出揃い
「ふははははは!流石はオレ特製チェーンソーだぜ!あぁ切れる切れるね!」
ボス猫、イジーは思いもしなかっただろう。すでにダンジョンに潜り込んでいる3人全員が、それぞれの方向で迷路を破壊していることを。
イジーはダンジョン内の破損を把握していない。
そもそもできると思っていない。
だからそれだけ規格外。
「はっはは!」
キイィィ、という音を立てながら、ダンジョンをひたすらまっすぐ進んでいる。
(『ダンジョンに入ると分断されて、直接ボス部屋』って聞いていたんだがな。実際は反対だった。なぜだ?)
そんな疑問を抱きながら、おんなじ景色を突き進む。
ウィンドルとゴヴァが合流してからというもの、彼らの破壊スピードは向上しており、同時にダンジョン内で響く騒音も大きくなっていた。
それでも離れていれば全く聞こえないが、このミスター・ボックスは違う。
右手にはどんな些細な音でもキャッチする羅針盤。左手には無機物の破壊行動に特化したチェーンソー。その2つのマジックアイテムと共に無双していた。
相棒である、真紅のスーツケースを従えて、少しでも羅針盤が反応した方へ、ただひたすらまっすぐ突き進んでいる。
だから必然。3人は出会った。
「…私は勇者ウィンドルよ。貴方のことは入り口で見かけたけれど、お名前を聞いてもいいかしら」
背後から鳴り響くチェーンソーの音に警戒していたが、ミスター・ボックスの顔を見て剣をしまった。
高笑いをしながらチェーンソーを使っていたので、怪しいことこの上ないが、ミササギと共にいたことを確認しているので、そこまで警戒はしていない。
「おっと失敬。オレは大陸任命マジックアイテム売りのミスター・ボックスだ。会えて嬉しいよ、勇者ウィンドルと…」
「ゴヴァだ」
「そう!ゴヴァくん!」
勢いに乗ってゴヴァの手を握るが、跳ね除けられる。
明らかに冷たい態度を取られて、流石のミスターも傷付いた。寂しそうな顔をして、ゴヴァから2歩ぐらい離れた。
自然と勇者ウィンドルに近付き、自然と彼女の異常に気付いた。
「…もしや、寒い?」
彼女の顔を覗き込むと平然と佇んでいるが、その唇は真っ青で小振えしていた。
「ウィンドル…?」
「別に平気よ?」
ゴヴァもウィンドルの顔色を見るが、明らかに出会ったとき、数分前よりも悪かった。彼女は痩せ我慢をしている。
———人間という種族の限界だ。
しかしゴヴァにはどうすることもできない。彼の顔も青くなりはじめた。
そしてそんな様子を見て、ミスター・ボックスは笑い出す。そう、この男はマジックアイテム売り。彼の品揃えはあまり良くないが、とんがった性能を持った品々を用意している。
寒さを凌ぐなんて何のその。
該当商品はひとつしかないが、そのたった1つをちょうど商会で見せびらかしてきたばかりだ。
「大丈夫!どうか安心してくれよ。オレには自信の防具が———」
自信満々、意気揚々。
ミスター・ボックスは自身の真紅のスーツケースを漁り始めると、底に触れたあたりで何かを思い出したように顔を上げた。
3人揃って顔面蒼白。
「商会に置いてきた…!」
「なんなのお前!!」
「ところで少年は魔族か?」
「どうしてそれを…!てか今!?」
ミスター・ボックスは諦めた。彼にはそういうことろがある。
「オレの知り合いがだね、魔族なんだ。心当たりはあるか?勇者の剣がどうこう、とかいう使命らしいが」
ゴヴァはそれどころではないということを理解しつつも、彼の質問に答えざるを得なかった。
確実にゴヴァの一族の者だからだ。
外部に漏らしたということは使命を放棄したか、ミスター・ボックスとかいう彼が魔王候補かだが、ゴヴァには彼が武功に優れているとは到底思えなかった。
無論、優れていなくとも成れるが、魔王を倒すことはできないので結局は候補として選ばれ難い。
商人だそうだし、ゴヴァはなんらかのカマかけかとも疑ったが、疑いが強固になる前にミスター・ボックスは話し出した。
「あぁ、言っておくと、彼女の標的はオレじゃなかったぜ。ジェファードって元勇者に声をかけているのを昔聞いたんだ」
ウィンドルは驚いた顔をした。
当然だろう。ジェファードは魔王の配下である四天王を倒した直後に勇者を引退している、なんとも稀有な勇者だ。
そんな勇者であれば、声をかけられてもおかしくないが、
「…なんとも言えない。知り合いの所属はどこだ」
ゴヴァの一族は把握しているだけでもかなりの数が、世界中の様々な組織に散っている。それだけでは判断がつかなかった。
「大陸商会本部。任命されたマジックアイテム売りだ」
ゴヴァは昔見た、一族の配属先を思い出す。
商会が拾うように仕向けた人が1人いたはずだ。
「もし、彼女の名前がキッズであれば俺の姉だ」
「———そうか…」
「?」
ミスター・ボックスが哀愁のような、チェーンソーを振り回していた時とは正反対の表情を見せたと同時に、大きな音がした。
「「「!?」」」
3人が当たりを見回すが当然音の発生源は分からない。ダンジョン全体にその衝撃の反響が響くのみだった。
被害は見えやしないが、確かにそれを聞いた。聞いた轟音は爆発音というよりかは、マッチの着火音をそのまま大音量で流したような音だったが。
ぼっ、と。
魔族は魔力に敏感だ。ゴヴァにはこの音が魔法による物だと分かった。加えて、ユラディカがやったことだとも。
(……生きてる)
ボス猫、イジーは目玉を飛び出して面白がって笑うだろう。まさかダンジョン攻略に向かった4人全員が、迷路の破壊行動に出るなんて、もはや笑うしかないだろう。
そしてその笑う(予定)の猫は1人の人間をよこしてきた。
「マジックアイテム売りミササギに、何かご用はないかなー?」
◾️
終わりの街の酒場は閉店しようとしていた。今日も今日とて、騒がしかったがマスターであるジェファードは、そんな雰囲気が好きだった。
誰かが置き土産として吐いていったゲロを処理し終わると、酒場の扉からノック音が鳴った。
少なくとも酔っ払いではない。彼らはノックなんかできないぐらい酔っ払っていた。
不審に思って扉を開ける。
強盗の可能性も考慮して。
「あ〜い……って」
備えた短剣からはすぐに手を離した。明け方のこの街はとても寒い。しかし彼女は薄いカーディガンを羽織るのみで、寒そうな素ぶりは一切見せていなかった。
「勇者ジェファード、お久しぶりですね」
「…マダム・キッズか」
ジェファードは苦虫を噛み潰したような顔をした。できれば2度と会いたくなかった相手だ。
「勇者の剣が見つかりました」
「…そうか。お前は、今も?」
「ええ」
その揺るぎない態度にジェファードはため息をついて、頭を掻いた。こんな綺麗な女性に声をかけられるなら、もっと楽しいお誘いの話が良かったと思いつつ。
「…商人なんかに借りを作るもんじゃねぇなぁ。ミササギにもずっと部屋持ってかれてるし」
「ミササギくんが…?」
「あんた同僚だろ」
「彼は自分のことをあまり話しませんので。ミステリアスなのが彼の戦略かと思っていましたよ」
「にしちゃあ、おしゃべりが過ぎるだろう」
マダム・キッズはくすくすと笑う。魔族は基本異形だが、こんなにも人に近いと騙されているのではないかと思ってしまう。
「…契約の履行をしに参りました。私はあなたに強さを求めます」
「俺、負けたよ?勇者辞めたし」
ジェファードはこの約束を断るために、断れる可能性を作るために勇者を辞め、剣士も辞めた。
「いいえ。あなたは強い」
むべなるかな。マダム・キッズには通じない。だからわざわざ訪ねているのだ。
「魔族、キッズの名において、ジェファード・ライドを魔王に推薦します」




