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漆黒の姫君(Caliburne Saga「1」)  作者: 首藤えりか
第七章・傭兵団・プラチナソル
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第七章・その三

これからどんな敵が現れるかわからない状態で、いまだに初歩的な武器しか持っていないエステルたち、団長ネストの指示で高性能武器を作るためにとあるクエストに向かいますが…

 「そうかぁ…」

翌朝、改めてネストの部屋に集まった私たちは、昨夜カズンがビーコムとのやり取りで得た情報が伝えられていた。

「こんな事態になって本当にすみません、おまけに全員の安全を考えるとログオフすらさせられないだなんて…」

「いや、それはしょうがないさ、ただ黒幕がわからないってのが痛いなぁ。そいつらがカマロンの技術陣となんか接点があるのは確かだろうけど、せめて技術陣が見つからなきゃ何も手が打てないんだろ?」

ネストもいろいろ考えてはくれてるみたいね。けど、ほんとに何も解決手段はないのかなぁ…

「グレイからの情報によると、黒ずくめたちのトップはノワール卿、とかいう領主らしい。NPC領主殺してまで領主になった理由がつかめないがな」

グレイからのメールを受け取ったダイゴが、私たちに状況報告をしてくれる。どうやらそいつらが今回のプレイヤー大量事故死と関係してるみたいだけど、ホントの黒幕はわからずじまいなんだ…

「どちらにしろ、黒ずくめたちはこっちにも手を伸ばしつつあるらしい。傭兵団にも接触してるみたいだから気をつけろ、ときている」

「ってことは、あのプラチナソルもやばくない?」

ダイゴの報告に、きららもちょっと不安そう。確かになんか親しくなりつつあるプラチナソルも向こうとグルでこっちに近づいてきてる、という考え方もあるもんね。

「どちらにしてもだ、今のままじゃ戦力としては不十分だよな? 特に新人ども!」

「ぎくっ!」

ネストの鋭いツッコミに鋭く反応するカズン。

「ビーコム開発メンバーならゲームのシステムくらいは熟知しとかないとな!」

「は、はひっ!」

ドスの入ったネストの囁きに、ガタガタ震えながら頭をカクカク縦振りするカズン。って、ネストったら私たちもしっかり睨んでるけど…?

「お前らも一緒だ! 自分の身は自分で守れるようにっ!」

「りょーかいっ♪」

「はいですぅ…」

ハッパをかけるネストに元気良く答えるきららと、思いっきりプレッシャーを感じながら答える私。やだなぁ、私、特訓とかって大の苦手なのに…

「まぁ強くなるって言っても、技を磨くか武器を揃えるかは人それぞれなんだが…」

私たち新人三人を見比べながらもちょっと考えこむネスト。

「じゃあ、私達女性陣はとにかく強い武器作りから始めなきゃね!」

「そうだ、それならいい武器があるぜ! 双剣ならやっぱ切れ味抜群、ツイン・カリバーン、だろ!」

きららの提案にすかさずアドバイスのネスト、へえぇ、いい武器あるんだ!

「カリバーン・ベアの牙がいるんだがね、モンスが強くても素材集めるのは早いぞ~」

「もちろん手伝ってくれるんだよね、ネスト団長?」

「お、おうっ!」

あれ? きららの問いかけに今ちょっと躊躇しなかった? 

まぁいいけど・・・


 というわけで、私たちは装備を揃えるためにカリバーン・ベアの討伐クエストを受注することに。

推奨プレイヤーレベルは上級以上、かぁ。私たちが行くにはけっこうきつい相手なんだろうけど、このゲームってレベル制限とかないから参加はできるのよね。勝てるかどうかは別問題だけど。

何の気構えもなく森に入ると危険なので、回復アイテムなどを揃えた上でネストに私たちがついて行く、というパターンで行くことに。

森といっても木は比較的まばらで動きやすいのがちょっと助かるかな、とか思ってたら、僅かな物音と異臭、もしかしてこれがカリバーン・ベアかな?

気づかれないように慎重に歩みを進めながら・・・いた!

「んなっ!?」

危うく声を出しそうになってあわてて口をつぐんだけど、それはもう巨大な・・・小山みたいな熊で…

「あ、あんなのと戦うわけ?」

「すっごい強そうだよ?」

私ときららはひそひそ話でネストに猛抗議。ため息ついでに肩をすくませたネストは

「だからあんま戦いたくなかったんだよ」

なんて愚痴ったり。とにかくこいつ、動きはそんな早くないけど体力とパワーが半端じゃないんだって。

一番危険なのが牙で、どんな強い防具つけてても紙みたいに軽々食い込んじゃうらしくて重装備剣士さんにはつらい相手、そのせいかダイゴはカズンとともに「別のモンスター狩ってくる」なんて言い訳で棄権しちゃったし・・・

「頭狙えるやつがいると楽なんだけどなぁ・・・」

ぶつぶつ言いながらも覚悟を決めたのか、自慢の大剣を構えて静かにカリバーン・ベアへと近づくネスト。

「あんま期待はできないけど・・・そっちで後ろ足狙ってダウン誘ってくれないか? 俺が正面につくから」

私たちにそっとアドバイス残して一気に真正面から突っ込む。

がうぅぅぅぅっっ!!

気づいたカリバーン・ベアはその巨体の後ろ足で立ち上がると大きく吼え、倒れ付すように上体を落としながらその勢いで右前足パンチをネストに!

するりっ!

かわしたの? と聞きたくなるほど微妙な進路変更でその一撃を僅差で右にかわしたネストは、右脇で剣圧をためていた大剣を豪快に横振りし、赤い閃光をベアの左頬に叩き込む。

ぐしゃっ!

刀身の半分までがその頬に食い込み、激痛にベアが喚く。そのまま左前足で払うようにネストを狙うが、当のネストは剣を振った反動をそのまま利用してころりん、と横転、軽々とその攻撃を回避する。

「すご…!」

あ、私たちもただ見とれてちゃダメだね!

きららと目で合図すると、私は右、きららは左からベアの側方に駆け寄り、気合をこめて双剣を体重ごと後ろ足に!

って・・・

わずかに血は出たものの、その攻撃の大半はベアの針金のような毛を何本か切り落としただけで効いた様子もない。

「ふえぇ、私の武器じゃ歯が立たないぃ…」

泣き言言ってる私の側を、ベアの後ろ足が掠め、慌てて私は飛びのく。けど地響きがひどくてちょっとふらふら。

きららはというと、ベアの足踏みをひょいひょいと、踊るようなステップでかわしている。なんかすごい身軽なんだ…

武器が弱いので大したダメージは与えてないんだろうけど、それでも果敢に攻撃をかけるきららに、ベアも手をこまねいているみたい。これぞまさしく、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」だね♪

ベアがきららに気を取られてる隙に、上段で気合いを溜めていたネストがベアの頭上目掛けて渾身の一撃。がっと頭蓋の割れる音がして、ベアが派手にもがき始める。

「はうっ!」

たまたま近くにいた私はその左後ろ足の一撃をまともに脇腹に受け…

ころりん、と転倒した弾みで気絶しちゃいました。


「エステル! 大丈夫か?」

慌てて私に駆け寄ろうとするネストも、暴れるベアの左前足に行く手を阻まれ、一時たたらを踏んで…次の瞬間、自分の目をしばたたかせてた。

ゆらり…

なにかのキレた私はゆっくりと立ち上がると、怒りに任せて手に持ったツインダガーに気合いを入れ、そのピンクの閃光は私そのものをすっぽり包み込んで

「な、何が起きたっ?」

呆然と立ち尽くすネストの横を血まみれのまましっかりとした足取りですれ違うと、私は一気にその怒りをベアに向けて解放!

光の塊となった私は体重ごと突き出した右手の剣の刃先はベアの巨大な目玉に根本まで突き刺さり、続く左手の剣はひび割れていた頭蓋に深々と食い込んで…

のけぞるように暴れるベア、私は左手の剣を軸にして振り落とされないようにしがみつきながら、素早く右手剣を引き抜くと、左手剣のすぐ隣に右手剣を力いっぱい突き立てた。その刃先は頭蓋の割れ目を寸分違わず通りぬけ、そして、脳を深々と貫いていた。

言葉にならない悲鳴を上げ、ベアは呆気なく絶命し…

私は再び気を失って…

あとにはただただ口を閉じるのも忘れたネストときららが立っていました。

・・・

「いたたた…」

ズキズキする脇腹を押さえて何とか立ち上がったものの…あれれ?

「カリバーン・ベア、どしたの?」

なんか息がないように見えるんですけど…

「い、いや…お前が…」

なんかネスト、ガタガタ震えながら私を指さしてるんですけど?

「きららちゃんもどしたの?」

完全に放心してるきららにも声をかけてみるけど、こちらは全く返事がない。なんかあったのかなぁ?

「…はうっ!」

ってか、二人の異変で我を忘れてたけど、やっぱ脇腹、痛いのね。我に返ってやっと気づいてたり。

「おっと、早く治療しないとお嫁に行けなくなっちゃうぞ!」

やっと落ち着いたネストがハイ・ポーションを取り出して私の傷口にサラサラっとかける。ある程度の大きさまでの怪我なら、これかけるだけでみるみるうちに傷口が塞がる便利アイテムなのよね~♪

程なく私の傷も痛みもなくなって、その頃にはきららもやっと我に返って。

「えっちゃんって…なんか凄すぎるよぉ!!」

本気で驚いてました。でもやっぱり自覚のない私。ネストに指摘されて自分のツインダガーを見ると…

「はにゃあぁぁ…」

べっとり血まみれ、しかも片方は派手に刃こぼれしててもう使えないね、って状態に。

「いや、うちの最強剣士はやっぱエステルだな。って、エステルはまだうちの団員じゃなかったか…」

納得しかけてちょっと残念そうな口ぶりに戻ったネストは、私の耳元でこう囁いたの。

「頼むからうちの団に入って副団長やってくれ」って。

そういえばこの間の黒ずくめの襲撃で副団長の一人、クラウスが死んじゃってたのよね。それ以来彼がキャラ復活したって情報もないし、もしかしたらプレイヤーさんまで死んじゃったのかな? 私もあんな状態でこっちに来たから無職の状態ではあるけど、どうしよ…

「まぁ、考えとくね」

とだけ答えてた私でした。

武器を新調するため武器屋に行くエステルたち、その彼女を待っていたのは、本人すら予想の付かない…でした。

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