しょうめー迷宮
〈だからぁ、さっきも言ったとおり!足し算引き算あるでしょぉ。マジック、まほうのアイテムにも。だから、から、魔法も同じ。ダンジョンのルールもねぇ〉
「…はぁ」
ミササギの頭の上に浮かぶのは疑問ばかり。そもそも彼は、魔法を使えない上にマジックアイテムのことを、一から十まで理解しているとは到底言いがたいレベルのニワカ状態で商売をしている。
魔法の原理が絡む小難しい話になると、着いて行くことはできない。腕を組み、腑抜けた相槌を打つ機械と化していた。
もっとも、ダンジョン制作経験のあるハイヤーは違うようだが。
「…なるほど。私はボスを強くするのと、スキルの使用を禁止することで万能薬の泉を生成しましたが、これもその足し引きですか?」
〈分かってるねぇ。天才!無才!凡才!〉
飛び上がってテンションが上がっているようだが、半分以上褒めていない。だが、それもテンションで話しているようなので、実際は褒めているのだろう。
「ねぇ、僕はこのダンジョンを攻略しないといけないんだよね?そういう条件で、お前は“呪い無効の王冠”を持っているんだろ?」
〈なんだ、飲み込み早いじゃん〉
「それはどうも。理論より必勝法が欲しいな」
〈にゃんてせっかちな!まぁ、いいよ。教えたげる。最速の必勝法は———〉
〈ゴール手前にポップすることだよ!〉
◾️
「マジックアイテム売りミササギに、何かご用はないかなー?」
そう言ってミササギはゴヴァ達の前に姿を現した。入り口でちょっと見かけた程度だが、その服装といい荷物の入ったリュックといい、完全にミササギだと分かる。
不審な点は、遅れてこの場所にポップしてきたぐらいだ。
「ミササギ、久しぶりね!ちゃんと挨拶できて嬉しいわ!」
「はしゃぐなウィンドル。お前が1番体調悪いんだ」
ミササギに寄ろうとするウィンドルを手で止める。ただでさえ寒さで体力が削れているのに、動こうとする気概が信じられない。
「…勇者ウィンドル、体調悪いの?寒さ?病気?」
「え…あぁ寒さだよ。ここにも商人がいるんだが、あいつは防寒具を持ってないみたいでな」
ゴヴァは少し戸惑った。ウィンドルが体調を崩したと言うとひどく動揺したからだ。彼はそこまでいち顧客の健康に憂うような人なのだろうか。
いや、彼のことはよく知らないから、そうなのかもしれないが。
そこで、は、と思い出す。こういう違和感は彼とある程度の付き合いを持つ人に任せた方がいい。
ゴヴァはミスター・ボックスの方を見た。
「お前まで寒さにやられたか…?」
もしそうだとしたら人間の貧弱さを正しく認識できていなかった、ゴヴァの落ち度だろう。しかし、彼は瞳孔を開いてぶつぶつと何かを唱えるだけだった。
「勇者ウィンドル、寒さを凌げるマジックアイテムがあるよ———」
そうしてミササギはリュックの中から黒鉄の鎧を取り出した。そして値段の話をするのだから、なんて商魂逞しい。さっきまでの本気の心配が嘘のようだ。
ウィンドルは買ったし。
何にしても変わった鎧だと思っていると、ミスター・ボックスも同じく鎧に釘付けになっているようで、ふらっと不安定に立ち上がり、その勢いのままミササギの方へと迫った。
まだ壊されていない氷の壁にダン、とミササギの頭を打ちつけた。
———打ちつけた!?
「がっ…!」
「何やってんだ!」
その乱心にゴヴァは駆け寄る。それよりも反応が速かったのはウィンドルだ。既に剣を抜き、ミスター・ボックスの首に当てている。
「ミスター。どういうつもり?」
気迫のあるウィンドルの質問に答えることはなかった。既に彼は彼の世界に入っているようだ。
「おい、お前は本当にミササギか?」
「…ボックス、お前の商品を売ったことがそんなに気に食わなかったのかな。でもあれはレディ・ブーケが僕にくれたんだ。クレームなら彼女に言ってくれ」
双方、睨み合って引かなかった。これでは埒が開かない。ゴヴァはミスター・ボックスに近づき、素早く足を引っ掛けた。
武人ではない彼はその衝撃に耐えられず、勢いよく転倒する。その隙にウィンドルはスーツケースを没収し、ゴヴァは彼の背中の上に乗っかり、手足を縄で拘束した。
ウィンドルとの連携なんて冒険中でも戦場でもやっている。これぐらいは朝飯前だった。
「ウィンドル、落とすか?」
「いえ…何か言って…」
ウィンドルが彼の口元に近付くと同時に、彼は大きな声で笑い声を上げた。
「ははははははは!!!」
「なんなの!?」
突如の爆音にウィンドルは耳を押さえながら、戸惑った。大陸任命という立場ある商人がこんなんでいいのか、という純粋な疑問がゴヴァとウィンドルの脳内の共通点だ。
「なるほど!ここはボス部屋か!」
本当に、わけが、分からない。




