第七章・その六
武器は揃ったものの防具が心細いと感じたエステルたちは、再び武器屋に行き防具を整えます。
改めて居候中の酒場に戻ると…?
「みんな、装備はひと通り揃った…よな?」
「揃いましたー!」
ネストの問いかけに、カズンときららが元気よく返事をする。
「おや? エステルはまだ揃ってないのか?」
「うーん、やっぱ防具もいるのかなぁ、とかちょっと悩んでるです…」
怪訝そうに聞くネストに、私はついつい不安をポロリ。
だって、私たいてい何かと戦うと怪我ばっかしてるし、防具つけてないのも問題なのかなぁ、とか思っちゃうのね。けど今のゴスロリドレスは好きだから見た目崩したくないし。
「お前は見た目に拘ってばかりだからなぁ…」
私の服装を見ながらも呆れ顔のネスト、そう言われちゃうと返す言葉が無いです…
「同色系の籠手と脛当くらいなら問題ないんじゃないか? 胸当ても探せばいいのがあるだろう?」
「そっかぁ、そだね♪」
ネストに指摘されて、私は再び武具屋に。あれ? きららも来るの?
「だってえっちゃん、一人だといつも危なっかしいんだもん!」
はうっ、そんなふうに見られてたんだ…シクシク…
ともかく、私はきららと一緒に「アギト武具店」へと向かうと。
…ぞろぞろ…
なんかいっぱい取り巻きがついてくるんですけど…
「えっちゃんって『時の人』だね♪」
きららったらもう人事みたいに私を冷やかしてる。
「やめてよぉ、私、こんなふうにジロジロ見られるの苦手なのにぃ」
愚痴ったとしても取り巻きは消えてくれないんだけど…
「はぁっ、はぁっ、や、やっと追いついた!」
妙に息を切らしたカズンがそこで追いついて
「なんだよこの取り巻きは?」
改めて私の取り巻き見て呆れ果ててる。
「…もういいです…」
すっかりしょげ返りながらも取り巻き達を連れたまま目的の武具店へと向かう私。
「こんにちはです…」
さして広くもない店内なので、取り巻き達はそこで三々五々散っていき、私はきららとカズンを連れて店内へ。
「見た目が良くて丈夫な防具が欲しいんですけど…」
と私が言うと、マスターは私の服装をひと通り眺めて…
「その服が君の好みかい? じゃあ…」
とカウンターの裏をゴソゴソ
「こういうのはどうだい?」と取り出したのは、黒を基調にしたシックなアームカバーと、私のロングブーツに似合いそうないぶし銀の脛当、そして、細かい装飾の入ったコルセット状の黒い胴鎧
…
「うわっ…!」
意外とセンスのいいチョイスに私はびっくり。アームカバーと思ってたそれも、手に取ってみると軽さの割にはかなり強いアームガードだし、比較的シンプルな作りの脛当も逆に存在感があるし…
おまけに胴鎧は今の私のビスチェとそれほどデザイン変わらなくて…
「いいかも♪ 買いますっ!」
と私は二つ返事。と、きららまでが
「それの赤いのがあったら一セットお願い♪」って…?
「きららちゃんも買うの?」
「うん! 私だって少しはオシャレしたいもん♪」
まぁ、それはわかるけどね。
カズンもやはり防具に不安があったのか胴鎧と腰鎧を買い込んでたし、きららは武具屋から出るなり「ちょっと行ってくる~」と何やら衣服を見に行っちゃったし…
「どうしたものかな?」
ひと通り装備を着込んで私は暫し待つことに。
にしても…この装備、悪くないかも♪
確かに何もつけてないよりは気持ち程度は重いけど、今までと見た目はあまり変わらないし、デザインのセンスもなかなかだし、何より安心感があるのがいいよね~♪
「腰鎧もつけるともっと安全だよ?」ってマスターは言ってくれてたけど、双剣使いの私はスピードが命、と思うから、きららともども「腰鎧はパスってことで」って断っちゃった。ま、当たらなきゃいいのです!
程なく帰ってきたきらら
「な…なにそれ!?」
その姿を見て私は呆然。だってそのまま、「私の装備の赤バージョン」なんだもん。
「えっちゃんに対抗しちゃった♪」
あっけらかん、とにこやかに言うきらら、さっきまでのシンプルなチュニックから比べると、すっごいイメチェンかも! と思うけど、よくよく見るとそれはそれで様になってて、しかもスタイルいいから…
「き・れ・い…」
ついその姿を見て私は思わず呟いてたり。
「そう? ありがと♪」
ますますご機嫌なきらら、街の人達も今回は私だけじゃなくきららにも視線が移っているみたい。まぁそれでも私への目線が多いらしいことは確かだけど…
「…って、きららちゃん髪型変えた?」
「うん、ポニーテールにしてみた♪」
あ、それで余計かわいく見えたのね。
赤のゴスロリドレスにポニーテールのきららはとっても眩しくて、まるで「真紅の妖精」みたい。うんうん、これてきららもすごい人気が出ると思うよ~。
というわけでワイワイおしゃべりしながらねぐらとなった酒場へ戻って来た私たちだけど…
「ノマド! あんたよその傭兵団とべたつくんじゃないよっ!」
店内からいきなり響いた大声に一同ドキッとしてたり。
「…女の人、だよね?」
「うん、女の人の声だよね?」
カズンときららがこわごわ店内を覗くと、そこには姉御タイプ、というべきかな? ちょっと大人びたタイプの美女がすごい剣幕で仁王立ちしてて、逆にあれだけ豪快だったノマドたちが小さくなってて…
「いや、あいつらの連れの女の子がすげぇかわいくて…」
「連れの女の子が…なんだってっ!?」
ボンデージ、って言うんだっけ? まぁそこまでひどくないけど、けっこう露出の大きい刺激的な白服の美女は、はっきり言ってきららでも見劣りしそうなほどグラマー、加えてほっそりした顔つきはぞっとする程美しくて、長い金髪がさらにゴージャスに見える人。
ただ、すごく猛々しい性格みたいで、背筋が寒くなるほどに怖い雰囲気持ってるのが玉に瑕かも…
「きた…」
プラチナソルの一員が私に気づいて声を上げる。それに気づいた白ボンデージの女性は私につかつかと近寄り
「ふーん、こんなちんちくりんがいいのね、あんたたちはっ!」
ぞっとするほどに鋭い語気でノマドたちに詰問する。
「だ、団長…そりゃないですぜ…」
口応えもできずに半泣きのノマドとヒロロ、ってことは、この女の人ってプラチナソルの団長さん?
「まぁまぁ、プラムさん、その辺で許してやったらどうですかい?」
「なんだとてめぇっ! 他所様の傭兵団に口はさむんじゃないよっ!」
ネストが仲裁に入りかけるけど、それすらもプラムという団長は冷たい語気で突っぱねる。
「…とりあえずここを出よう、今夜は他の宿に入ったほうがよさそうだ」
ダイゴの機転で、私たち団員一同は事を荒立てないようにそっと酒場から出ることに。
「…あのひと誰なの?」
「プラチナソルの団長、プラム。通称『氷塊の女王』だよ」
肩をすくませながら、まるでノマドたちに同情するかのような吐息を込めてネストは静かに答えてくれた。
あんな人と関わり合いにはなりたくないなぁ、なんてしんみり考える私たちでした。
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