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Undivided  作者:
第二章:人魔交錯
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第四十五話:逆襲の一撃

 先に行動を起こしたのは、鉄平だった。

 『指鉄砲』をソラトに突きつけ、《ヒート・レイ》を発動する。マスターレベルの《詠唱短縮》によって詠唱を省略された魔法が、瞬く間に発動した。

 しかし放たれた熱線を――黒髪の暗殺者は僅かに首を傾けるだけで回避する。魔力によって生み出された熱線が、彼の背後にあった店の壁を焼き貫く。

 《NES》には多数の魔法が存在した。発動方法も音声――『呪文』や特定の動作、あるいは魔法陣やアイテムの使用など多岐に亘る。そして色々と制限はあるものの、《NES》においてプレイヤーはある程度自由に魔法の発動方法を選択できた。

 そして鉄平の《ヒート・レイ》はキー・アクション――《指鉄砲》によって発動するように設定してある。魔法使い系と戦士系プレイヤーの戦いは、突き詰めればどうやって魔法を発動をするか、そしてそれを妨害するかだ。だから鉄平は魔法の発動速度に特化したビルドをして、並みの戦士プレイヤーの攻撃よりも、圧倒的に早く魔法を放つことが出来るようにしていた。

 だが――発動しても、当たらなければ意味がない

「くそくそくそくそ! くそ!」

 乱射される魔法を、小柄なNPKは床ばかりか、壁や天井を蹴りつけ踏み付け、三次元的に動き回って回避する。圧倒的な機動力を前に、鉄平の魔法はダメージを与えることが出来ていない。

 そればかりか――今度はこっちの番だと言わんばかりに、ソラトは短剣を振りかざし、襲いかかってきた。

 いくら魔法の発動が速いと言っても、本職の戦士と接近戦で勝てるわけもない。距離を詰められれば、鉄平は瞬く間に切り捨てられるだろう。

 しかし。

「させんよ」

 襲い来る殺人鬼に、大剣と大盾を掲げた彰吾が立ちふさがる。巨体を板金の鎧で包んだ彼は、さながら動く城のごとし。

「邪魔だ」

 ソラトは呟きと共に、刃を繰り出す。腕が霞むほどの速度で振るわれる短剣を――彰吾は剣で、盾で、時に鎧で、弾き、防ぎ、捌いていった。

「ぬん!」

 そして攻撃の合間を縫うように、反撃の一撃が放たれる。彰吾は燐光を纏った大盾を突き出し、思い切りソラトを殴りつけた。

 《シールド・バッシュ》。防御用の盾を攻撃に使用する、盾持ちPCの十八番とでもいうべきスキルだ。

 凶悪な鈍器でもある大盾の一撃を、ソラトは靴底で受け止めた。そのまま勢いに逆らわぬよう、後方へと飛んで距離を取る。

「堅いな」

 軽やかに床に降り立ったソラトは、短剣を弄びながら口の端を吊り上げる。その表情には余裕と、戦闘への興奮が伺えた。

「じゃあ――こういうのはどうだ?」

 そう呟いたソラトは――床を蹴り、まっすぐと彰吾へ突っ込んでいく。大きく振り上げられた刃に、彰吾は大盾を掲げて防御姿勢をとった。

 しかし。

「《残像剣・青雲》」

 不吉な囁きと共に、短剣が燐光を放つ。スキルの効果が発動し、刃がまるで陽炎のように揺らめいた。

 揺らめく短剣は、彰吾の大盾と激突し――刃を置き去りにして、斬撃だけが大盾をすり抜けた。

「うがああああああ!」

 彰吾の口から、絶叫が零れた。大盾を掲げていた腕から血が噴出し、半身を真っ赤に染めていく。

 大盾が床に落ち――彰吾は傷ついた腕を抱えて膝を着いた。

「彰吾ちゃん!」

 鉄平が慌てて駆け寄ると、彰吾は脂汗を浮かべながら苦々しげに呻いた。

「くそ……流石はNPKだ。嫌なスキルを持ってる」

 《残像剣・青雲》。

 斬撃に「実体のある残像」を付与するスキルである。残像は防御をすり抜けてダメージを与えるが、威力は通常の攻撃と変わらない。

 必然的に――武器や防具で防御しない、人型以外のモンスターには意味のないスキルだ。だが逆に、対人戦闘では凶悪な威力を発揮する。

「大丈夫か!? 今、回復して――」

 あわてて相棒に回復魔法を使おうとして――鉄平は背筋が寒くなる。

 そんなことを、奴が許すと思うか? そんな暇、奴が与えてくれると思うか?

 しかし、地面に降り立ったソラトは、追撃をかける事も無く、ただこちらを見ているだけだった。

「回復して良いぜ?」

 にやにやと嗤いながら、悪魔は腕を広げる。

「傷が癒えれば、その分死が遠ざかる。つまりその分苦しむことになるってことだ。さあ、回復しろ。回復して――続きをしようぜ?」

 その余裕に、歯噛みする。同時に、その狂気に背筋が寒くなる。相手を長く苦しめるために回復を見逃すなんて、まともな発想ではなかった。

 だが、チャンスであることには違いない。鉄平は口早に呪文を唱え、彰吾に回復魔法を使用する。

「鉄平、大技を使え」

 魔法による回復を受けた彰吾、が小さな声で囁いた。傷の具合を確認するように掌を開閉し、大盾を拾い上げる。

「でもよ」

「構わん。時間は僕が稼ぐ……急がないと、向こうが終わってしまう」

 彰吾の視線の先では――もう一人の敵、カイムがヴォル・ヴォルトの部下を蹴散らしていた。獣人達は奮戦しているが、それも遠からず決着が付くだろう。あのNPKと《黄金宮》のチャンピオンのタッグ相手では、勝ち目はさらに薄くなるだろう。

 ならば――

「やるしかない、か」

 鉄平は覚悟を決めると、回復魔法の終了と同時、今度は攻撃魔法の詠唱を開始する。

「『詠唱入力』(オーダー)!」

「はっ! させると思うか?」

 詠唱を妨害すべく、短剣を握ったソラトが走る。

 迫りくる銀色の刃に――傷の癒えた彰吾が立ちふさがる。

「邪魔なんだよ」

 ソラトの呟きと共に、短剣が燐光を放つ。実体を伴った残像の刃が、彰吾へと襲い掛かる。

 彰吾は――防がなかった。残像ではなく、実在する刃が彰吾の肩口に埋め込まれる。

「……かかったな」

 苦痛を押し殺しながら、彰吾は笑った。典型的なタンクビルドの彰吾は高いHPと防御力を誇っている。盾と鎧の守りが無くとも、短剣の一撃に耐える事は可能だ。

 そして、

「――《フラッシュ・バン》!」

 彰吾の叫びが、強烈な光を放つ魔法を発動させた。暴力的なまでの光が店内蹂躙し、僅かな時間だけだが見るもの全ての視界を潰す。

 職業という概念の無いNESでは、戦士ビルドだからと言って、魔法が使えないとは限らない。彰吾は接近戦で相手の虚を突くたの魔法を、いくつか習得していたのだ。

 いかに動きが早くとも、いかに魔法防御力が高くとも、目でモノを見ている以上、この攻撃はかわせない。

 同時――鉄平の詠唱が終了する。

「――全てを焼き尽くせ! 《ソーラー・ブレス》『実行』(エクセキューション)!」

 呪文の完成と共に、鉄平の周囲に黄金の焔が生まれた。《ソーラー・ブレス》。太陽の息吹と名づけられた、強力な炎属性の魔法だ。

「終わりだ!」

 魔法が解き放たれ、NPKへと襲い掛かる。彰吾がソラトから離れたと同時、金色の火炎が小柄な少年を包み込んだ。

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