第210話 再戦
冥府回廊の門が開く瞬間、空気そのものが軋んだ。
忘れられた洞窟の軍勢が踏み込んだ先は、もはや“ダンジョン”という言葉では足りない空間だった。地面は黒い水晶のように脈動し、天井は存在しているのか分からないほど遠い。視界の奥で、死のように冷たい魔力がうねり続けている。
アルベルトは一歩踏み出した。
「来たな」
短い言葉。
だがその瞬間、終号が反応する。
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冥府回廊
侵入確認
⸻
適応領域:敵対環境
⸻
戦力補正:敵優位
⸻
リリスが息を呑む。
「これ……普通のダンジョンじゃないです」
「分かっている」
アルベルトは即答した。
◇
最初に動いたのは影王だった。
影が広がる。
しかしすぐに異変が起きる。
影が“薄い”。
この空間そのものが、影の概念を拒絶していた。
影王が眉をひそめる。
「干渉されている」
ヴァルグランが前に出る。
「なら殴るだけだろ」
その瞬間、地面が割れた。
◇
冥府騎兵。
死霊軍団。
無数の影が立ち上がる。
それは数ではなかった。
“質”が違う。
一体一体が英雄個体に近い圧力を持っている。
リリスが即座に判断する。
「下級ではないです!」
「中級でもない」
ミレイが静かに言った。
「つよい、、」
◇
その中心。
黒い玉座のような影があった。
そこに“それ”はいた。
夜狼王。
ただし。
以前の夜狼王ではない。
目が赤い。
魔力が濁っている。
そして。
意思がない。
「洗脳……」
リリスが呟く。
アルベルトの目が細くなる。
「いや」
「違うな」
◇
夜狼王が立ち上がる。
空間が揺れる。
その一歩だけで圧力が増す。
周囲の死霊騎兵が一斉に動いた。
◇
ヴァルグランが笑う。
「来るぞ」
そして真正面から殴り込む。
轟音。
死霊騎兵が吹き飛ぶ。
だが。
すぐに再生する。
「再生持ちかよ!」
珍しく苛立ちが混じる。
◇
アダプトキングは全体を見ていた。
「構造が違う」
「どう違うんです?」
リリスが聞く。
アダプトキングは短く言う。
「“王中心ではない”」
◇
その瞬間、夜狼王が動いた。
消えた。
次の瞬間。
影王の背後に現れる。
一撃。
影王が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
沈黙。
リリスが息を呑む。
「今の……」
「速い」
ヴァルグランも表情を変える。
◇
アルベルトは見ていた。
夜狼王の動き。
しかし違和感がある。
「本来の動きじゃない」
「操られている」
ミレイが即答する。
◇
その時だった。
空間全体が“笑った”。
誰もいないはずの空間。
だが確かに“声”が響く。
『成功作だ』
リリスが固まる。
「今の……誰ですか」
終号が反応する。
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識別不能
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危険度上昇
⸻
冥府回廊中枢干渉確認
⸻
アルベルトの目が細くなる。
「出てきたな」
◇
死霊軍団が一斉に動く。
今度は包囲ではない。
“処刑”だった。
圧殺する動き。
逃がさない。
全方位。
◇
ヴァルグランが押し返す。
影王が再起する。
しかし戦況は明らかに悪い。
リリスが声を上げる。
「このままじゃ……!」
◇
夜狼王が再び動く。
今度は正面。
アダプトキングと真正面で衝突する。
轟音。
地面が崩れる。
アダプトキングが初めて後退した。
「重い」
◇
リリスの顔色が変わる。
「まずいです、これ」
ミレイも静かに言う。
「王として完成しています」
アルベルトは目を細めた。
「まだだ」
◇
その瞬間だった。
夜狼王が咆哮する。
空間が割れる。
魔力が圧縮される。
“死の波動”。
ヴァルグランが吹き飛ぶ。
影王が押し込まれる。
◇
アダプトキングが膝をつく。
「……格上だ」
初めての言葉だった。
◇
リリスが震える。
「負けます」
誰も否定しない。
◇
アルベルトは夜狼王を見る。
そして静かに言った。
「まだだ」
◇
その瞬間。
終号が警告を出す。
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統合進化条件
未達
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不足要素:核欠損
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アダプトキングが顔を上げる。
「核……?」
◇
夜狼王が再び動く。
今度は決定打。
圧倒的な一撃。
空間ごと押し潰すような力。
◇
アダプトキングが叫ぶ。
「全軍退避!」
◇
だが。
アルベルトは動かない。
夜狼王を見ている。
そして。
小さく笑った。
「見えたな」
◇
冥府回廊の奥。
黒い玉座のさらに奥。
“本体”。
まだいる。
◇
その瞬間だった。
夜狼王が一瞬だけ動きを止める。
ほんのわずか。
だが確かに。
◇
リリスが気付く。
「今の……」
「揺れた」
◇
アルベルトが言う。
「取り戻す」
◇
夜狼王が再び動く。
戦場は崩壊寸前。
だがその奥で。
確かに“何か”が見えていた。
冥府回廊の核。
そして。
本当の敵。
◇
戦いは終わっていない。
むしろ今。
始まったばかりだった。




