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第五章・その二

大切な仲間と傭兵団本拠地を失った主人公たちは、新たな出発点を求めて逃避行を開始。

行く手に迫る敵との戦いが・・・

 隣街、クラトスまでの道は平穏無事とは行かなくて…

街を出るや否やのタイミングで私たちは新たな追っ手と出会うことに。

散発的な矢の雨を何とか振り切った私たちは、乗合馬車にも乗り損ねて広い街道を口を開くことも忘れてとぼとぼ。

もうすぐお昼時、ぼかぼか天気の一休みするにはもってこいの大木の下でも、どこに敵が潜んでいるか分からない以上うかつに休むこともできなくて、歩いた距離の倍は疲れちゃってる私。

「ふえぇ、隣街ってまだぁ?」

「文句言わず黙って歩くっ!」

弱音を吐く私にきららまでもが厳しい一喝、そういうのもけっこうショックです・・・

私たちのすぐ脇を、何台もの乗合馬車が通り過ぎていく。これに乗れてたら、とっても快適な旅になってたのにな。

「…来たな…」

「…来ただべ」

ネストとグレイが静かに目配せする。え? 敵ってどこ? ・・・あ、はるか遠くに右手の丈の高い草が揺れてるのがそうかな?

「こっちだ!」

ダイゴの先導に従い、私たちは左手の草原に隠れる。ちょうど背丈ほどの草は隠れるにはいいんだけど、茎が固くて手足につんつん食い込んで痛くて、ついつい私も涙がポロリ。

ううっ、でも泣いちゃダメダメッ! と自分を叱りつけ、私はじっと我慢。うん、私いい子いい子♪

しばらくじっとしてると敵はあきらめたのか動く様子も感じられなくなって・・・

「移動しただべ」

グレイの一言でやっと立ち上がることのできた私たち。

「ううっ、痛かったですぅ」

あらわになってて草の葉や茎で小傷だらけの手足をすりすり、道端に群生してた薬草のいくつかを摘み取って手で軽くすり潰すと、傷むところにぺたぺた。

「お前、意外と生活力あるのな」

しゃがみ込んで太ももの傷の手当をしてる私に、同じくしゃがみ込みながらカズンが変に感心してる。

そりゃあまぁ、花屋で薬草の勉強とかもしてたし・・・とか答えつつ、カズンの立ち居地に気づく私。

「…もしかして、見た?」

私のスカートはゴシックスタイルのミニ丈でふわっと広がるような作りになってるのね。だからしゃがみ方とか気をつけないと下着があっさり見えちゃったりするみたいで…

「…ちょっとだけ…」

あさっての方向きながら鼻をポリポリ、この様子だとカズン、ぱっちり中身見ちゃったのね?

「いやぁんっ!」

必死にスカートの裾を押さえながら、慌てて私は立ち上がる。顔がこれだけ火照ってるってことからしても、私の顔ってそうとう真っ赤になってると思うです。

「カズン、お前エステルのあれ見たのか? 羨ましいぞ、おいっ!」

「…団長のえっちぃ!」

思い切り悔しそうに叫ぶネストに、きららは冷ややかなジト目。ほんときららじゃないけど、男の人ってえっちなのですぅっ!

「でもあいつら、素直に退散したとは思えないんだけど」

真顔に戻ったカズンがボツリ。

「こっちの隙を伺っているのさ、そのうちまた仕掛けてくるぞ!」

無駄口を叩きながらも注意は怠っていないネスト、まだ敵の気配が分かるのかな?

「腹減ったなぁ、ここらで飯にしようぜ!」

妙に大声でそう言うと、敷物をその場に広げてネストが寝転がる。

「そうだな」

同じく寝転がるダイゴ、無警戒の振りして敵を誘ってる…のかな?

「おべんと作って来ればよかったね」

私がぽつりと呟くと、

「作らなくてけっこうですっ!」

見事にカズンときららの拒否コールがハモる。はうぅ、そこまではっきり拒絶されるとかなりショックだったり…

ぽりぽり…

何か歯ごたえの良さそうな音が、それほど離れていない場所から聞こえてくる。

ここで休憩してるのは私たちだけだから、メンバーの誰かが…ってグレイ?

「…なんだべ?」

懐から何やら取り出しては口に放り込んでいたグレイは、その様子をジーッと見ていた私に気づいてキョトン。といっても目の下のクマが妙に目立つ人だから、お世辞にもかわいいって表情じゃないんだけど。

「欲しいべか?」

グレイは懐からちょっと大きめの布袋を出して私に差し出す。それじゃ、ちょっと失礼して…

袋の中に手を突っ込むと、何やらビー玉くらいの固い玉がいっぱい詰まってる。そのうちの一つを取り出すと、焦げ茶色の…これって焼き菓子?

…ぱくっ…

恐る恐る口に入れると…

「なにこれ?」

焦げ味とともに何やら複雑な味のするよく分からないものだったり。

「保存食だべ、野草の種とか爬虫類の肉とかを混ぜて焼き固めたものだべ」

って…なんかゲテモノっぽい?

「ううっ、もういいです…」

次を薦めそうな様子に、私はちょっと遠慮しておく。

あれ?ネストたちの動き、止まってるよ?

「来るぞ!」

そっと、しかしよく通る声で私たちに囁くネスト。耳を澄ますと確かにがさがさと草を掻き分ける音がいくつも聞こえてくる。

「全部で十二人だべな」

「そんなとこ…だっ!」

足音で人数を聞き分けたグレイとネストは、互いにそれを確認し合うといきなりかばっと上半身を起こし、同時に短剣を投げる。

「ぎゃっ!」

2つの悲鳴が見事にハモり、追手の足音も大きく乱れ…

「お前らそれほどまでに死にたいのかよ…」

さも呆れ果てた、という表情を見せながらネストが立ち上がると、

「ひ、引けっ!」

自分たちでは敵わないと思い知らされたのか、黒ずくめのリーダーは部下を連れていそいそ退散していった。

「本気で逃げちまったみたいだな」

「そうだな」

呆れたかのように吐き捨てるネストに、ダイゴまでが相槌を打っている。これでほんとに安全…なのよね?

「とりあえず俺はあいつらの後つけてみるべ」

グレイはそう言うなり、静かに移動を開始。

「頼むわ、ただ無茶はするなよ?」

立ち去る影にネストは一声。ひょいと手を上げ、そのままグレイは草原の風に溶けて消える。

「空きっ腹のとこ悪いが、隣街まではもうすぐだ。このまま一気に街まで行こう」

ネストの提案に私達は少し重い腰を上げて、また歩き始めるのでした。

敵の正体を探るべく別行動を開始した仲間と、事件への対応に苦慮するゲーム運営陣。

彼らは何を求め、何を得ることができるのでしょう。

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