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白虎の宝玉  作者: 西都涼
蠢動の章
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 鮮やかな青が空を染め上げる。

 雲ひとつない快晴。

 その中でひときわ鮮やかな赤紫の癖毛が揺れる。

「皆、よく眠れたか?」

 馬上から朗らかに声をかけると、兵達の中から明るい笑いが漏れる。

「今日は俺が指揮を執る。大暴れしてもいいぞ!」

 陽気な声音に笑いが大きくなる。

「総大将殿も暴れるのでしょうか!?」

 気安い声がおどけたようにかかる。

「う~ん」

「今日は指揮だけですよ」

 くるりと闇色の瞳を廻らせた熾闇の背後から、すっと姿を現した翡翠が穏やかに制する。

「……だと」

 残念そうに肩を落として溜息交じりに告げる若者に、どっと笑いが起こった。

「さぁ、隊列を整えてください。今日も燕を驚かせてやりましょう」

 悪戯っぽく微笑む美貌の娘の言葉に、騎兵達は笑みの種類を変える。

「総大将に我らの忠誠を」

「御意」

 漲る覇気を胸に愛馬を駆って、彼らは隊列を整える。

「……さすがだな」

 たった一言で兵達の気持ちを切り替えた翡翠の手腕に、熾闇は素直に感心する。

「いえ。三の君様がいらっしゃればこそ、ですよ」

 熾闇が気軽に兵達に声をかけ、気を安らかにさせていたからこそできたことだと翡翠は応える。

 信じるに足る相手が後ろで控えて見つめている。

 それがどれだけ力になるか、おそらく熾闇にはわかるまい。

 熾闇が王になろうともならぬとも、颱は栄える。

 国の中枢に彼がいる限り、彼に見守られることに安堵して、民は自分の力を能力以上に発揮できるのだから。

「さあ、行くぞ!」

 前線に立てることを喜んでいる若者は、実に嬉しそうな声を上げ、周囲の微笑を誘った。




 昨日とも雰囲気を異にする颱軍の様子に、燕は戸惑いを隠せない。

 何度戦をしても、毎回、策も雰囲気も違ってくる。

 これでは、こちらが策略を練っても意味がないとすら思えてくるから不思議だ。

 そう思わせることで士気を低下させる狙いがあることは確かだろうが、やはり苦々しい。

 しかしながら今日の原因はすぐにわかる。

 純白の武将がいるせいだ。

 鎧兜は勿論だが、鎧を繋げる飾り紐や頬紐、馬に至るまで総てが白。

 白は颱の貴色。

 白虎神を敬う彼らが、神の色と定めた色彩を全身纏えるのは王族のみである。

 つまり、総大将の第三王子なのだと、誰もがわかる。

 そうしてその隣に翠を纏う女武将が寄り添えば、それは確信に変わる。

 碧軍師と呼ばれる颱の王太子府軍副将は、その瞳の色と同じ軍装を好む。

 翠は草原を表し、碧は知識を表す。

 優しげで柔らかな、それでいて凛とした美貌からは想像できない知略を組み立てる彼女には似合いの色だ。

 同じ年の主従は寄り添い合い、しっかりとした表情で前を見据えて穏やかに言葉を交わしている。

 戦場にあり、まるで王宮にいるかのように普段通りの表情を崩さずにいるふたりがどれだけ相手を信頼しているか、その表情だけでわかる。

 精悍で端正な顔立ちの王子が朗らかに何かを言えば、玲瓏たる美貌の軍師が穏やかに微笑んで頷く。


「あれが、颱の王子か……」

 本陣の床机にどっかりと腰を据えた韓聯音は、そこから見える颱の主従の様子にぼそりと呟く。

 目には見えない、だがお互いが顔を背けていてもしっかりと繋がる絆が見える。

 それは寄り添わず、離れていても同じだろう。

 顔を見合わせなくとも、互いの呼吸が隣にあるように理解できる確固たる絆の深さ。

 自分の能力を信じ、相手の能力を信じるからこそ、すべてを委ねる余裕や鷹揚さがそこにある。

 聯音が望む主の姿がそこにあった。

「なるほど。あれが、颱の王子か……」

 能力だけではない、そうして覇気だけではない、それらを総て含んだ何かを秘めていそうな若者の伸びやかな姿。

「賭けて、みるか」

 何かを企んだ悪戯っぽい光が聯音の瞳に浮かんでは消えた。

 そうして彼は采配を手に立ち上がる。

「目の前の敵を叩き潰せ! 前進!」

 総大将に相応しい大音声で大軍に命じる。

「前進! 突撃!」

 燕軍が緩やかに動き出す。


 戦の第二日目が始まった。

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