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白虎の宝玉  作者: 西都涼
芽吹の章
90/201

90

 その日、颱国は、夜明け前から国中が熱気に包まれていた。

 新年の大祭がもう間もなく始まろうとしている。

 それは、南部国境沿いに陣を置いている王太子府軍も例外ではなかった。

 あくまで簡略的なものという発表だが、上層部では何か驚くような計画を立てているらしいという噂が上ったが、それ以上のことは誰にもわからないようであった。

 それこそが、翡翠が風舞を舞うということであったが、翡翠本人が知られることを拒んだ為、関係者全員が口を噤んだというのが実情だ。

 兵達は、上層部の秘密の企画を心待ちにしていた。



 夜明けと同時に、舞手は身を清め、仕度を始める。

 古来からのしきたりである。

 早朝の最も清浄な空気と水で、邪を祓い、穢れなき身となり、舞を神に捧げるのだ。

 血の穢れを理由に、決して風舞を舞おうとしなかった翡翠が、ここにきて舞姫となることを引き受けたのは、舞う場所が王都ではなく、戦場であったからだと、熾闇はほぼ正確に理解している。

 戦場は世の理が正とはならない場所である。

 よって、血の穢れも、ここでは穢れとはみなされない。

 それゆえ、断る理由が見つからず、また、観衆が限られているということもあり、承諾したのだ。

 女舞を封じたとはいえ、翡翠は舞うことが何より好きなのだ。

 風舞を舞うことは、舞を嗜む貴族の娘の最高の栄誉であり、憧れである。

 どうしてそれを諦めることができようか。

 毎年、舞手の一番手に名が上がり、それを何度も断り続け、二番手以降の舞姫達に教えを請われる翡翠の辛さはわからないが、それでもこの時期の翡翠が人目のないところで憂いた表情を浮かべることを熾闇は知っていた。

 だからこそ、一言励ましてやるべきかと思い、彼は自分の天幕を抜け出し、従姉妹の許へと向かった。

 自分といるために、大好きな舞を封じる誓いを立てた従姉妹のために、彼は何かしてやりたかったのだ。


 草原を吹き渡る風が、心地良く頬を撫でる。

 風を司る神、白虎の御機嫌が、非常に麗しい証拠である。

 何よりも人の活気溢れる様子が好きで、特に楽と舞を愛する西の神が、この日、御機嫌斜めであったことは記録にはない。

 しかしながら、熾闇が物心ついてから記憶にある中で、今日ほど機嫌の良い日はなかったような気がする。

 早春とは言っても、まだ草原に若葉は見えない。

 なのに、風が薫るのだ。

 仄かに甘く、青く、若葉が芽吹く柔らかで優しい薫り。

 ありえない春の薫りに、さらに意外なモノまで見え隠れする。

 くすくすと楽しげに笑い合う風霊達の姿である。

 普段、滅多なことでは姿を見せない彼等も、主である白虎の機嫌が良いときには浮かれて姿を現すことがある。

「……妙だな。今日、何かあるのか?」

 実に上機嫌で、熾闇をからかうように彼の周りに集まってくる風霊達を見上げ、若者はぼそりと呟く。

「ま、いいか。悪いより良い方が、いくらかマシってものか」

 身も蓋もない結論を導き出した若者は、天幕の掛け布を捲り、中に入った。


 天幕入口の正面に、色鮮やかな布で作られた衝立がある。

 翡翠の天幕の中で唯一女性らしいと思える調度であるが、この衝立には幾重にも意味がある。

 颱の天幕は中をいくつもの掛け布で仕切る造りとなっているが、それが壁布であるのか、扉布であるのか、わからぬように衝立が隠しているのだ。

 また、敵が陣に侵入した際、この衝立に衛士が隠れ、敵が天幕へ入ろうとしたならば、そこから飛び出して侵入を防ぐという意味もある。

 中の灯りが外に見えないようにという目隠しの役割も与えられている。

 だが、そんな意味など、熾闇の前にはないも同然である。

 暇さえあれば足を運び、中を熟知している若者は、己の天幕のように傲然と案内も請わずに奥へと進む。

 この時刻、彼女の天幕に侍女達はいないと知っている総大将は、何も気にせずに水音が聞こえる方へと向かっていった。

 ぴしゃんと水が跳ねる音。

 清水で身を清めているのだと、彼はしきたりの知識と重ね合わせ、納得する。

「仕度は進んでいるか、翡翠──」

 つい、いつもの調子で呑気に声をかけ、扉代わりの掛け布を捲りあげて中に入ろうとした若者は、その場で立ち尽くし、絶句した。


 足許には夜の冷え込みを防ぐために毛の長い絨毯が敷き詰められている。

 木製の衝立には、水分を拭き取るための何枚かの布と肌着が掛けられている。

 そして、その向こうに大きな木桶があり、そこに手桶を手にした翡翠がいた。


 その場所は、翡翠のための沐浴所であり、彼女以外何人も立ち入ることがないという前提で設えているため、木製の衝立は彼女を隠すためにあるのではなく、あくまでも着替えを掛けておくためのものであった。

 無礼を働いたという自覚は充分にあるのだが、足が縫いつけられたように動かない。

 視線がその白い後ろ姿に吸い寄せられている。

 身を清めるために水を浴びていた翡翠は、その白い肌を晒していた。

 濡れた髪が艶やかさを増し、白い裸身に絡み付いている。

 まだ瑞々しい青さを残したすっきりとした後ろ姿を茫然と見つめていた熾闇は、迷宮にはまり込んだような気持ちで、ここが一体何処であったかを思い出そうとする。

 僅かな気配に気付いたのか、翡翠が肩越しに振り向いた。

「……我が君……?」

 ふっと吐息のように娘が呟く。

 その掠れたような低い声を、何故か熾闇は甘く感じた。

 黒々とした髪が絡み付いた白い後ろ姿は、しなやかであるけれど柔らかな曲線を描いている。

 自分とは全く違う造りだと認識したとき、そのまろやかな感触と優しく甘い薫りを思い出し、若者は我に返ると激しく動揺した。

「ああああっと! すまんっ!! 出直してくるっ!」

 頭に血が昇った状態で、それだけ言えたのは上等だったと、後から思い返した熾闇はそう思った。

 もっと他に言うべき言葉があったはずだとも考えたが、恐慌状態に陥っていた第三王子は、咄嗟に謝罪と挨拶の言葉を残し、くるりと背を向けると走ってその場から逃げ出した。

「……?」

 不思議そうに従姉妹が首を傾げていることにも気付かずに、彼は天幕を飛び出すと、その入口のすぐ横にずずっと滑るように座り込んだ。


 片膝を立て、心臓の上あたりの身頃を右手で握り締め、ぜいぜいと肩で息を吐く。

 頬が熱い。

 未だかつて、これほど慌てたことはなかったような気がすると、バクバクとすさまじい速度で波打つ心臓を宥めながら、彼はそう思った。

 薄暗い天幕の中で、白く浮き上がったしなやかな後ろ姿。

 あれほど綺麗だと思ったことは、今までで一度もない。

 実に困ったことに、最近、女性の裸身は何度も目にしている。

 自分が望んだことではないが、王宮の寝台にいつの間にやら裸身の姫君がいたことが何度もあった。

 その都度、鄭重にお帰り願ったわけだが、一度もそれが綺麗なものだと思ったことはない。

 確かに、見目良い姫君だったのだろうが、美しいとか綺麗だとかいう感情を抱いたことはない。

 なのに殆ど長い髪に覆い尽くされてはっきりと見えなかったというのに、白く浮かんだ後ろ姿をとても綺麗だと思ったのだ。

 よく知っているはずの翡翠が、まるで知らない初めて見る女性のようで、とても怖かった。

 否、怖かったのは自分自身だ。

 金縛りにあったかのように身動きできなかったことに感謝したいくらいだ。

 動いていたら、何をしていたかわからなかったのだ。

 何よりも大切で大事な翡翠を傷付けるような真似をしていたら、自分を赦せなくなってしまいそうだ。

 自分で制御できない衝動が、身の内に潜んでいる事実に熾闇は恐怖した。

 何から起こる衝動なのかわからないが、それが制御できない間は、絶対に翡翠に触れることはできない。

「どう、しよう……」

 彼女に触れることも、見つめることすら、もうできない。

 思い出すだけで、わけのわからない熱が湧き起こり、身体中のあちこちに飛び火するのだ。

 翡翠に先程の無礼を素直に謝って、舞姫役を頑張れと言わなくてはならない。

 ちゃんと言えるかどうかも疑問だ。

「どう、するかな……?」

「どうしたんですか?」

 ふっと周囲が翳り、不思議そうな声が頭上から落ちてきた。


 華やかな礼服に身を包んだ蒼瑛が、怪訝そうに熾闇を見下ろしている。

「そんなところで何をしているんですか? 上将」

「あ……翡翠の仕度が……」

 半分、上の空で答えた王子は、困ったような表情を浮かべていた。

「あぁ! もうそろそろ終わる頃ですね。それで待ってらしたんですか……成長しましたねぇ」

 納得したように頷いた蒼瑛は、何やらしみじみと告げる。

「あ?」

 後半の言葉に気付かず、前半のみに気を向けた熾闇は、空がすっかり明るくなっていることにようやく気付く。

 どうやらかなり長い間、この場に座り込んでいたようである。

 その間、誰にも見つからなかったのだから、運が良かったと考えるべきだろうか。

「何しに来たんだ?」

「もちろん、御支度が整っているかどうかの確認ですよ。できることなら、一番最初に麗しきお姿を拝見したいと思いましてね。熾闇殿がご一緒なら、確実ですね。さぁ、参りましょうか」

「あ、おいっ!」

 何事にも頓着しない男は、熾闇の腕を掴むと、彼を立ち上がらせ、そのまま引っ張って天幕へと入る。

「失礼! 軍師殿の御支度は整いましたか?」

 張りのある声が案内を請う。

「犀将軍と三の君様でございますか。どうぞ、こちらへ」

 竜胆と鈴蘭という名の侍女が、衝立の後ろから現れ、掛け布を捲ってふたりを奥へと案内する。

「かたじけない」

 軽く会釈をした蒼瑛の後を引きずられるように第三王子は続いた。


 床几に腰掛ける正装の舞姫がひとり。

 彼女が動く度に、髪簪がゆらゆらと揺れる。

 簪の飾り石達がぶつかり合って、得も言われぬ心地良い音が鳴り響いた。

「これは……」

 さしもの蒼瑛も、しばし夢見心地で絶句する。

 白い顔の目許と口許に刷いた紅が、何とも言えぬ艶を出し、ほんの少し流し見られただけでぞくりと鳥肌が立ちそうなほどに整った顔がそこにあった。

 普段の翡翠を知る者なら、絶対に別人だと言い張る程、化粧を施した娘は妖艶に見えた。

 だが、その身に纏う空気は何処までも澄んで清冽である。

 それは、天帝の遣いとして地上に舞い降りた天仙ではないかと、疑いたくなる。

「ごきげんよう、蒼瑛殿」

 にっこりと見事な笑みを浮かべて、風舞の舞姫が声を掛ける。

「うわぁ……怒ってらっしゃいますね」

「気のせいではありませんか?」

 翡翠の笑顔に剣呑な色を感じ取った青年は、少しばかり青ざめて応じると、美しい舞姫はにこやかに否定する。

「とてもお美しいと、申し上げてもよろしいか? どんな賛美の言葉も陳腐に聞こえてしまいそうですので、それ以上は言葉にしたくありませんが」

「その言葉は、舞の後で聞かせて下さいませ。じき、始まるのですか?」

 演技上手な青年の言葉に半分も耳を貸さず、娘は聞きたいことだけを口にする。

「まだしばらくは、時間がございます。舞の刻限は、侍女殿が案内されるよしに」

「わかりました」

「では、後で」

 笑顔で一礼した青年は、あっさりと身を翻し、去っていく。

 残された王子は、ただ呆然と立っていた。


 今までこれほど気まずい思いをしたことがあっただろうかと、熾闇は長くない人生を振り返って考える。

 沈黙がやたらと重い、一方的に。

 背中が緊張で強張っている。

 翡翠が怖いわけではない。

 ただ、そう、ただ、うしろめたいだけなのだ。

 何に対してそう思うのかがよくわからないが、何とも言えぬうしろめたさが彼を襲い、がんじがらめに縛り上げている。

 強いて言えば、翡翠を侮辱してしまったと、そう思っている感じがする。

 わけのわからない罪悪感が、その身を包み込んでいる。

「我が君、熾闇様。どうなさいました? 先程から静かになさっておられますけど」

 のんびりとした口調で、翡翠が声をかける。

 その声に、熾闇はびくりと肩を揺らした。

「あ……いや」

 彼女に不信感を与えてはいけないと、頭ではわかっていても、身体は感情に素直に従う。

「先程は失礼いたしました。気付かずに申し訳ございませんでした」

「謝るのは、俺の方だ。無礼を働いたのは、俺だ」

 翡翠と視線を合わせられなくて、目を逸らしながら、熾闇は謝罪を口にする。

 王族が簡単に謝罪を口にしてはと言う者もいるだろうが、己の不備を自覚している若者は、人として正直に謝罪するべきだと考えているようだ。

「悪かった……」

「無礼と仰られても、わたくしには何のことやら……」

 傍に控えていた侍女達に目配せをして、退出を促した娘は、主の言葉に怪訝そうに首を傾げる。

「だからっ……沐浴、してるところを……その、足を踏み入れる真似なんて」

 言いにくそうに、だが、懸命に言葉を探して告げる王子に、翡翠はようやく合点がいった。

「そのことでしたか……別に気にしておりませんが? 寝台に潜り込まれるとか、着替え中に足を踏み入れられるとか、ふざけて抱きつかれるとか、それこそ日常茶飯事でございますのに、沐浴中に来られたくらいで不快に思ったり致しませんが」

 あっさりとした口調で答える翡翠の言葉の内容に、熾闇はひたすら反省した。

 よく考えなくても、一般的に女性に対して無礼の限りを尽くしているとの結論が簡単に導き出せるような行動の数々である。

 翡翠は翡翠だからと考えていた自分が情けない。

 彼の幼馴染みの従姉妹は、妙齢の女性なのだ。

 今まで全く気付かなかったことに、ここに来て突然気付いてしまった若者は、深々と溜息を吐く。

「……重ね重ね、すまなかった」

「三の君様は、ありがたくも翡翠のことを『親友』と呼んで下さいます。もうひとりの、最も信頼できる『自分』だと。その親友に対しての無礼とは、心ない偽りを告げることではございませんか」

 しゅんと小さくなって謝る熾闇に、翡翠は穏やかに告げる。

 その言葉に、若者は顔を上げた。

「わたくしの記憶では、そのような偽りを仰ったことはございませんが?」

「翡翠……俺が言いたいのは、そういうことではないぞ。人として、おまえに対して無礼を働いたことは事実だろう」

 気に病まぬように、微妙に話をずらそうとする娘に対し、若者はあくまで生真面目に応じる。

 人として、ではなく、翡翠という女性に対して、無礼を働いたのだと、思っていることに彼自身が気付いていない。

 自分の視点が変わってしまったということに気付かない熾闇は、無意識のうちに辻褄合わせをしようとしている。

「わたくしが、気にしていなければ、無礼ではないのではありませんか? それでよしとしてくださいませ」

 穏やかに微笑んで話す幼馴染みに、若者は不承不承頷いた。

「おまえがそれでよいというのなら、俺には言うことはない。礼を失した振る舞いをしてしまったのは、俺の方なのだから」

「では、問題ありませんね。では、先程のご用件につきまして、お尋ねしてもよろしゅうございますか?」

 笑顔を保ち、柔らかく問いかける舞姫の言葉に、若者は、ごくりと息を飲みこんだ。

 今までのことですっかり忘れてしまっていた。

 そのことを思い出し、熾闇は照れ臭そうに笑う。

「いや、大したことではない。その、おまえのことが気に掛かって、な……緊張しているんじゃないかと思ったりして様子を見ようかと……」

「そう、でしたか……」

 驚いた様に瞬きを何度も繰り返した翡翠は、返す言葉を探しあぐねる。

 心優しい従兄弟が、彼女を心配して見に来たとは、さすがに予想していなかったのだ。

「その心配は無用だったな。翡翠なら、王都での舞台を難なく務められるだけの力量があるんだ。軍内部の仮祭では物足りないくらいだろうな」

「いえ。緊張しておりました。何処で舞おうとも、神に捧げる奉納舞ですから、畏れ多く、恐ろしゅうございます。先日より、できれば逃げ出したいと思っておりました」

「……そんな風には見えない。いつも通り、充分落ち着いているように見えるぞ。それに、白虎殿の前で何度も舞っているじゃないか、同じことだろう?」

「違うものなのですよ。手が震え、足が竦みます。縋るもの、祈るものがございますゆえ、何とか表面上は平静を保てておりますが」

 すっと、娘の手が伸ばされる。

 差し出された手を握った若者は、かすかにその繊手が震えていることに気付いた。

 その頼りなさに、思わずギュッとその手を握り締める。

「翡翠なら大丈夫だ。俺も、白虎殿も、おまえの舞が大好きだ。翡翠が憂いなく、心置きなく舞ってくれるだけで充分だから。おまえは、おまえの好きな舞を心のままに舞えばいい。最後まで、ちゃんと俺が見てるから」

「──そう、ですね。頭ではわかっていたのですが、ようやく……ようやく、落ち着きました。もう、大丈夫です」

 舞姫の肩から力が抜け、握る熾闇の手をそっと握り返してくる。

 その手の震えはもう止まっていた。

「うん。大丈夫だな」

「はい」

 安堵したように頷いて、翡翠の手を放すと、娘は首を傾げるように頷き返す。

 しゃらん、りぃーんと、髪簪の飾り石がぶつかり合い、澄んだ音色を響かせる。

 何処か幻想的な音色に、熾闇は柔らかな笑みを浮かべる。

「じゃあ、もう行くな。さっさと儀式すませて、舞台の正面で待ってるから」

「はい」

 頷く翡翠の髪簪が、澄んだ音色を周囲に広めていく。

 従姉妹に背を向け、歩き出していた第三王子は、ふと立ち止まり、振り返る。

「翡翠」

「はい」

「不本意かもしれんが、その衣装、やっぱり、よく似合っているぞ」

 それだけ言うと、照れたように頬を染め、王子は足早にその場を去った。

 それゆえ、彼は従姉妹の笑顔を見ることはなかった。

 本心からの嬉しそうな笑みを浮かべた娘は、ゆったりと立ち上がり、典雅な仕種で典礼最上級の礼を施し、唯一無二の主を見送っていたのだ。

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