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魔王ミササギ

「———初めまして勇者!」


初めましては軽快に。


「———また会ったね。すごい偶然だ。ちょうどいい、僕の商品を見ていきなよ」


強かに物を売って。


「———ダンジョン内で会うだなんてね。おや、怪我をしてるじゃないか」


信頼を積み重ねることは忘れない。


「———そんな防具じゃこのダンジョンの攻略はできないよ。持ち合わせがないなら、宝箱支払いだっていいさ」


マジックアイテム売りは、いつだって冒険者の、勇者の心強い味方だ。


少なくとも、俺はずっとそう思っていた。


マジックアイテム売りミササギ。

過去に大陸任命だったとか、転生者だとか、元勇者だとか、そういう話が流れているが彼は自分のことを話したがらない。


というか、大陸商会なんて200年前に時代の波に取り残されて解体されている!結局噂は噂なのだ。


不思議なことに買いたいものがある時に彼はやって来る。何せ安いし、質がいい。誰も知らない秘密の商人。なんだか得をした気がして、彼の存在は誰かに言うことはなかった。


俺は勇者だ。


500年前、魔王を倒した———天才魔法使いユラディカがいたパーティの快進撃は今でも好きな物語だ。周囲に人はユラディカが好きだというが、俺は違う!断然勇者ウィンドル一択だ。


勇者ウィンドルはハジマリ王国のお姫様で、冒険の前は戦地を駆け抜け、冒険後は女王として国を統治した。なんてかっこいい経歴。それで夫は、仲間で執事でもあった人だったというのだからロマンにも溢れているときた。


俺もそんなロマンが欲しい。


だから勇者を志し、ハジマリ王国に刺さる、伝説の勇者の剣に挑戦した。


見事引き抜き、パーティーメンバーにも恵まれ、不思議な黒い猫に導かれつつ、やっと魔王城に行き着いた。


「マジックアイテム売りミササギ!なぜお前がここにいる!」


魔王の間には見知った姿があった。


「なんでって……僕が魔王だからさ」


こうして今代の勇者は倒された。


◾️


魔王ミササギは勇者の剣を回収した。それを溶かして売って、利益を得る。


500年前から続く技術革新も、勇者の剣の素材のおかげだった。昔は大陸商協会にしかなかった、あの便利な空中画面も、今や一家に一台の時代。


国に売り、企業に売り、溢れんばかりの富がミササギの元にはある。


ミササギは炎を生み出して、剣を溶かした。それを空中で成形し、長方形の板にする。すでに勇者の剣としての機能を失ったので、世界は新たな勇者の剣が生成する。そしたらまた、マジックアイテム売りミササギとして、勇者の剣を持った勇者を魔王城まで連れて来るのだ。


時代は変わったのだ。人間が魔王を利用し、利益を得る時代から、魔王が人間を利用する時代になった。勇者をカモにする商売なんて、悪どいことこの上ないが人死を出していないので許して欲しい。なんてったって魔王なのだから。


「イジーはよくこんなこと考えたね」

〈賢いアタシぃ〉


黒猫は伸びてミササギの影の中に飛び込んだ。ここ500年の付き合いで、だいぶ懐いてきたように思う。


地面には気絶した勇者、僧侶、戦士、魔法使いが倒れている。


この商売は後処理も大切だ。彼らの記憶を消し、死ぬまで彼らを自分の手足として使う。本当に申し訳ないが、このまま帰すわけにはいかないのだ。自分の正体が明かされると困る。


業務内容は主に、この魔王城に住む魔族と一緒に魔王城の清掃。ここは少し広すぎる。人手が全く足りない割に、求人広告を出すわけにもいかない。


でも悪くはないだろう。ミササギが魔王になってから、魔族に人間の社会的規範を刷り込ませた。彼は人間より大人しく、思いやりのある生物になった。


優しい上司もいる。


「ミササギ。勇者は?」


扉を開けて入ってきたのは、青年の姿となったゴヴァだ。ベテラン清掃員。厳しくも優しい指導をしてくれるだろう。


正直、彼は商人嫌いのようだし、和解できないと思っていたが、ユラディカとハイヤーが間に入ることで和解を果たした。ミササギが血生臭いのは回避する派の商人だったのが大きいと思う。


「これこれ」

「はいはい。そうだ、予定通り“魔王軍”が世界各地の家畜小屋の鍵を開けたみたいだぞ」


500年前に猛威を振るった魔王軍は今やミササギの指示で悪戯しかしない。しかし、人類はそれを脅威として魔王を倒そうとしている。利益を奪う、程よい世界の敵として。


「ねぇ、ゴヴァ。僕ちょっと飽きちゃった」

「はぁ?前の魔王みたいに世界征服とか言い出すなよ」

「征服なんてしないよ」


魔王ミササギは国や企業を相手取って商売をしている。加えて、曲がりなりにも魔王軍を指揮しており、自身もある程度…歴代の魔王程度の魔法が使えるようになった。その気になれば、経済の方面からでも、生活の方面からでも人類を滅ぼすことが可能だ。

———絶対にやらないが。まだ目標金額に到達していない。


「……ただ、全部が思い通りで飽きちゃった。普通に商人してた方が、楽しかったよね。やっぱり。というかそろそろ、オーナー・ミササギって名乗りたい」


ミササギは魔王になった後、すぐに商会に報告し、半分脅しのような方法をとり、今まで通りの活動ができるようになった後、お茶会に応じた。

その頃にはボックスにもブーケにも魔王の話は出回っていたので、不味く熱い紅茶を2人からぶっかけられたものだ。そしてぶっかけとお説教が終われば、ついでのように二つ名をもらった。


それが今は、商会が遥か過去の存在なので、二つ名が使えないときた。もし使ったら、ミササギが異常な存在ということが、生きてる歳でバレる。


商会のことを思い出したついでに、少し苛立ったことも思い出した。


「あの中じゃ、レディ・ブーケが1番儲けてたよ」


氷風のダンジョンで言っていた、『商売に一枚噛ませろ』発言はこれを見越していたのかと思うほどだった。彼女が1番美味しいところを持っていった。

まぁ、おかげで貴族、王族連中と取引がスムーズに行ったわけだが。


「懐かしい名前出すなぁ……」


ゴヴァも昔を懐かしむにはいい頃合いだったのかもしれない。アルバムでも出すか、と言っていた。今代の勇者たちを引きずりながら、魔王の間から出ていった。


「僕もちょっと思い出に浸ろうかな?」


彼のポケットに入っているのは、勇者の剣のカケラである針。

これとスキルのランクアップしたおかげであの時、ウィンドルの元へ行くことができたのだが———商会の全面協力による、魔王後のスキルと、“防御貫通のダメージを与えられる針”を精査したところ、前の勇者の剣。つまり、所有者を魔王にする性質がある剣のカケラではなかったことが判明した。


イジーの完全なる見立て違いで、本物の、魔王を倒すことしかできない勇者の剣だった。


ならばウィンドルに出会うのも必然だ。

理由なんてミササギが理解できるほどに単純だ。


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結局、ウィンドルは勇者になりたくなかったらしいが、そのことについて本人と話したことはないため、詳しいことは知らない。


事実として、彼女のスキルは戦闘に向いていたし、機転も効くし、善良、カリスマ、遊び心と責任感も備え付いていた。

勇者を幾度となく見ている今のミササギには分かる。多分彼女は向いていた。ただ望んでいないだけ。


「次はどんな勇者かな」


ミササギは笑った。彼の影も揺らぐ。


この商売は500年間上手く行っている。でも、上手くいき続ける商売なんてありはしない。いつか必ず、ミササギの正体がバレる時が来るだろう———しかし、それは今ではない。


『よく会うマジックアイテム売りには気を付けろ』なんて不文律が冒険者の中で生まれるのは、もう少し先の話だ。




《『マジックアイテム売りは必ず勇者の前に現れる』完》

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