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《魔王城》

北の果て、曇天と共に存在する闇色の城。それが魔王城。


元勇者ジェファードとの戦いの2日後、勇者ウィンドル一行はすでに魔王城に乗り込み———魔王の間まで来ていた。

名称のまま、魔王のいるボス部屋である。重厚な扉を前に、4人は顔を見合わせた。


「……最後よ、準備はいい?」


全員が頷き、扉を開けた瞬間。

勇者ウィンドルは赤いカーペットに足跡をつけて跳躍した。たった一歩で魔王に接近する。


元々、魔王はそれほど脅威とは思っていない。ジェファードより強い敵なんてそうそういないからだ。


「【頭を垂れよ】」


ズ、と頭に重さがかかり、魔王は椅子から立ち上がれなくなった。ついに重さに負けて項垂れると、人のような無防備な首があらわになる。敵前の前でその態勢など、早く首を斬れと言っているようなものだ。


「カッ、ハカッ……!!」


魔王の首はスキルによる重みで気道が塞がれる。ウィンドルは魔王に名乗ることすら許さなかった。


「…やった」


ゴヴァは新たな魔王の誕生を前に顔を綻ばせた。


これで旅は終わるのだ。

これで勇者も終わるのだ。


ウィンドルは輝く王冠を頭に、勇者の剣で魔王を切ろうとした。


なんてあっけない。だがまぁ、この世界の魔王はこんなものだ。アレは、世界からずっと放置されていた魔王なのだから。

どこかの冒険者が酒代を得るために、どこかの商人が商品を売るために、どこかの戦争の言い訳にするために、魔王と魔王軍は必要だった。


これは誰も知らない話だが、だから昔の国々は本物の勇者の剣を故意に紛失した。適当に勇者を輩出し、世界を沸かせ、異世界人を呼び出してこの世界の技術を発展させ続けていた。作って売って使ってを繰り返す、この世界の安定性は素晴らしい。


魔王がいる限り、人間の世に金は巡り続ける。

ただ魔王の懐に入らないだけ。


———しかし利益あるところに商人あり。


ウィンドルが握る勇者の剣に手を添える者が現れた。いや、それにしては少々強引で、まるで、剣と勇者を引き剥がそうとしているようだった。


ウィンドルは見る。彼を。


羽のついたとんがり帽子。重ね着しているローブ。大きいリュックに新しい靴。


分かることは彼がミササギという名前であり、大陸任命のマジックアイテム売りということだけ。あとの情報には全て“恐らく”が付く。


この冒険で何度も会った、ミステリアスな商人だ。


「なんてタイミングだ!?とりあえず、勇者ウィンドル!この剣貰うね!」


まるで魔法か何かで剣を取られたみたいと、ウィンドルは思った。あまりに急な展開に、自分を客観視するしかなかった。


「ミササ…ギ」


ゴヴァは唖然とし、ハイヤーは突然現れたことに驚きはしたものの、すぐに目線をウィンドルへ向ける。


ユラディカは杖をしまって目を伏せた。彼女はミササギの計画なんてひとつたりとも知らない。だが、彼の姿を見たとき、彼のしたいことを理解した。だから魔法を使った。


物陰で同じように魔法を使ったイジーは顔を引き攣らせて笑う。それは勇者が滑稽だったからか、魔法使いの臨機応変さに感心したのかは不明だ。


パーティーメンバーはそれぞれの動きをする。知らなかった者、知っていた者、気付いた者。


それを無視してミササギは慣れない剣を振り下ろす。


この一瞬のために、氷風のダンジョンを出てから、イジーの指示でスキルを使い続けていたのだ。時に吐いたし、倒れたりもしたが、なんとか仕上げることができた。


俗にいう訓練。スキルのランクアップだ。


「おりゃ!」


剣の扱いを知らないミササギは、不恰好な軌道を描いて魔王の首を刎ねた。首はしっかり転がって、少しずつ塵になっていく。


なんてあっけない。


◾️


それを、ウィンドルは、見ていた。

黒く塗りつぶされたとも錯覚する双眸でそれを見ていた。


近頃ずっとあった思いが、ずるりと出てきた。


行きたくないが、父上に言われて出た戦場。

周囲に翻弄され続けた戦場後の生活。

ゴヴァには勇者の剣を持つように誘導され、ハイヤーにはパーティメンバーが選定され。


舗装された道ばかりだ。


勇者になることは、魔王になることは、自分で決めたはずなのに。


(…………そんなつもりになっていただけか)


暗黒に、満足そうに落ちていったジェファードが、心の底から羨ましいと思った。


不思議なことに、怒りも、悔しさもない。


〈どうだぁい?勇者。どんなきもちだあい?〉


天を仰ぐウィンドルに近づく黒猫がいる。ぼうっとする頭で、見たことあるその姿を思い出そうとしたが、その答えはその猫自身が答えた。


〈ひょーふーのとこにいたよぉ。アタシ、シ。まぁ、どうだっていいさねぇ。ねぇ、アタシ、聞いたんだよ〉


これは先ほどの質問に答えなければいけないということだろうか?


「……ええっと」

〈はん、もういいよぉ。オメーが魔王じゃなくて良かった。どうせ勇者にも、も、魔王にもなりたくなかったクチだろぉ〉


ウィンドルが言い淀むと、黒猫はミササギの方へ走っていった。何がしたかったのかよく分からない。


だが、納得がいった。

これはゴヴァに謝らなければいけない。

というかみんなにだ。


「あ。私、勇者とか魔王とか、なりたくなかったんだ」


単純明快で涙が出そうだ。


ウィンドルは、目標の無くなったすっからかんな頭で、小さい頃の夢を思い出した。

横目で、こちらを窺っていたハイヤーを見る。


「もう国に帰りましょうか」

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