クリスマス特別偏「聖誕祭と七面鳥」
リハビリ
始まりは、ある意味いつも通りであった。
「今日はクリスマスイブだぞお前ら!」
執務室の扉を開け放つなり、ソラトはそう言った。夜を閉じ込めたような黒い瞳が、今は満点の星空のように輝いている。
その妙に楽しそうな姿に、部屋の中に居た人間が一様に怪訝そうな――あるいは不安そうな――顔をする。
「……クリスマスってなんだい?」
始めに口を開いたのは、今日も書類と格闘していたイザベラだった。勿論この世界にクリスマスなど無く、当然この世界の住人である彼女は、クリスマスを知らない。
「馬鹿どもがサカる日よ」
答えたのは黒髪の少年ではなく、黄金の髪と碧玉の瞳を持つ少女――シュトリであった。長椅子にだらしなく腰掛けていた彼女は、美しい顔を歪めて吐き捨てる。どうやらあまり、クリスマスに良い思い出が無い様子。
「それはちょっと御幣があるんじゃないかな」
そう苦笑するのは、カイム。確かに日本では、クリスマスは恋人がデートする日と化してしまっているが、本来はイエス・キリストの降誕を祝う日である。
カイムからクリスマスの概要を聞き終えたイザベラは、納得したように頷いた。
「要するに、聖人の誕生祭ね。こっちでも、似たような祭はあるけど……そういえば、明日はバクストンの聖誕祭か」
バクストンと言うのは、ルイゼンラートで讃えられる聖人の名である。その誕生を祝うのが聖誕祭。そしてやっぱりこの世界でも、その日は若い男女の落ち着きがなくなるらしい。
「そう、それだ」
我が意を得たり、とばかりにソラトが頷く。
「そしてこっちでも、クリスマスには七面鳥を食べるそうじゃないか」
「……食べたいんだね」
どうやら本題はそこらしい。クリスマスと言えば、七面鳥。日本ではあまり馴染みが無いが――いや、だからこそ彼は食べたいと言い出したのだろう。
「聖誕祭は明日よ?」
「だから、今日はイブだろ?」
「……ああ、前日も祝うのね」
イブの意味を察してイザベラが嘆息する。ちなみにイブは本来「前夜」の意味であり、「前日」ではないが――まあ、大体同じである。
「……しかし参ったね。流石に七面鳥は扱ったことが無い」
困ったようにカイムが呟く。今日の食事は、彼女が作る予定だった。既に献立も決めて、材料も用意してあった。にも拘らず、土壇場でのメニュー変更である。それでも彼女が苛立ったり、不平を零したりしないのは、この程度の我侭ならば慣れっこだからだろう。
「――でしたら、私がご用意したします」
そう言ったのは、これまで無言を貫いていた少女、エレンである。農村暮らしの彼女は鶏や山鳥の類を捌いたことがある。七面鳥も同じ要領で出来るだろう。
「そうかい? なら、必ず一羽丸ごと焼くようにね」
この中で、ソラトの言う「七面鳥」を正確に把握しているのはカイムとシュトリだけである。つまり、ソラトが言っているのは、丸々一羽のローストターキーであり、七面鳥のトマト煮込みだの、ターキースープだのを出した日には、「コレじゃない!」と不機嫌になること請け合いである。
「畏まりました」
言ってエレンは一礼すると、部屋を出ていく。主の我侭に嫌な顔一つしない彼女の健気さに、カイムは小さく嘆息した。そんな彼女達の苦労を省みる様子もなく、ソラトはイザベラの邪魔をして遊んでいた。
「ごめんなさい。それは出来ません」
屋敷を出たエレンが向かったのは、王都郊外にある農場だった。ここでは王都で消費される、鶏や豚などの家畜が飼育されている。そしてその中には、七面鳥も含まれていた。しかし七面鳥を買い求めた彼女の言葉に、害獣避けの柵に寄り掛かりながら、牧場で働く若い男は首を横に振った。
「ウチの七面鳥は、みんな売約済みなんです。多分、他所も似たようなものだと思います」
「そうですか……」
当然と言えば当然のことであった。聖誕祭では皆が七面鳥を食べるのだ。確実に材料を確保するためには、前々から予約を入れる必要がある。
エレンは唇に指を当てて思案する。思い悩む彼女の姿は、可憐といって差し支えないものだった。しかし忘れてはいけないのは――彼女が犯罪ギルド〈百鬼夜行〉の人間であり、ソラトの狂的な信奉者であるということだ。彼女にとって、ソラトの言葉は全てに優先する。そしてその願いをかなえるためなら、どんな手段も厭わない。彼女が悩んでいるのは、どうやって七面鳥を手に入れるか――つまり盗むべきか、あるいは脅すべきか、はたまた力ずくで奪い取るべきか、である。
「聖誕祭、毎年忙しくて見に行けないんですよね……まあ、一緒に行く恋人なんていないんですけど……」
目の前の若い女性客が、そんな物騒なことを考えているなど露知らず、青年は遠い目をして愚痴を零している。人間の都合など、家畜や作物には関係がない。農場で働く青年は、祭の当日も仕事が約束されているようであった。
「クラウス!」
「やあ、キャシー。どうしたんだい?」
暗い顔をする青年――クラウスに、ここの従業員だろう若い女が駆け寄っていく。
「大変よ! 厩舎に七面鳥が一羽もいないの!」
「な、なんだって!?」
慌てて駆け出す青年。その後をキャシーと呼ばれた女が続く。置いていかれた形になったエレンは、少し考えて二人の後を追った。盗むも奪うも、目的の品がなければ話にならないからだ。
「そんな……」
そしてエレンが見たのは、空っぽの厩舎と、呆然とたたずむ青年の背中だった。この厩舎に七面鳥がどれだけ居たかは知らないが、一羽や二羽ということはあるまい。それを全て盗まれたのだから、損失は決して小さくないだろう。
「うう、一体誰がこんなことを……」
「しっかりしてクラウス! 気を確かに持って!」
崩れ落ちる青年と、それを必死で支える女。とりえず七面鳥は居ないみたいだし帰りましょうか、と呟くエレン。そして。
「――くっくっく」
響き渡る、何者かの笑い声。
振り向けばそこに、何者かの影が見えた。赤い服を纏い、赤い帽子を被り、その相貌を覆面で覆い隠した影が。
「我が名は――キャプテン・クリスマス!」
そう名乗った男は、無駄に筋骨隆々とした肉体で、よく分からないポーズをとった。何処からとも無く、シャキーン、という謎の音が聞こえる。
男の後ろには、一台の馬車が止めてあった。荷台には鉄格子が取り付けられ、まるで檻のようになっている。中からバサバサと聞こえるのは、盗まれた七面鳥の羽ばたきか。
「〈地獄の如き孤独〉を背負い、 アンタコロースの祝福を受けし者! リア充に死を! カップルどもに制裁を!」
「はぁ……」
言っている意味が分からず、 エレンは曖昧な返事を返す。
「……で、貴方が七面鳥を盗んだのですか?」
「うむ」
男はあっさりと認めた。腕組みをして、無駄に力強く。
「それは何故?」
「聞けばこの国にも聖誕祭などという、クリスマスに似た風習があると言うではないか」
クリスマス。それはエレンの主も口にしていた言葉であった。とすると、この男は主人と同郷なのだろうか。首を捻るエレンを他所に、男は朗々と語りだす。
「しかも我が故郷と同様、本来の目的を見失い、単にカップルどもがイチャコラする日になっていると聞く! そんなもの、この聖なる戦士、キャプテン・クリスマスが許すものか!」
怒りで力が篭ったのか、男の全身の筋肉が膨張する。内側から押し上げられた赤い衣装が、みぢぃ! と嫌な音を立てた。
「よって今年の聖誕祭は中止! その一環として、七面鳥は全てこのキャプテン・クリスマスが没収する! メインディッシュの七面鳥が無ければ、聖誕祭も興ざめだ! ザマーミロ!」
「そ、そんな!」
あんまりな物言いに、クラウス青年が悲鳴を上げる。
「なに、心配するな。ちゃんと代金は支払う。私の目的は聖誕祭の中止であって、クリスマスにも労働に勤しむ、愛すべき同胞たちを経済的困窮に陥らせることではないからな!」
「そういう問題じゃ……!」
「そこらへんはどうでもいいのですが」
問答が長くなりそうだと思い、エレンは割って入る。
「とりあえず、七面鳥を一羽譲ってもらえませんか? 今日の夕食に使うので」
「ふむ? 忌々しい聖誕祭を祝うのでなければ別に構わんが……」
言って、男はエレンを一瞥し――首を、横に振った。
「……いや、駄目だな。お前からは臭いがする。サカったカップルどもと同じ臭いだ。貴様、男がいるな!」
男はびし、とエレンに指を付きつける。
「手料理イベントなど、このキャプテン・クリスマスが認めるものか! 貴様に七面鳥は渡せんな!」
「ならば力ずくで奪い取るまでです」
言葉と共に、エレンは隠し持っていたスローイング・ダガーを投げ放った。ダガーには彼女の主人が手ずから調合した、強力な麻痺毒が塗られている。掠るだけでも、相手は戦闘不能になるはずだった。
しかし。
「甘い!」
迫るダガーを、キャプテン・クリスマスは無駄にアクロバティックな動きで回避する。
「ふはは、甘い甘い! クリスマスケーキのように甘い! その程度の攻撃が、このキャプテン。クリスマスに当たるものか!」
そう勝ち誇ると、男は力強く掌を突き出した。
「そして反撃! 出でよ、嫉妬の炎! 〈ハイパー嫉妬バーニング〉!」
生み出された火炎が地面を舐める。青々と茂っていた草花が、真っ黒な炭へと変わる。魔法、それもかなりの腕前だ。ダガーを躱した動きといい、ただ者ではない……いや、格好からして只者ではないのだが。
「ふはは、何が聖誕祭だ! 何がクリスマスだ! あっちでもこっちでもカップルどもがイチャイチャイチャイチャ! 公共の場でサカりおって! 独りで悪いか! どうせクリスマスも仕事だよ! でも予定が無いよりいいかな、とかちょっと安心しちゃってる自分が嫌だ!」
怒りのあまり錯乱しているのか、支離滅裂なことを叫びながら男が暴れまわる。どうにも緊迫感の無い光景だが、その力は本物だ。今のエレンでは、勝機を見いだせそうも無い。
「――ま、待て!」
荒れ狂う男の前に、しかし立ちふさがる者がいた。農場の青年、クラウスが農業用のピッチフォークを構えている。
「駄目よクラウス、危ないわ!」
キャシーが悲鳴をあげる。彼女の言うとおり、あまりにも無謀な行為だった。ふざけているとしか思えない言動のキャプテン・クリスマスだが、それでも驚異的な身体能力と、強力な魔法を備えている。ただの農家の青年に、勝ち目があるようには思えない。クラウスもそれは分かっているのか、顔が青ざめ、足は震えている。
「し、七面鳥を返してもらうぞ!」
青年の声に、暴れまわっていた男はぴたりと動きを止める。
「……何故邪魔をする、青年よ。私は知っているぞ。君が独身で恋人もおらず、聖誕祭も家畜の世話と、カップルどもが喰らう七面鳥を捌くのに忙しいことを」
滔々と、諭すように男は続ける。
「君だって、聖誕祭なんか無ければいいと思っているだろう? 何故独りで居るというだけで、こんな惨めな思いをしなければならないのか。何故いつも通り働いているだけで、こんなにもやるせない思いをしなければならないのか。全て『クリスマスは恋人と過ごす日』などという、変な風潮のせいではないか」
「……そうかもしれない」
男を睨みつけながら、青年は答える。
「聖誕祭で恋人と過ごす友人達を、うらやんだこともある。皆が楽しそうにしている中で、自分は働いている事に嫌気が差したこともある。聖誕祭なんてなくなってしまえばいい。そう思ったこともある……でも!」
言って、クラウスは手にした武器を構えなおす。
「お前が奪った七面鳥は! 僕が丹精込めて育て上げたものだ! 聖誕祭で、皆に美味しく食べてもらうためのものだ! 家族で食べる、年に一度のご馳走を奪うなんて、僕が絶対に許しはしない!」
「……」
青年の叫びに、男は無言。痛いほどの沈黙が、永遠のような時間が流れていく。
「……子供の、頃は」
沈黙を破ったのは――キャプテン・クリスマス。
「クリスマスが、楽しみだった……家族と食べる、フライドチキンとケーキ……枕元に置かれたプレゼント……そうだ、私が間違っていた。クリスマスを楽しみにしているのは、カップルだけではないのだ……サンタクロースを信じる子供達が、それを見守る大人達が、皆が幸せになる日、それがクリスマスだったはずなのに……」
男は、がっくりと膝を折る。それは敗北の姿だった。心が折れた証だった。
「私が、間違っていた。七面鳥は全てお返しする。すまなかった……」
「わかってくれれば、いいんです」
言って、青年が微笑む。
「聖誕祭を、楽しみましょう」
「お、おお……」
感極まったように、男が泣き出す。なんだかよく分からないが、解決したようである。それより早く七面鳥を、とエレンが催促しようとすると。
「クラウス!」
突如、キャシーがクラウスにしがみついた。
「怖かったわ……貴方が死んでしまうんじゃないかって……本当に心配だった……」
「ごめん。でも」
「あなたに何かあったら、私、私……」
なんだか急に、空気が桃色になる。とってつけたようなロマンスをエレンが、そしてキャプテン・クリスマスが無言で眺める。
「……前言撤回! リア充は死ね! 嫉妬パワー全開!」
「隙ありです」
嫉妬パワーで復活し、二人に襲い掛かろうとするキャプテン・クリスマス。その後頭部に、エレンのダガーがさっくりと突き刺さった。
「……それは大変だったね」
場所は変わって、屋敷の厨房。料理の手を止めずに、カイムはエレンに労いの言葉をかけた。七面鳥を買いに行ったら、覆面変質者と戦いになった――しかも名前はキャプテン・クリスマス。冗談の類にしか聞こえないが、淡々と語るエレンはどう見ても本気で言っているようにしか見えない。話を聞き終えたカイムにできたのは、ただ一言、彼女を労わることだけだった。
その後――エレンは七面鳥泥棒を捕まえたお礼として七面鳥を受け取った。もともとはクラウスが、自分で食べるために取っておいたものらしい。キャシーという恋人を手に入れて、無駄に心が広くなったクラウスが快く譲ってくれたそうだ。ちなみに、キャプテン・クリスマスは気が付いたら居なくなっていたらしい。
……名前といい言動といい、キャプテン・クリスマスはどう考えてもプレイヤーである。しかしカイムは、ソラトには報告しないでおこうと心に決めた。信じてもらえる気がしなかったからである。というかカイム自身、あまり信じたい話ではなかった。
「さ、こっちも終わったよ……皆を呼んできてくれ。夕食にしよう」
野菜たっぷりスープに、焼きたてのパン。そして黄金色に焼き上げられた七面鳥。希望通りの夕食に、ソラトはご機嫌の様子であった。歳相応の食欲で料理を平らげる少年に、エレンはいつものように無表情で――しかし心なしか嬉しそうに給仕を務めた。
「そういえば、NESではクリスマスイベントがあったね」
ふと思い出して、カイムは呟いた。確かNESでは、クリスマス限定イベントがあったはずだ。ソリでフィールドを爆走するサンタ型モンスターを追い掛け回し、プレゼントを奪い取るという、どう考えても良い子向けとは思えないイベントである。
「アレは楽しかったわ」
感慨深げに頷くのは、意外な事にシュトリであった。あまりクリスマスを好いていない様子の彼女だが、ゲームのイベントはしっかり楽しんだらしい。
「おや、参加したのかい」
「まあね。限定アイテム、全部コンプリートしたわよ」
サンタ型モンスターは、確かかなりのスピードで逃げ回ったはずだ。しかもドロップはランダムで、全種類を揃えるのは中々に難しかったハズである。
「それはすごいね。何かコツでもあるのかい?」
「簡単よ。サンタに夢中になってる、プレイヤーを狩るの」
「……そうかい」
そういえばこの娘はPKだっけ、とカイムは嘆息する。そして料理を平らげ、満足げにしていたソラトへと水を向けた。
「君は?」
「ん? 俺は参加しなかった」
ぺろりと唇を舐め、少年は続ける。
「クリスマスは妹の面倒を見てたんでね」
「……妹が居たのかい?」
「ああ」
頷く少年の声は、珍しくしんみりとしていた。ひょっとしたら、家族に思いを馳せているのかもしれない。ソラトが己のことを――向こうの世界のことを語ることは滅多にない。ましてそこに、郷愁の念を覗かせるなど。
「……会いたいのかい?」
カイムの問いに、ソラトは鼻を鳴らして答えなかった。
――遠い、何処の地で。
「へえ~、お兄さんが居るんだ~?」
「ええ。二つ年上の」
南北に伸びる街道を、徒歩で進む一団が居た。奇妙な集団だった。服装には統一感が無く、年齢や性別もバラバラ。ただ一つ、共通点を挙げるとすれば――その誰もが、黒い髪と黒い瞳の持ち主であることか。
「ルカちゃんのお兄さんか~きっと素敵な人なんだろうな~会いたいな~」
一団の先頭を歩むのは、二十代前半と思しき女性。どこか眠たげな目つきをして、ふらふらと体を揺らしている。
「かっこ良くて優しい、自慢の兄です」
その半歩後ろに、ミドルティーンの少女が続く。
美しい少女だった。雪のように白い肌と、艶やかな黒い髪。気品すら感じられる顔立ち。そして何より人目を惹くのは――夜を閉じ込めたような、黒い瞳。
「……どうだか」
面白くなさそうに呟くのは、二人の後ろを歩く少年。金属鎧を身に纏い、腰には長剣。野性味のある顔立ちには、まだ幼さが残っている。
「ん? 何よタツヤ」
「……別に」
「別にって顔じゃないでしょ。何か有るなら言って見なさいよ」
女はくるりと身を翻し、少年を捕まえる。そして少年のこめかみに、ぐりぐりと拳を押し付けた。
「痛い痛い痛い! っていうか当たってる! 当たってる!」
「ああーん? 何が当たってるのか言って見ろ、このエロ餓鬼め!」
悲鳴を上げる少年に、荒ぶる女。そこに。新たな声が割って入る。
「まあまあサクラ、そう虐めてやるな」
「リョウさん……」
そう嗜めるのは、体格の良い壮年の男。日焼けした顔で朗らかに笑いながら、男は続ける。
「強敵出現の気配に、タツヤは気が気じゃないのさ」
「ほほう、まだ見ぬ男、それも実の兄に嫉妬するとは……これだから童貞は」
「だ、誰が童貞だ!?」
「その反応が既に童貞臭いの」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人に笑いながら、リョウと呼ばれた男は残った少女へと声をかける。
「お兄さんもこっちに来てるんだろう? 見つかるといいな」
「……はい」
少女は微笑んだ。きっと兄もこの世界に居る。そう信じて。




