第七章・その四
武器屋に向かおうとするエステルは、自分が有名人となってしまったことに改めて驚かされます。
カリバーン・ベアの素材をしこたま持ち帰った私たち、さっそく武器屋さんを探しに行くと。
「おっ、漆黒の姫君のお出ましだ!」
なんていきなり後ろから声がして、つい何? と振り返った私。
「えっ? えっ?」
なんかすごい行列なんですけど…
「いやぁ、かわいいねぇ。ほんと姫君って感じがいいねぇ」とか、
「黒いドレスがセンスいいよね」とか、
「でもモンスター狩るときはすげえんだぜ!」とか…って?
なんか変な話がたってそうな…
「あれはもう『流血の姫君』って感じでさぁ」
…なにそれ?
「あのカリバーン・ベアが瞬殺だぜ? 並みのハンターじゃ絶対できない芸当だよ、うん!」
…なんかすごい話になっちゃってるんですけど!?
まぁこのゲームのいいところ? に、服や防具はクエストが終了するとすぐ直る、ってとこがあって、今私の着てるゴスロリドレスも買ったばかりの新品同様状態。もちろん返り血とかもないの。
まぁそうでなきゃ気持ち悪くて着てられないけど…
でも…その変な噂流してるのって、誰? とキョロキョロしてみると、
「よっ! 今朝のあれはすごかったなぁ!」
変に馴れ馴れしいキザ男が一人。確か…プラチナソルのヒロロだったっけ?
「えと、こんにちは…」
相変わらず取り巻き連れたヒロロは、どうやら私たちがカリバーン・ベアを狩っているところを見たらしくて、もう心底驚いたって具合に感心してて…って、やっぱ私、何かしたの?
「私、それについてはよくわかんないんですけど…」
「まぢか!?」
ぼそっと答えると、取り巻きともどもひどく仰天。
「あんだけ派手にやってて、それを覚えてないって!?」
みんな口々に信じられないって驚いてて、さらに「なんだなんだ?」と周囲の人が集まってきて…
「すげぇかわいい…」とか
「こんな子が彼女だったらなぁ…」とか…えっ?
かあぁぁっ
なんかすっごく恥ずかしくて、顔がかっかと火照ってるんですけど。
「いやあぁぁん!」
さすがにいたたまれなくなってしゃがみこむと、ヒロロが手を差し出して
「恥ずかしがらなくていいんだよ、お嬢さん! さぁ、僕と結婚しよう!」って…!?
「絶対ヤダーっ!」
私、そういう軽いタイプは苦手なのにぃっ!
「…シクシク…」
…あれ? ヒロロ落ち込んでるよ? けっこう本気だった、とか?
そわそわ…
「えっちゃーん!?」
少し離れたところから、私を呼ぶ女の子の声。この声はきらら?
「私ここだよぉ!」
人垣の中から手をぶんぶん、背が低いからそれでもちょっと見つからないかもだけど…
「あ、いたいた! …って、何やってるの?」
「なんか取り囲まれちゃってた…」
やっと私を見つけてくれたきららに、私は事の顛末を軽く説明。
「やっぱえっちゃん、すっごくかわいいもんね! いいなぁ…」
きららは少し拗ねたように肘でつんつん
「そんなにかわいいのかなぁ…」
そういうきららもけっこうみんなの視線集めてると思うけど…とか思いつつも、やっぱり自分ではそれほど美人だとは思えない私。やっぱチビでロリロリっとしてるし、コンプレックスばっか先走っちゃうのよね。
「あれ? まだ武器作ってもらってないの?」
新品の背中の双剣を見せびらかすようにしながら、不思議そうに聞くきらら。ってか、ヒロロさんたちに捕まってて武器屋に入れなかったのにぃ…
「そこの武器屋のマスター、すっごく渋いおじさまだよぉ、私好みだなぁ♪」
へえぇ、そなんだ…
「すっごく穏やかで優しい感じでね、親切丁寧に武器の選び方まで教えてくれて…」
ふむふむ
「ああいうのって、やっぱ憧れるなぁ…」
…はいはい、キラキラモードごちそうさま。
「とにかく私も武器作ってもらってくるです」
なんとか解散した人垣を抜けて、私は武器屋へ。
確かにマスター、背丈体格は普通だけど、凛々しくていかにも大人って感じの渋いおじさまだね。
「いらっしゃい、今日はなんのご用かな?」
優しく声をかけてくれるとこも確かに女の子には人気ありそう、私はというと、人見知りがひどいほうなので逆にどぎまぎしちゃうけど…
「あ、あの…これで双剣作りたいんです…」
少しオロオロしながら「カリバーン・ベア」の牙二本と爪二つを取り出して渡すと
「ほほぉ、これは上物だねぇ。というか、とびきりの特上品じゃないか!」
「…そなの?」
長さにして軽く1メートルは超えている牙2本を軽く打ち合わせて質を確かめつつ、しきりに感心してるマスター。普通ならコツコツ、とか言いそうなその音が、キンキンってすごい澄み切ったような音を出してる。うーん、言われてみればそうなのかも。
「よし、それじゃ特別念入りに鍛えてあげよう。少し時間かかるけどいいかい?」
「え、ええ。今日はもうクエストとかも行く予定無いですし…」
「じゃあ夕方また来てくれるかな? 夕食時間までには仕上げとくから」
「わかりました」
夕方かぁ、とか思いつつ、私が店を出ようとすると…
「君がさっき話題になってた『流血の姫君』かい? なんか恐ろしく腕が立つってみんなが絶賛してたよ?」
感心したように聞いてくるマスター。あれ? ここまで話題届いてるの?
「うーん、そうみたいだけど、その辺のことは私もよくわかんなくて…」
「そうなのかー、もしかするとそれ、このゲーム内でも最強って話題の激レアスキル、『バーサーク』かも知れないね」
「そういえばそんなスキル見たかなー、そんなすごいスキルなの?」
「やっぱりそうか、けど自由自在に出せてないみたいだから逆に不便そうだね」
「そうみたいです…」
「バーサーク」がそんなすごいスキルなのかどうか分かんないけど、とか考えつつ、私は取り敢えず店をあとに。余った素材を売ってお金も工面しなきゃね。
カリバーン・ベアの素材は、難易度の高さのせいかかなりレアみたいで、目が飛び出るほどの高額で買い取ってもらえて、私の懐は一気にだぶついてたり。
「うーん、ひとまず満足♪」
ほくほく顔でみんなの待つ酒場兼宿屋へと向かうと…
「『流血の姫君』をこっちによこせ!」とか、「エステルはうちの大事な仲間だ!」とか、なんか派手に言い合ってるんですけど…
「えと…ただいも」
ただいまっていうのもちょっと変かなー、とか思いつつ、酒場のドアを開けると
「おっ! 姫君のご帰還だ!」
「おかえりエステル!」
ノマドとネストが同時に私にあいさつを返す。ってことは…
プラチナソルとゴッドハンドで私を取り合っていたってこと?
それはそれで困るんですけど…
「花屋も失業したことだし、そろそろうちに腰落ち着けてくれないかな?」
「いや、姫君はうちに絶対欲しい! プラチナソルにおいで!」
って…そんな急に急かされても困るよぉ!
「うえぇぇぇぇぇぇん!」
どう返事していいかわかんなくて、私、思わず泣き出しちゃいました。
ノマドとネストがオロオロしてたけど、流石にそんなすぐには返事できないもん。ごめんね、二人とも…
武器屋に出来上がった武器を取りに行くエステル、さてその武器の性能とは?