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白虎の宝玉  作者: 西都涼
神将の章
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 得物を手に、一斉に踊りかかってくる十二神将を黒髪の美姫は難なくかわす。

 ほんの僅か、紙一重で見切り、無駄な動きすら見せずに避けてしまった守護者に、十二神将は太い笑みを浮かべる。

「器が変わっても、その実力は以前のままとは嬉しい限り……」

 年長者の青年がそう呟けば、年若の者たちの表情は僅かに厳しく変わる。

「……わたくしが変わらぬのではなく、そちらが弱くなられたのでは? 手応えが弱すぎますが?」

 退屈そうな表情でうんざりしたように告げる娘は、肩にかかった髪を手の甲で打ち払う。

「この程度では、何千年経ってもわたくしの主にはお目通り叶いませんよ」

「くっ!!」

 頭に血が上ったらしい年若い青年が踏み込んでくる。

 それを手刀で手首を鋭く打ち据え、剣を奪い取った娘は左手でその剣の柄を掴み、剣先を青年の鼻先に突きつける。

 利き手は右手のはずだが、左手でも不自由なく使えるのだと暗に示した翡翠は、その剣を誰もいないほうへと放り投げる。

 息の根を止める機会を得たはずなのに、それを敢えて無にした意味はどこにあるのか。

 かつて守護者と共に戦ったことのある年長の者達は慎重に見極めようと様子を窺う。

「かかってこないのですか? それではわたくしから参りましょう」

 槍を構えた娘が漢臭い笑みを浮かべ、覇気を冷気へと変質させる。

 底冷えのする風が吹き荒れ、空気すら白く凍えさせる。

 銀虎を率いるために白銀の鎧を身に着けていた翡翠は氷の精霊と紛おうばかりに麗しい。

 力の強さがそのまま容姿に反映される人外の者において、例外中の例外と称される三界最強の麒麟の守護者だが、その歴代において最も美しい容姿を持つひとりだと言えることは、十二神将たちの眼差しからわかる。

 守護すべき麒麟を背にした守護者ほど強い者はない。

 それが嫌ほどわかる。

 麒麟とその配下の者達を護るための三界最強の守護結界と、己が戦うための結界を築きながらも守護者はまだ闘気を抑えている。

 抑えていながらも、十二神将たちよりも遥かに強大な闘気が彼女の周囲に渦巻いているのだ。

 そうして、その闘気に本来なら足許に生えている草達も瞬時に焼き尽くされるはずなのに、彼女はそうならないように気を配っている。

 桁違いだと、その力量にわずかばかりの怯えを覚えた中程の神将たちが後退り、逆に年少の神将たちが前に出る。

 ざりっと土を踏み躙る音と共に翡翠が前に打って出た。

 鎧の光を弾くように銀の光沢を見せる黒髪が宙を舞う。

 ゆったりとなびいているはずなのに、舞を舞っているように緩やかな動きに見えるのに、その手許、槍の動きは光の残像としか目に映らない。

 防戦一方に追いやられ、しかも、完全に防ぎきれず、衣服が裂け、肌に血が滲み出している始末だ。

 一対十二という圧倒的数の不利にもかかわらず、守護者の口許に刻み込まれた微笑はまったく変わらない。

 余裕の笑みと同じく、数の差も不利になっていないことが、よくわかる。

「何だ、この強さは!? 一ノ将、どうなってるんだ!?」

 たまらず、最年少の十二ノ将が最年長に問い質す。

「だから、甘く見るなと最初に言っておいただろう? どのような姿をしていても、三界最強の名は見掛け倒しではないと」

 楽しげに最年長の青年が笑って答える。

 実際、彼は嬉しいのだろう。

 天界を守護する十二神将は、四神族の長達以外に負けることはない天界最強の武神将軍たちである。

 その最年長ともなれば、滅多なことで負けることはない。

 例え魔族が襲ってこようとも一瞬で片が付くだろう。

 天界を護る強さを持つ彼らには、脅威を抱くほどの敵は現れない。

 ところが、この目の前にいる麗しい姿をした娘一人に、十二神将すべてが全力を懸けて挑んでも互角どころか歯が立たないのだ。

 肩を並べて戦ったこともある彼には、何度も生まれ変わりながらもその強さを維持できる守護者と対峙することほど楽しいことはないのだろう。

「策はないのか!?」

 十ノ将が歯噛みするように唸る。

「ないな。守護者は、三界一の知恵者でもある。策なぞ考えたほうが無駄だ。むしろ、自滅させられるぞ」

 ニノ将が肩をすくめて告げる。

「じゃあ、どうするつもりなんだ」

 十一ノ将が不機嫌そうに年長者達を睨みつける。

 これほど頼りにならないと思ったことはないのだろう。

「ばらばらに動いた方が、動きを読みにくい。それだけだ」

 一ノ将が端的に指示する。

 年上の青年達がその言葉に尤もらしく頷いて同意をし、年下の者達はそれに従うことに決めた。

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