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使命と家族とあと誰か

「…裏切る?俺が?」


シラを切ろう。そうしよう。

魔族であるゴヴァが、勇者の剣を持つウィンドルに勝てるわけがないのだから。


「ハイヤーはね、勇者の剣を持つ者は、その呪いによって魔王になると言っていたわ」


聞き取りやすい、しかし腹に溜まるようなドス黒さを内包した声だった。


「デタラメだ」

「調べたわ。本当だった」

「どうやって。騙されてるんじゃないか?」

「“嘘破りの羽ペン”。ミササギから買ったの。ハイヤーは嘘をついていなかった」


…ミササギという名はあのダンジョンにいた商人だったはずだ。ウィンドルとハイヤーの経緯を知っている唯一の人物だろうが、残念なことにすぐにスキルを使って消えた。


ひとまずゴヴァは彼を敵として認識させようとした。必死になって探すぐらいだから成功確率は低いが、そう言うしかない。


「パチモン掴まされてるよ。馬鹿だなお前」

「ミササギは信用できるわ」

「知らないとは言わせないが、商人なんて利益のために戦争を利用する奴らだぞ。それのどこが…」


「それに彼は大陸任命よ」


あーそういえばそうだった。


大陸任命は詐欺をしないために、“任命”の名をもらう契約の際、一定の質を保証する契約書を書かされると聞く。

それは強制力がある。呪いと言っても過言ではないほどの。


「じゃあ俺に勇者の剣の話を教えたやつが嘘をついた。それしか考えられない」


真っ赤な嘘だ。


「“嘘破りの羽ペン”で書いてみてもいい?」


それもすぐに露呈してしまう。


「いいぜ」


しかし、書く時にウィンドルは必ず隙が生まれる。そこを狙って先制を取ってしまおう。

戦いには負けるが仕方ない。己の使命は、一族の悲願は、新たな魔王様を誕生させることだけなのだから。


死ぬ前に魔族ということをバラして、魔王が仕向けた刺客ということにして———


「もしゴヴァが私に嘘をついていたら、ユラディカも敵という認識でいいのかしら」

「ッ!」


ウィンドルの最後の確認に、斧を持とうとしていた手が止まった。


「あいつは…違う!ただ孤児院で一緒になっただけで、ちょっとあいつがお節介なだけだ!」


もっと良い言い訳があったはずなのに、ゴヴァの口から出たのは、ユラディカの身を保証する言葉だけだった。ほとんど敵の自白のようなものだったが、それ以上にいけないミスをした。


「…私の知ってる話は、赤子のゴヴァをユラディカが世話していたという話なのだけど」

「ああ、そうだ。それがどうしたんだよ?」

「貴方はそれを知らないはずよね。少なくともユラディカからはそう聞いているわ。赤子頃の記憶があるなんて、一体どういうことかしら」


詰んだ。

これだから人間の感覚には慣れない。

だから斧を振るう。どっちみち戦うことになっただろうから、せめて初撃だけは入れたい。


背中の斧を右手で持ち上げ、自分の体全体を使って振るう。それはウィンドルの頭に向かって、吸い付くように無駄のない軌道を見せた。

本来であれば、そのまま反応できずに刎ねれるだろうが、そうはいかないのが勇者ウィンドルという“覇者”である。


のけぞって躱し、対価と言わんばかりに勇者の剣をゴヴァの首元に置いた。


「…!」

「私はまた、仲間を殺さなきゃならないのね。これがハイヤーの時のように、間違いでないことを祈るわ」


鈍い光を持つ彼女の目は、確かに殺意を持ってゴヴァに向き合う。


「…お前、人の心ないんじゃない?」


北の戦場にいた時から、彼女こそが魔王になるべきだと思っていた。


今の魔王は人間を襲うだけ襲って計画性がない。世界征服とか宣うが、その後のビジョンが一切ない。単純なバカだ。だからウィンドルのような賢く、強い頭が魔族が生き延びるには必要だった。


それは全魔族の総意だった。


王国に代々潜り込むゴヴァの一族は、その代替わりの選定役として———魔王への叛乱の鍵として、さまざまな環境で育てられてきた。


親は冒険者協会、兄弟は商会、ゴヴァだったら孤児院で。いろんな人物を見て、魔王になるべき人を見繕っていた。


そして魔族であるにも関わらず、人間へと擬態できるように意図的に成長し、強いと噂のウィドルに近づいて勇者の剣の話をした。

最大の関門であったハイヤーのことは騙せたし、ユラディカという想定外はあるが、保護してくれるので問題ない。


…ただ、ちょっと面倒くさいぐらいで。使命を全うするには問題はないはずだった。


「俺は魔王に命令されて———」


なんで俺は、魔王でも家族でもなく、死ぬ前にユラディカを思い出すんだろうな。


疑問に思うが、誰に聞けば分かるのか分からない問題だ。ユラディカはこういうはっきりしない問題も持って来るから面倒くさい。


そんなことを考えていると、


「待って!ウィンドル!!」


必死なんて似つかわしくない、天才魔法使いの声が聞こえた。

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