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推薦

あのパーティーは羨ましい。当然そう思う。

愛し愛され。テンプレな称号。バックボーンは重いがしかし、助かる可能性がある。


僕というお助けキャラの手によって。


〈商人よぉ、なんで日和った?〉


ユラディカが移動した後、ボス猫はこう言った。


「え」

〈オメー、()()()()()()()()()()()()()()()()

「!!」


確かに、覚えがある。確かに僕はあの時、利益を考えていなかった。善人ではあっただろう。


しかし、相談料と同等のハンカチを渡し、自分に都合の良い話に誘導せずに、ユラディカのことを考えた言葉を出そうとしていた。


もちろん、人間としては正解の部類だ。


〈怖いんでしょ、誰にも、本当の意味で求められない事実が。誰にも深く、ふかく、関われない商人サマだかんねぇ〉


ミササギはこのボスの脅威を再確認する。確かにコイツは超高難易度のボスに相応しい。


「お前、一体何者だ?」

〈怖いんだ!図星ね、キレイ!〉


ボス猫は顔が裂けんばかりの笑顔を見せた。


〈欲しいんでしょぉ?王冠。ならさ、なら。商談持ち掛けるぐらいの気概がなきゃね。アタシもなぁ、魔王の撰定役なんだよぉ〉

「魔王の…撰定?」


何やら大変事情が混み合っているようだが、魔王だなんて冗談じゃない。そんな稼げない上に人から恨まれる職業なんてたまったもんじゃない。


「…一時、利益を考えてなかったことは認める。でもね、それは長期的に見れば良策だ。商売には信用も信頼もあるべきだろう」

〈アホ抜かせ。あ、アホ抜いたら、なーんにも残んないか。そいつぁごめんね!〉


猫なのに籠の中であぐらをかき出した。猫の部分は本当に見た目だけだ。


ボス猫はどうも調子の狂う喋り方をする。感覚としてはミスター・ボックスに近い。だが彼にも彼なりの基準が存在している。


(ということは、この猫にも何か譲れない一点でもあるのか?)


ミササギはできるだけ論理的に考えようとした。恐らくコイツは、コツさえ掴めば普通に話せる部類の生物だ。それに、利益を求めない商人なんて恥にも程がある。


反省したら実践を。

ミササギは今、どうやって“呪い無効の王冠”を取引で手に入れるかを考え始めた。ボス猫はその様子を見て更に口角を釣り上げる。


この話の流れで行くと譲れない一点とは魔王、だろう。

自分には関係のないことだと思っていたが、勇者ウィンドルと出会ってからというもの、その影は濃くなっている。


「…魔王の撰定役と言ったね。まさか僕をとは言わないだろ?」

〈そのまさかじゃなきゃ、ね。言わないよ〉


なんて事のないように答えた。呆れも含んだ声色だ。察しが悪い、見込み違いだとでも言いたげの。


「まて、基準が分からない。まずその選定ってやつだ。勇者ウィンドルもその候補なんだよな?」

〈剣を持ってた子、こども。ならさ、そうだね。魔王を変えたいのはみんな。みーんな変えたい!基準なんてないない!まあ?強いて?推薦人の思想だねぇ〉


思想ときたか。

ならばさっきからよく言う利益、とやらがここボス猫の思想で、譲れない一点なのだろうか。

もしそうだとしたら、それを蔑ろにしたミササギに怒るのも分かる———いや、分かってたまるか理不尽だ。


〈アタシは【聞き耳】のスキルで、物の声が聞こえるのよぉ。この籠からオメーのことを聞いたさぁ。オメーの金稼ぎの理由とかね〉

「…そう。そこまで分かってるなら話は早い。僕がお前の王冠が欲しいのも分かっているね?取引といこうじゃないか」


ボス猫は大きな眼を見開いて、興味深そうに近付いた。


「お前は僕に“呪い無効の王冠”を渡す。その代わり、僕はお前の望むように利益を求める魔王になろう」

〈ほぉ…〉


「———ただし、契約金として8000万G貰う。魔王になるまでの過程は全てお前の負担だ。それから魔王になってからの稼げる手段探しもね」


興味津々なボス猫はその言葉に首を傾げて、顔を顰めた。ぐるりと一周しそうなほど、フクロウのように疑問と不満を露わにした。


〈魔王になるまでは、ね。補助してあげてもいい。でも、金とお仕事、ごと。探しまでやるのはフェアじゃないねぇ〉

「それはお前が利益を損なうことになるけどいいのかな?お前は前提として前払い。けど僕が自力で魔王になるんだったら、相応の時間がかかるね。勇者ウィンドルが競合なんだから失敗する可能性だってある」


ミササギは間髪入れずに相手の損の話をした。


「いいかい?お前が魔王になるための助けをするのは、お前の利益のための必要最低限だよ」


このボス相手に手加減はしない。嫌なところを指摘してきたこの猫に負けるわけにはいかない。


利益至上主義の実力を見せてやる。


「それに対して、僕は大陸任命のマジックアイテム売りという名前を捨てようとしている。これは僕の人生だ。見合ってないのはお前のほうだろう?」


ミササギはとんがり帽子のチャックを開いて、とある冊子を取り出した。


「ほら、これ僕の成績」

〈……わお〉


ここ半年の売り上げが事細かに記録されている。そこには莫大な金が動いた形跡が残っていた。


ボス猫は初めてミササギという人物を目の当たりにした。物からミササギの話は聞いた。しかし売り上げまでは知らない。当然だが、物に帳簿を見せるわけがないからだ。


その一点で、ボス猫はミササギを読み間違えた。


「僕の体のことも分かっているのかな?どっちでもいいけど、少し特殊でね。僕は老いないんだ。だから今後もこのぐらいの稼ぎはあると見ていい」


ボス猫は自身とミササギを隔てる竹の網目を見た。


「マジックアイテム売りとして見込める売り上げ以上の旨みがないと、僕にとってこの話を受ける意味はない」

〈そーしたら“呪い無効の王冠”だって手に入らない。別にアタシはオメーじゃなくとも良いんだよぉ〉


ボス猫は前足で器用にミササギを指した。

———自分には王冠しかミササギの気を引ける道具がないと分かった上で、強気な行動に出る。


「嘘だね。お前にはお前の思想があるんだろ?それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


このタイミング———魔王が魔族の求心力を失い、勇者の剣というアイテムが魔王に近い、今しかない。


それに、今になって撰定者とやらが動くということは、この猫は勇者の剣の場所を把握していなかった可能性が高い。たまたま偶然、剣があり、魔王が倒される必然性があり、己の思想に合った人がいる。


何よりこの会話を通して、なおさらミササギしかいないと思った。


ミササギが魔王になれば、世界の経済を魔族が牛耳ることができる。それはボス猫の———魔族、イジーの思想だった。

そうなればきっとこの世界は面白おかしくなる。

人間が魔族に踊らされるなんて、面白すぎる。


〈…いいさ。いいよ。その条件。飲んだげるよぉ〉


これ以上の好機は存在しない。自分の底を見透かされた猫は、これ以上話を続ける必要がなかった。これ以上話せば時間を損する。


ボス猫は負けを認めて高らかに宣言した。そうして無から1枚の紙を生み出した。


〈魔族、イジーの名において、ミササギ・タカラを魔王。まおうにぃ、推薦するよぉ〉

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