、ま、まぁ買えなくはないけど、なんかなぁ…」

「武器は最低1つは持っとかなきゃ! さぁ買った買った!!」

渋々私は、その「いかにも弱そうな」双剣を買わされるはめに…

ううっ、私、こんな調子でこのゲーム楽しめるのかな。


☆本日の収支報告

  入金…初期費用・百リーン

  出費…ゴシックビスチェ・三〇リーン、

      ゴシックフレアスカート・三〇リーン

      編み上げロングブーツ・三〇リーン

      ビギナーズツインダガー・八リーン

  残高…二リーン


…神様っ、私、今夜から飢えちゃいそうです… 


次編予告!

仕事選びを要求される主人公が選んだ「お仕事」とは?

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