《氷風のダンジョン》
「氷風のダンジョンってどこ…?」
「ダンジョン掲示板ぐらい忙しくても見とけなの」
レディ・ブーケは円卓の上に画面を映し出す。プロジェクションマッピングのようだが、違う。本当に画像が現れるのだ。なんて便利。しかし門外不出の技術なのが残念だ。
半透明の画面にさまざまな画像が並ぶ。1番上の最新のダンジョンのところには、攻略済みとラベリングされた聞き覚えのあるダンジョンの情報が載ってあった。
西のダンジョンは正式に名前がつけられ、新奇のダンジョンとして登録されたようだ。
「氷風のダンジョン。一昨日あたりに先遣隊による精査が終わったそうなの」
レディ・ブーケは手元のリモコンで画面を切り替える。画面に映し出されるのはホワイトアウト寸前の雪景色の中にある、どこぞの西洋屋敷だ。
これがその氷風のダンジョンの外見なのだろう。
次々とピックアップされるのはダンジョンに関する関連記事だ。
「超高難易度ダンジョン。ルールは回復禁止…と、逃亡禁止ですね。回復禁止はありがちなルールですが、逃亡禁止は珍しいですね」
マダム・キッズはその画面上の報告書を読み上げた。
「…先遣隊50名のうち帰還者は3名。渋いですね。精査の完了というよりは、民間に投げたの方が正しいと思います」
「オレさ、その帰還者に話を聞いたんだけど、ダンジョンに入ると分断されて、直接ボス部屋らしいね」
となると、逃亡禁止なのにも関わらず、生還者がいると言うことはどういうことだろうか。ボスの討伐イコールダンジョンの消滅だ。それで生還者がいるのは矛盾が生じる。
「もしかして、戦闘系ダンジョンじゃないの?」
ミスター・ボックスは頷いた。
ミササギはとあるレアケースを思い出す。以前、スキルでダンジョン内に移動してしまったとき、そのダンジョンが“謎解き”をするダンジョンだったのだ。
もしかしたら今回もそんな感じかと思ったら、当たりだったようだ。
「そのボスが、“呪い無効の王冠”を身に付けてたんだと。優秀な検査官と査定官がいたから間違いないぜ」
まさか本当に情報が手に入るとは思わなかった。今ミササギの頭の中にあるのはどうやってそれを手に入れるかだ。
画面中の文書に書かれている攻略法は、“迷路”のクリア。
スタート地点であるボス部屋に再度着いたら失敗。建物内のギミックに殺されたら失敗。生還者はボス部屋に戻ってきてしまった人たちのようだった。そのためどこに着けばクリアなのかは分からない。
「ダンジョンの場所は?」
「オワリノ帝国の離れの雪原にあるみたいです」
離れの雪原。その名の通り、オワリノ帝国の終わりの街から少し離れたところにある雪原だ。
勇者ウィンドル一行がいるじゃねーか。
ユラディカにそこ行けって言っちゃったよ。
「ミササギ?頭を抱えてどうしたんだ」
いやいやでもでも流石に潜り込みはしないだろう。うん。勇者ならば僕とは違って掲示板を見ているはず。
………ハイヤーから聞いた話だと、あの西のダンジョンでも勇者ウィンドルは全然行こうとしてたみたいだけど…誘導の必要がないぐらい前向きだったみたいだけど。
「…ちょーっと心配事があるから帰るね、僕」
しかし、迷路。戦闘ならともかく迷路ならば勝機が見えるが、その場所に勇者ウィンドルがいるなら話は別だ。
「…でもなぁ。あれがないと割と、にっちもさっちも行かないし」
ミササギはうわの空でこの場から去っていった。
「ふぅん、呪いを防ぐ必要があるのかぁ」
「ミスター・ボックス。興味があるのですか?」
「いやあ、そこまでしなけりゃ防げない呪いに心当たりがあるのだよ」
彼もまた、ミササギ同様に外に出ようとする。
「華やかな淑女たち。もし、勇者の剣について知っていることがあれば教えてくれ。嫌な予感がするんだ」
珍しく真面目なミスター・ボックスに驚いていると、閉まった扉の音がしたとき、レディ・ブーケはあることに気付いた。
「アイツ、“絶対防御の鎧”置いていきやがったの」
◾️
俺は止めた。ミササギとかいうマジックアイテム売りの捜索なんて。ユラディカがちょっと手伝ったら諦めるとか言うから、手伝ってやったのに。
ここまできたら魔王を早く倒せばいいのに。
そのユラディカは離れの雪原に行くと言い出した。なんでもそこでしか取れない調合材料があるらしい。1人で取りに行くようだから、ウィンドルと簡易的なテントの設営をしていたんだ。
そしたらウィンドルは言った。ここら辺に氷風のダンジョンなるものがあるらしいと。
止めたさ、超高難易度ダンジョンの攻略なんて。
なんでこいつは懲りないんだ。
ハイヤーが生きていればよかったのに。執事からすらも命を狙われるだなんて大変だが、そしたらもっと効率よく魔王を倒せたはずなのに。
そしたら魔王が代替わりするのに。
あの木偶の坊の魔王が代わって、やっと俺が仕えるべきな魔王様となるのに。
———そんなことを戦士ゴヴァは考えていた。
この場にユラディカはいない。彼女がいない間にウィンドルが突っ走ったせいだ。
物悲しい洋館に入る前。横を歩くウィンドルは急に立ち止まってゴヴァに聞いてきた。
「ねぇ、貴方が教えてくれた勇者の剣の話は、本当に、本当の話なの?」
周囲が静かだからか金属の音がよく響く。鎧の音も、剣の音も。
「ゴヴァは、私を騙したの?」




