第七章・その五
武器屋に依頼していた新品武器を取りに行くエステル、その武器はどんなものになったのか? そして、店に現れた人物は誰?
夕方…
武器屋に頼んでいた武器を取りに行くと、マスターがニコニコ顔で迎えてくれて
「いらっしゃい姫君、もう飛びっきりの武器ができたよ!」
朗らかに言うマスターの声も心底嬉しそう。
「そうなんですか?」
手渡された新品の双剣を受取り、金貨の袋を取り出そうとすると…
「お代はいらないよ、こっちもいい仕事させてもらったからね」
といくつか武器を立て掛けている壁を指し示す。
そこにはいかにも斬れそうな白色に光り輝く細身の長い双剣と太刀が。品名は「ツインカリバーン」と「カリバーンソード」って?
「それそれ! 君の持ってきた素材の余りものからもかなりいいのができてね」
「そなんだ・・・」
漠然と答えながらも値札を見ると、一万リーンと九千リーン・・・な、なにその金額っ!?
「す、すごい金額なんですけど・・・!」
私はもう口をあんぐり、返す言葉がそれ以上見つからない。
「それでも破格の安値なんだがねぇ」
って、これで!?
「ちょっと剣を抜いてみてごらん」
受け取ったばかりの私の剣を示して、抜くように促すマスター。それじゃちょっとだけ・・・
シャリン・・・
すごく澄み切った音とともに出てきた細身の刃は、ほんとに抜けるような透明感溢れる白。どの部分を見ても色の濁りや不純物などは見られなくて、しかもすごく・・・軽い!
「ほえぇぇぇ・・・」
もう一目見ただけで壁にかけてある武器とは格が違うって分かっちゃう、そんな神々しい美しさがひしひしと伝わってくる。
「それを普通に『ツインカリバーン』なんて言ったら罰が当たっちゃうね。言うなれば・・・そう、『真・ツインカリバーン』ってとこかな?」
自慢そうに言うマスターの言葉に答えるのも忘れて、私はただただ茫然自失。これを普通に売ったら一体いくらの値がつくんだろ?
それ以前に壁にかけてあるカリバーンもこの金額だもん、そうそう売れるとは・・・
「よっ! マスター、今オススメの双剣はあるかい?」
ちょうど店に入ってきたゴシックスタイルの男性軽装剣士さんが、いかにも行きつけといった口調でマスターを呼んだ。
「ちょうどいいのが入ってるよ、そこのツインカリバーンはどうだい?」
とさっき見せてくれた壁のツインカリバーンをその剣士に示している。
「ほおぉ、こいつは上物だね、しかも安いっ! ぼったくりの店ならこの五倍は取るぞ!」
って・・・これで安いの?
まだ呆然としていた私に気づいた剣士は、私の手にある剣を見て
「な、なんだよそれは!!」
すごく驚いちゃった。
「真・ツインカリバーン、数あるツインカリバーンの中でも最高傑作だろうね。同じものを見つけようとしてもまず見つからないよ」
同じく自慢そうにマスターが答えてる。ってか、その男性剣士の目が「それ欲しい!」モードで輝いてるんですけど・・・?
「頼むっ、それ売ってくれっ! 十万リーン出すから売ってくれっ!」
「じゅ、十万リーン!?」
つまり私のこれって、十万リーンでも安いってこと!?
「だめだめ! この剣は素材持込してくれたこの子の物だからね!」
マスターが脇から入って剣士の欲しいモードに釘を刺してくれて、その場は何とか収まったけど。
「いやぁ、悪い悪い! 人のものを欲しがるなんて、紳士のすることじゃなかったね! やっぱりかわいい女の子は大事にしなきゃな♪」
若い、というには微妙な年頃だけど、なかなかに整った容姿の剣士は鋭い瞳にウインクを見せ、優しく微笑んでくれる。
「そいつを手放しちゃダメだぜ! お嬢さん!」
どこかのキザ男みたいにキザったらしく言う剣士、でも年季のせいかそれも自然で、嫌味なところが全くない。
「うん♪」
元気に答えて剣をしまい、私は武器屋をあとにする。
「アギトさんよぉ、あの子はいったい誰だい?」
二人っきりになった店のカウンターに片肘をつきながら、変に馴れ馴れしく剣士がマスターに伺う。
「あの子が最近人気の『漆黒の姫君』だよ、もっとも今日から『流血の姫君』って呼ばれてるみたいだけどね。ザクス、情報集めが得意なあんたにしちゃ、珍しく今回は後手に回ったねぇ」
ちょっと意外そうに答えるマスター、アギトに、ザクスと呼ばれた剣士は
「今朝までプローニャでやばい仕事してたからね、でもあっちはひどいもんだぜ? どこかの偉いさんらしいのが独裁政治始めちゃってさ。居残ってるプレイヤーと偉いさんの親衛隊とが一触即発の状態らしい」
「ってえと、内乱が始まるのかね?」
「有り得るね、アギトさん、あんたもこんなとこでくすぶってないで、また前線に出て戦おうぜ!」
「そうだな、なにか雲行きが怪しいし、そろそろでかいことが起きそうな気がする。その時は自慢の大剣を引っ張り出すさ」
「おっ、いいねぇ♪ 久々に肩を並べて戦えるか、これは面白くなりそうだ!」
緊迫感を感じていたアギトも、そろそろ前線復帰の必要性を感じていたらしい。
その返事を聞いたザクスも愉快そうだ。元々トラブルを楽しむ性格なのだろう。
「いや、そっちの本業は盗賊なんだからちょっと無理がないかね?」
「おっといけねぇ、俺は盗賊だっての忘れてたぜ!」
二人はその晩、別れを惜しむかのように長い時間語り合った。
武器は揃えたものの、防具に関してはからっきし、のエステルたちは、防具を見繕うためまた武器屋に。
再び宿屋に帰ってみると…?