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白虎の宝玉  作者: 西都涼
神将の章
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 徹底して動きを読まれないようにと、それぞれが連携せずにばらばらに攻撃を加える。

 名案に思えたそれも、長くは続かなかった。

 単独で攻撃をしているつもりでも、無意識に連携を取ってしまう。

 そのことに気付いた翡翠はうっすらと微笑む。

 先代の守護者の記憶の中を探っても見知らぬ顔がいくつかある。

 若手の者がそうだ。

 不老不死と言われても、実際そうでないことは翡翠自身がよく知っている。

 十二神将も代替わりしているのだ。

 気の遠くなるような時間の中で、麒麟が登極するために天界へ昇ると必ず最初に馳せ参じるのが十二神将であった。

 天界を守護し、天帝に仕える十二神将は、麒麟が天界へ辿り着いた時点で彼の者を新しい天帝と認める。

 そうして、現天帝に弓引く者となり、至高の座を麒麟に渡すのだ。

 かつて、何度も共に戦った者達。

 戦友といってもよい武将達だ。

 例え代替わりしたとしても、その戦い方、気性、すべてを引き継いでいる。

 懐かしさゆえに、あまり怪我をさせたくないと思っていたのだが、ここらが潮時なのだろうと、翡翠は目を細める。

 あまり熾闇を待たせてはいけないことを熟知しているからだ。

 絶対守護の結界を張ったものの、麒麟がそれを拒否すれば、結界は解ける。

 三界一の強度を誇る結界といえども、主の意向には逆らえないのだ。

 そして、熾闇は護られることをよしとしない性格だ。

 待たせすぎれば、自分から飛び出てくることは必定だ。

 この結界の中は、外と時間の流れが異なる。

 例え、この中で数日間に渡って戦ったとしても、結界の外では一刻も経っていないのだ。

 時間を操れるのは、風を司る白虎族のみだが、四神の加護を受け、三界最強の神力を誇る麒麟の守護者にもまた同様の能力がある。

 だが、このことは一般的に知られてはいない。

 伏せられた能力であるからだ。

 結界の中では、結界を張った者が主だ。

 その主が作った規則から外れることは容易ではない。

 白虎がお気に入りの草原に被害を出したくないという気持ちと、力場を得るために十二神将が気付くよりも早く結界を張った。

 彼らが思っているよりも遥かに繊細に編み上げられた結界は、少しずつであるが彼らの力を削ぎ落とし、そうしてその分が翡翠へと流れ込むように作られている。

 その事実に気付かぬように、色々と仕掛けを施していたが、それすら必要なかったかと、苦笑を浮かべる。

 手にした様々な得物が麒麟の守護者の命を狙ってくる。

 休む時間を奪い取るような波状攻撃のように見えて、攻撃の順番が常に同じなのだ。

 それさえ読み取れれば、避けるのは楽である。

「この……っ!! ちょこまかと……」

 まるで舞を舞っているかのように僅かな脚捌きで得物から避け続ける翡翠に痺れを切らしたらしい十ノ将以下の若者たちが、今までの考えを捨てて、連携を取ることに決めたようだ。

 目配せで合図を送る彼らに、翡翠は冷静に対応する。

「結界さえ、解ければ……」

 自分達の動きを妨げる結界に、十二ノ将が毒づき、そうして跳躍する。

 向かった先は、結界の天井端近くであった。

「馬鹿正直に守護者殿と戦う必要なんてないよなぁ……この結界破って、先に麒麟と対面ってありだな」

 どうあがいても、このままでは翡翠との戦いに勝利できぬと悟った彼は、若さゆえの短絡さで結界の目に見えぬ壁を壊そうと試みる。

「止めよ! 末の……!!」

 年長の一ノ将が、叫ぶ。

「へ?」

 切羽詰ったような声に振り返った十二ノ将は、その次の瞬間、己の右肩を襲った熱に目を瞠り、地へと落ちた。


 受身することも叶わず、背中から無防備に大地に叩きつけられた十二ノ将は、右肩を襲った熱が激痛であり、骨が砕けるほどの傷を受けたのだと肩を貫通した血塗れの槍の穂先をぼんやりと眺めてようやく気付く。

 自分を襲ったのは、違えることなく麒麟の守護者だろう。

 守護者は、麒麟を護るために非情になると何度も先達達に注意されていたことを思い出す。

 絶対に守護者の許可なく麒麟に手出しをするなと言われていたことを戦いに高揚し忘れていた己の失態である。

 人であれば、すでに泰山へ一直線であっただろうが、幸か不幸か肉体が強靭であり、また回復力も並外れている神族の武神将であったがゆえに、一命を取りとめ、そして猛烈な勢いで肉体が回復に向かっていることを十二ノ将は実感する。

 今は立ち上がることも出来ないが、完全に回復するまでには時間が多少かかるが、それでももう間もなく動くことだけはできるだろう。

 そうして、守護者が手加減してくれたことにも気が付いた。

 遠慮なくあの細腕で肩の骨を砕くだけの力量の持ち主なら、一撃で急所を狙えたはずだろう。

 肩を護る鎧の上から槍は肩を貫通したのだから。

「末の!! 大事無いか!?」

 ざっと草を踏みしめる音と共にすぐ上の十一と十の武神将が現れる。

「あ……あぁ。手加減してもらえたようだ……しばらくは動けんが……」

 痛みを堪えながらぼそぼそと告げれば、怒りに染まったふたりから闘気が湧き上がる。

「よくも、我らが弟分を……」

 そう唸った青年達だが、すぐに戦意を喪失してしまった。

 槍を手放し、剣を手にした麒麟の守護者がこちらを見ていたからだ。

 白く美しい面には何の表情も浮かんではいない。

 浮かんではいないが、その身にまとう闘気が尋常ではなかった。

 先程とは比べ物にならないほど激しい怒りを漂わせている。

 護るべき麒麟に手出しをされる時、守護者はその真価を発揮する。

 三界に並ぶ者なき比類ない力を持つその強さを存分に見せ付けるのだ。

 ゆえに、くれぐれも守護者の許可なく麒麟に手出しするなと上の将たちに言われたのだ。

「わたくしとは遊ばず、先に主にお会いしようとは、些かつれないのではございませぬか?」

 嫣然とした笑みを浮かべ詰る姿は、その美しい容姿とあいまって非常に魅惑的である。

 だがしかし、纏う空気は凍てついた怒りを含んでおり、心底怖ろしいと身が竦む。

「わたくしと遊ぶつもりでわざわざ人界へと参られたのでしょう? お相手してくださらないと……」

 女性にしてはやや低めの麗しい声が誘いをかける。

「十二神将全員、この場で代替わりしていただきましょう」

 あまりにも不穏すぎる言葉に、彼らは目を剥いた。

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