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マジックアイテム売りは必ず勇者の前に現れる  作者: ロヒ
そのゾンビ戦法をやめろ
7/29

戦えない

ミササギ、今世紀最大の失態。勇者がダンジョンに入ってきました。しかも勇者ウィンドルです。2週間ぐらい前にウルフの件で会って、また会った。こんな最悪な場所で。


「いやーな天文学的確率!」


かなり大声だったが、マジックアイテム様様でミササギが発した音の全てが誰かに聞こえることはない。

運がいいところ探しをするのであれば、万能薬を十分に汲んできたあとだというところだろうか。


粗探しならぬ滑ら探し。

語呂が悪いから2度と言わない。


「他の人の足音がしない…なんで1人行動なんだ?強いといえども姫だろうに」


松明の明かりしかないため、ウィンドルと認識できたのもギリギリだ。このダンジョンは音が信じられないぐらい響くので、耳が良くなくとも足音ぐらいは聞こえる。


割とウィンドルの正面に立っているが、気付かれることはない。彼女はどんどん近付いてくる…本人は進んでいるだけだろうが。


「え…めっちゃ怪我してるじゃん」


ミササギの横を通り過ぎるウィンドルは肩を矢で射抜かれ、足を引きずって進んでいた。


「…」


痛いとか言わずに無言で進んでいるのが怖い。


恐らく彼女は仲間を探しているのだろう。血を流しなからもダンジョンを進み続けていた。


「それとなく誘導もできないし…仲間を僕が探す?いや、現実的じゃないな。…とりあえず背後から万能薬ぶっかけるか?」


見つかるはずもないのにそっと近付いて恐る恐るかける。


「!?治った」


と思ったのも束の間、正面から凶暴なオークが出てきた。彼女の2倍はあるであろうその背丈と分厚い贅肉防具、それに棍棒を手にしていた。

足はとろいが力は強かったはず。今まで遠目に何度も見ていたから知っている。


しかしオークの強襲に対応できず、勇者ウィンドルは頭を殴られてしまった。


「んぎゃーーーー!!!」


誰よりも叫び声を上げるのは誰よりも安全なミササギだ。


「ク…ソっ、スキル禁止の…ルールでなければ…!」

「スキル頼りの人か…。じゃあ苦戦も納得だ」


このままだとジリ貧だ。しかし彼女が死んでも困る。とりあえずまた万能薬をぶっかけた。

みるみるうちに出血は治り、欠損した体も治る。


「また回復した…!?なんなのこのダンジョン」

「キヒャオアアアアアァァァ!」

「もう動きは分かった!ふっ!」


1度の重体を経て勇者ウィンドルは凶暴なオークに勝利した。素の戦闘能力が低いわけではないので、単純に持久力がないだけと見た。

スキルが強すぎた弊害という感じだろう。体力をつける必要がなかった。スキルが使えない状態なんてそうそう無いから仕方がない。


「一体何だったの…?水をかけられたような気がしたんだけど…」


もちろん振り向いてもミササギが見えることはない。


「…とりあえず奥まで行きましょうか…最深部にみんながいるかもしれないし」

「いないよ!みんなそんな蛮勇じゃないって!戻って戻って!このダンジョンマップ変わらないタイプだから!」


その言葉は忍んでいる限り伝わらない。しかし隠密のマジックアイテムは効果こそ強いが、一度効果を切るとまた使うのに時間を要するのだ。


つまり戦闘能力皆無、逃げる手段なしの、大荷物を背負った文字通りのお荷物が出来上がってしまう。彼女は戦えるが、それは人を守りながら戦えるというわけではない。


たった1回の忠告のためにそこまでのリスクを冒す必要はない。しかしこの蛮勇者を見殺しにしたくない。一国の姫だからという理由ではなく、普通に道徳心からだ。


それとこの未発見ということになっているダンジョンに、偶然、同時に、商人がいたとか怪し過ぎる。未報告も隠蔽も犯罪なので国家側の人間に見つかるとヤバい。商人という肩書きが更にダンジョン資源を独占しているのではないかと疑いを増してしまう。


事実そうだが。


「あーなんだっけ。ゾンビ戦法って言うんだっけこれ。…いっか、どうせ万能薬また汲みにいかないといけないし」


故に着いて行くことにした。


「あーもうなんで本当にパーティーメンバーと逸れてるのさ…そんなダンジョンギミックないのに…」

「あっ」


ドサっと勇者ウィンドルは転んだ。

…立ち上がらないのが怖い。


「ちょっと待ってよ!なになになに!?起きて起きて、ダンジョン内で寝るとか有り得ないから!おい蛮勇!起きろ!」


急いで駆け寄るが、完全に意識を失っているようだった。万能薬はその名の通り万能だ。外傷も病気も治してしまう。


呼吸を確認したが、特に異常は見つからなかった。むしろとても落ち着いている。


「…もしかして体力尽きた?疲れて寝てるだけ?万能薬って体力まで回復しないの!?」


周囲はしん、と静まり返っている。だがいつ先ほどのオークのような魔物が来るかわからない。

冷や汗が止まらなかった。


「あ、そうだ“姿隠しの釘”!僕天才かも」


やっと自分の持ち物に気付き、リュックから取り出した勇者ウィンドルの近くに釘を刺した。

あとは助けに来た仲間か、勇者が目覚めるのを待てばいい。

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