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選んでないのは誰だ

「なぁ、マダム・キッズ。お前は魔王に強さを求めたいみたいだが、一体なぜだ?オファーを受けた1年前からずっと考えているが、どうにもしっくりこない。俺みたいに戦い好きってわけでもないだろう?」


勇者ウィンドルを奇襲する少し前、針山の上で待機する2人は雑談していた。


1年前に初めて会い、魔王化の話を持ちかけられて、今の今まで連絡ひとつも接触ひとつもなかった割にいざとなれば強引だ。頭を打ちたくもなるが、恩を仇で返すつもりもない。


というわけで約1週間。戦いの勘を取り戻しつつ、ひもじい保存食でずっと待機していた。

ミササギには小旅行ということで誤魔化してある。


「人間が……あまり好きではないのです」


ジェファードの疑問に、キッズは口元に手を当てて、少し回答を考えながらも答えた。


「あっ、人間全員というわけではなく、汚いことをする大人がですね。魔王様の権威が損なわれている今、利用できるかと思いまして」


弁明が弁明として成り立っているかギリギリだ。


「元々でもありましたが、商会を通じて人の汚さが身に染みて分かりました。ですので、魔族が征服して世界をクリーンにしようと思った次第です」


彼女の静謐な印象とは異なる、野蛮極まる発言だ。しかしてその表情は大真面目。本当に心の底から、そうした方がいいと思っていそうだ。


さすがのジェファードも眉が不均等に歪み、彼女との根本的な考え方の差を実感するに至った。


「…それで強さを?」

「話し合いで解決できませんからね。最後にものを言うのは強さです」


そうしてキッズは握り拳を作った———もしかしたら彼女には、天然属性が入っているのかもしれない。


「…もう、俺から言うことはねぇや……」


ウィンドル達のことは殺さないようにと言われているので、彼女が平和主義者なのか違うのかよく分からなかったが、更に分からなくなった。


とりあえず、無益な殺生はしないタイプのようなので、ジェファードが逆らう必要もないだろう。


「そうですか、では私からもひとつ」


キッズはロングのワンピースを丁寧に折りたたんで、ジェファードの横でしゃがんだ。


「貴方は剣士は剣士でも、魔剣士でしょう。なぜ魔法を使うことを公にしてないのですか?」

「あ〜」


驚いた、まさかここまで把握しているとは。しっかりと候補のことは下調べしているみたいだ。


ジェファードは面白くなって正直に答えた。


「ははっ、不意打ちが1番勝てるからだ。北の大地にクリーンさを求めるなよ」


◾️


———ウィンドルの考えとは、仲間に頼ること。


「はっ、はっ…」


ウィンドルの弱点である体力のなさが、その選択を迫る原因となっていた。


目配せもなにもできないのは気がかりだが、まぁユラディカなら対応できるだろう。そうだ、信じてやってみよう。このまま戦い続けてもスタミナ切れで負けてしまう。


「ジェファード!」


ざん、と斬り合いをやめて橋の板に剣を突き刺した。順手から逆手へ剣を握り直し、ウィンドルは宣言する。


「最終ラウンドしましょうか」


そのまま円を描くように剣を動かし、橋を切り取る。脆い橋は良く切れる。瓦解する音も聞こえずに、毛羽立つロープで繋がれた橋は、暗黒に向かって落ちて行った。


当然ながらジェファードはこの程度で落ちたりしない。ウィンドルの足元の板に捕まって、一時的な難を逃れた。戦う意思もある。剣をウィンドルに向かって投げようとしたが、それよりも速く。


———ウィンドルはジェファードの頭の上へ飛び乗った。


「たまげたなぁ!」


幸運にも暗黒に落ちなかった板は、2人分の体重に耐えきれない。先ほどとは異なり、ロープの切れた音と共に落下する。


上と下。位置の優位を取られたジェファードは、寸前で投げずに済んだ剣の先をウィンドルに仕向けた。


しかし、体勢が悪すぎる。逆風の中、威力が思うように乗らない剣は、暗黒の外で肝を冷やす魔法使いによって防がれた。ウィンドルは両足でジェファードの首を固定し、両手で剣を握って彼の胸に突き刺した。


ジェファードの薄くない体を貫き、背中には血を纏った剣先が顔を出す。


どんな戦いでも終わる時は一瞬だ。

だからこそ、それを追い求める者がる。


「……ジェファード、私、貴方のことを尊敬してたの。単独で四天王を倒した勇者って」

「…悪いな。そのうちの1人は彼女が倒してる。英雄譚なんてそんなもんさ」


ジェファードは痛みに耐えながらも、己の汚点とはっきりと答えた。その表情は苦く、重い。剣の刺さった胸の辺りを触れるとただ目を細めた。どことなく楽しそうなのは気のせいだろうか。


「…どうして魔王に?」

「魔王になったら必然的に、お前のような勇者と戦えるんだろう?俺はお前に負けても良し、勝っても良しだから、この話を拒否しなかった」

「それだけ?」

「誘われただけだしなぁ、高尚な野望は持ち合わせてない」


ジェファードは胸に刺さった剣を掴み、引き抜こうとした。数センチ上に引き上げるだけで、ぶくぶくと血が流れる。


「…!!」

「っっあぁ!!」


ウィンドルはその様子を見て、同じように、より強い力で引き抜いた。


「行け!勇者ウィンドル…!」


剣はもうすぐ引き抜ける。ジェファードは顔を青くしてその続きを促した。


「ありがとう!勇者ジェファード!」


薫陶を受け取り、剣を引き抜いた。ここで死ぬのは彼の本望だ。だからこそ、剣を自ら引き抜こうとした。


「ウィンドル、こっち来なさい!」


杖に乗り、ウィンドルに向かって手を伸ばした。引っ張る力はやや弱いが、魔法で引き上げれば問題ない。そうしてウィンドルはユラディカによって保護され、ジェファードは暗黒の中に落ちた。


と思われた。


「これで終わりにはさせません。勇者の最後の舞台は魔王城であるべきです」


片腕のないキッズは針山を飛び出し、渓谷の中へと身を投げた。

ゴヴァは彼女の衣服を引っ張り、止めようとしたが、ビリビリという裂ける音がゴヴァとキッズを引き離す。彼女の肩には黒い素材が巻かれていた。


キッズの周囲には紫色の魔法陣がいくつも現れた。眩い光を纏って円はぐるぐると回る。


「…転移魔法、発動」


本来ならば、その言葉と同時に魔王城へ移動するつもりだった———発動しない。キッズの魔法陣は灰となって散っていく。


キッズを除く誰もが魔法を警戒し、キッズのみが転移を必然だと思っていた。ウィンドルとユラディカ、それにキッズも予想外の事態に追いつけていない。ようやく魔法が発動していないと分かったのか、暗黒へ向かって叫んだ。


「勇者ジェファード、魔法を……!」


応答はない。死んでしまっているのか、気を失っているのか、それとも魔法を使う意思がないのか。


その様子を見ていたゴヴァは、すぐさまボックスに説明を求める。


『魔法…?そりゃ使えない。アレはそういう防具だ』


少しでも使えるアイテムだと思っていた過去の自分を殴りたいと思った。


◾️


落ちるジェファードは思う。


『ははっ、不意打ちが1番勝てるからだ。北の大地にクリーンさを求めるなよ』


そんなことを言ったと思う。


別に魔法でウィンドルを倒しても良かった。だが策で負けて剣に刺されて、ここまでやられたら負けを認めなければみっともない。


ここは北の前線ではないのだし。


もちろん、ハジマリ王国との戦いには出ていない。この場合の北の前線は、魔王軍との戦いの話だ。


魔王城へ行く道は、離れの雪原と暗黒渓谷を通る道のひとつだけではない。もっとおっかない道がある。あそこは酷い。とても酷い。オワリノ帝国の剣士も転生者も大抵あそこに送られる。雪原の中香る、腐肉の匂いは胃の中を掻き乱したものだ。


例外はミササギぐらいだろうか。彼はあまりに弱過ぎた。


あそこが嫌になって勇者になり、4人目の四天王に負けそうになったところキッズに助けられた。そこから話は独り歩きして———ジェファードが四天王を全員倒したことになっていた。


許せなかったのだ。自分の実力以上の評価が。戦場から逃げた臆病者の癖して、いっぱしの剣士のプライドだけはあった。

だから魔剣士であるジェファードは、不利な戦いの場である釈炎のダンジョンへ行った。

戦いの中で死ぬために。


案外生に執着する自分は、片腕をなくすのみだったが、それもミササギによって取り戻された。


(2度。2度も商人に人生を狂わされた)


自分で選んだ道を進めないのは嫌だが、悔しいような、むしろここまで来るとせいぜいするような。


あぁでも酒場。酒場のマスターをするのは、戦い並みに面白かった。それはちゃんと自分で選んだ。


「勇者ウィンドル、なんにしてもお前は最後まで自分で選べよー」

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