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白虎の宝玉  作者: 西都涼
来訪者の章
191/201

191

 会議は出立前日に王太子府内で執り行われた。

 本来であれば、非介入であるはずの神族が軍師となり、一国を焚き付けての軍事介入。

 赦されざることだが、焚き付けられた国にも咎はある。

 そこを踏まえての戦がこれから続くとの説明を受け、将軍達にも動揺が広がる。

「神族が万能でも何でもないということは、この身で知りましたけれどね。あまりにも大人気ない」

 呆れたような態度を崩さないのは、犀蒼瑛である。

 韓聯音も同様に呆れたような表情を浮かべて頷いている。

「大人気ないという一点については、賛同するぜ。ありゃあ、力だけを持ってるただのガキだ」

 突如として現れた不審な軍師に迷惑を被った男は、にべもなく言い切る。

「翰も馬鹿だよな。うまい話にゃ裏があるってわかってながら、ついつい乗っちまうんだからなぁ」

「それを言われると、凡人としては耳が痛いですな。怪しいと思っていても、乗らざるを得ないこともありますゆえ」

 利南黄が、苦笑して翰を庇うような発言をする。

 別に庇っているわけではないのだが、己を凡夫だと自覚している男から見れば、心情的に理解できることもあるのだろう。

「それで、先方の作戦としましては、以前と同じく翡翠殿一点狙いでしょうか?」

 あからさまに溜息を吐いて、青牙が問いかける。

「……おそらく。大変わかりやすい作戦で、わたくしとしても大いに助かっておりますが」

 くすくすと楽しげに笑いながら、軍師は柔らかく頷く。

「我が軍が軍師をひとり失ったからといって総崩れになるような軟弱な軍だと思われているわけですか」

 むっとした様子を隠さずに、青牙が告げる。

「思ってるんじゃねぇな。そう思い込みたいんだよ、王子」

 王族に対してもぞんざいな口調を崩さぬ新入りの将軍が、歳若い王子を好ましそうに眺めながら答える。

「敵が強ければ強いほど、たいしたことないんだと思い込みたくなるもんさ。ましてや、この軍は旗印がきっぱりとふたつあるってことがわかってる。それさえ崩せば、楽勝なんだと自分達より下に思いたくて、事実を歪めちまうんだよ」

「それこそ愚かな驕りというものでは? 戦わぬことが最大の戦略であることなど、わかっているだろうに」

「そいつぁ、治めるやつが馬鹿だからさ」

 実に簡単な結論を口にした男の言葉に、第五王子は脱力する。

「あなたの言葉は誠に得難い、韓将軍。紅牙に聞かせてやりたいよ」

 生真面目な王子は、深々と溜息を吐く。

「あぁ、あんたと同じ顔の王子さんか。顔は似てるが、中身は全然違うのな。よく俺の執務室に来るぞ」

 呑気な口調で答えた聯音に、青牙は目を瞠り、横を向いた翡翠が肩を揺らして笑っている。

「紅牙があなたの処に!? それより、見分けがつくんですか!?」

「あ? 中身は全然違うし、顔も、よく見れば微妙に違うよな」

「すごいな、あなたは。三の兄上と翡翠殿以外は、母上でも見分けがつかないと仰るのに……」

 その言葉に、聯音と熾闇が顔を見合わせる。

「見ればわかるだろ?」

「なあ」

 実に不思議そうな口調で互いの思うところを口にした瞬間、今まで堪えていた翡翠が耐え切れずに噴き出す。

「し、失礼。話を元に戻したいのですが、よろしいでしょうか?」

 袖で口許を覆い隠しながら、そう切り出すが、どうやら笑いのツボにはまってしまったらしく、どうにも堪えきれないようだ。

「翡翠。潔く爆笑した方が青牙にとって親切だと思うぞ」

 弟を庇うべきところを、兄は従妹に向かって止めを刺す。

「四の君様と五の君様は、もう似ていらっしゃいませんよ」

 目の縁に溜まった涙を指先で拭いながら、翡翠がそう切り出す。

「別々で見れば、間違うかもしれませんが、並べて比べれば、一目瞭然ですよ」

「え?」

「ここ数年、青牙様は草原に出て陽を浴びておられます。一方、紅牙様は王宮内で執務をなさっておいでです。肌の色も骨の太さも、異なっておいでですよ」

 その言葉に、一斉に第五王子へと視線が集まるが、すぐに納得したように皆が皆、頷いて視線を元に戻す。

「納得いただいたようですので、本題に戻りましょうか」

 笑いを収めた軍師は、これからの方針について、細々と話し出した。

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