王冠ゲット
ゴールの手前のポップとはよく言ったものだ。
実際のダンジョンの構造は西洋屋敷の見た目とは違い、平家。全ての部屋がボス部屋であり、そこには間仕切りが存在するだけだ。
迷路と呼ばれる移動先はスタート地点と地続き。ポップ地点から後ろに戻れば自然とスタート地点に戻るようになっている。
“戦闘系ダンジョンで戦闘をしなくていい”という攻略者への最大のメリット。
ボスのいないこのダンジョンでは、自然と全ての部屋を探索することが条件になる。
全ての部屋。
ボス部屋のただひとつ。
最速の必勝法は、ポップした地点から10歩ほど後ろに下がり、スタート地点に戻ってくることだ。それがこのダンジョンにおける攻略法。
———それに3人はそれぞれの方法で辿り着いた。
「ユラディカ!“呪い無効の王冠”はお前に売ってあげる!だからどいてくれないかな」
ミササギは冷や汗をかきたいところだったが、それどころではなかった。
まさかユラディカと争う日が来るとは。
「あら、別に私は高い金を払うことが趣味じゃないの。ミササギこそ退きなさいよ」
辛うじて取り揃える武器の中で、扱いやすいものをリュックの中から取り出し、振り回してユラディカと距離を取った。
身に付けているマジックアイテムのおかげで、ほとんどの魔法を無効化することができるので、警戒するのは近接技だけでいい。
へっぴり腰なのは締まらないが許せ。
「ってわあ!ボックス、同業者に何してるんだい!」
特に後ろから撥ねんとする勢いのスポーツカーが怖い。普通に生命の危機を感じる。ハイヤーにマジックアイテムを持ってきてもらって助かった。
幅寄せ走行をする車の上に乗っかり、ガラス越しにミスター・ボックスに訴える。
「ふん、なぜお前が2人いるのか全く検討がつかないが、まぁいいだろう!“絶対防御の鎧”の件は…」
「後で話すから、この競争から退いてくれ!」
「ここまで来たら一等賞が欲しいだろう!?」
「融通効かないなぁ!」
言い争いをしている合間にも杖に乗ったユラディカは先に行こうとする。
「お先失礼」
「「ちょっと待て!!」」
ミスター・ボックスはハンドルを切り、ミササギはマジックアイテムを取り出して、ユラディカの足を文字通り引っ張った。
その名も“遠い物が掴める手”。転生前には100均でも売っていた気がする。いわゆるマジックハンドだ。
「ちょっと!」
不安定な空中ではこの程度の引っ張りで充分。ユラディカは姿勢を崩して大きく失速した。
本来であれば誰か着いてもいい頃合いだが、3人が足の引っ張り合いをするので、なかなか勝者は決まらない。進んで戻っての繰り返しだ。
何か決定打が欲しい。
「…なあ、ボックス、この競争はそこまでマジになることかな?」
「そうだな。真剣勝負だぜ、ミササギ。オレが相手だからと言って手を抜くなよ?」
ということは“呪い無効の王冠”を求めているわけではない。なら最初に蹴落としたほうが楽だろう。
普通にスポーツカーが後ろから事故狙ってくるのは怖いし。
「例えば、僕がお前の商品を傷付けても、賠償金を請求しない?」
「もちろん!そんな無粋なことはやらないぞ。フェアな勝負だろう?」
言質取ったり。
ミササギはヤモリのように、イモリのようにタイヤまで近付き、とあるものを刺してすぐに車から飛び降りた。
「あ!お前なーーーーー!」
「さよなら、ミスター・ボックス!お前の勇敢さは忘れないよ!」
不快な金属音を鳴らしながら、スポーツカーはスリップしてはるか後方へ下がっていった。
何か大破した音が聞こえるが、気にしないのが吉。
僕ってば偶然針を持っているなんて幸運だな。
「ミササギったらひどいわね。絶対あれ高価なのに」
「でも賠償金取らないって言ってたからさ」
ミササギはまたリュックからマジックアイテムを取り出した。スケートボードに乗り、少し先に行ったユラディカに追いつく。
もう庭園は目の前だ。
あとは直前で、どうユラディカの足を引っ張るか。
彼女は適応力が高い。初見の方法でなければ、まず防がれるだろう。しかし、あまり直接危害を加える方法も双方のために取れない。
「…」
「…」
時間がない。このままだとユラディカが先に着いてしまう。スケートボードのスピードもこれが限界。というかこれ以上速度を上げるとミササギには制御できなくなる。
「…」
マジックアイテムでできる限りの工夫は凝らした。
ミササギは歯を食いしばる。
(あとは僕の舌次第か…!)
彼女が動揺する話題はなくはない。ミササギはあと一歩で庭園に着くところで、ユラディカに言った。
「遊び人ハイヤー、このダンジョンに来てるよ!」
表情までは見切れない。しかし、明らかに、ユラディカは視界の中から後退し、失速した。
そうして一歩の差が出た。
庭園でニタリと笑う猫は言う。
〈一等賞だよぉ。おめでとう、ミササギ〉
勢いのまま庭園に転がり込んで、ミササギは身体中が土まみれになった。全身痛い。にも関わらず、ミササギは喜びの笑みを浮かべた。
「いったー!…でも、やった!」
曲がりなりにも、これがミササギの初、ダンジョン攻略になる。
彼には報酬として金色の小さい王冠が———“呪い無効の王冠”が贈られた。
疲労から手が動かない手の上には、確かに王冠の重みがあった。
「…王冠、取られちゃった。まさか貴方の品揃えがあそこまであるとは思わなかったわ」
ユラディカは心底悔しそうに、ミササギの後に続いて庭園に足を踏み入れた。
「で、いくら?」
それでもユラディカは話が早い。ミササギは最初に売ってもいいと言っていたのだ。所詮、金がかかるかかからないかの違いしかない。
ミササギが土まみれでなければ、いつかの指輪の取引とおんなじだ。
ダンジョンを攻略した達成感と、競争という短時間のアドレナリンが出たことで、今のテンションは少し高い。もう天才と呼ばれるような魔法使いと、優秀な同業者と競争をすることなんてないだろう。
楽しかった一瞬だった。
ミササギは転生後初めて、心の底から笑った。
「はは、ちょーっとお高いけど、適正価格だから許してね?」




