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マジックアイテム売りは必ず勇者の前に現れる  作者: ロヒ
マジックアイテム売りでしかない
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《大陸商会本部》

ミササギのいるここは大陸商会本部。

商人に対して、信用の証である“任命”という名前をつけることができる唯一の機関だ。

もちろん役割はそれだけではなく、商人の支援、世界中の物流管理などなどをやっている。


しかしその場所は誰も知らない。厳密にいうとほとんどの人が知らない。更に詳しくいえば、“任命”の商人のみ知っている。


今日は世界でたった4人の大陸任命マジックアイテム売りが会合を開いていた———お茶会ついでの情報交換会だ。


「レディ・ブーケ。遅れたのは謝るけど、僕だって忙しいんだ。勘弁してよね、急な呼び出しは」


ミササギが連絡を受けたのは、取引を成立させた翌日の深夜。朝から晩まで調べ物をして、大変面倒な状況に参って体調を崩しかけていたら、この正面にいるレディ・ブーケから手紙が届いた。


「半年前に加わった若造がよく言うの。ブーケは貴族相手の商売で、冒険者向けのあんたより比べ物にならないぐらい忙しいの」


小汚いミササギと違って、客層も異なるレディ・ブーケはパステルカラーの小綺麗なドレスを着ていた。


ミササギが自分から1番近い席に座ると、円卓にミササギの分の紅茶とクッキーが用意された。


「ミササギくんの業績は好調だと聞いてます。レディ・ブーケもその秘訣を知りたいのですよ。だからこうして予定を空けてきたわけですから」


レディ・ブーケの右隣にいるのはマダム・キッズ。彼女もまた、国や貴族を相手取って商売をするマジックアイテム売りだ。


半年前からの急激な業績の好調により、ミササギは大陸任命の名前をもらった。

その理由は———万能薬だ。

ばかうればかもうけ。在庫は無限、仕入れ値はせいぜい行きの馬車代程度。


「はは…」


ミササギの顔色は悪い。つい最近、そのツケが回ってきたところだ。


「寝不足ですか?」

「それもある」


ミササギは珍しくクマを作って大きなあくびをした。


「本当に大丈夫かい!?良ければオレの新商品でも…!」

「金取るから嫌。テスターってことでくれるならいいけど」

「それは残念!」


最後の席に着いているのはこの男。ミスター・ボックス。マジックアイテムを自ら作り、売る。最も特異な商人だ。

仕草の全てが仰々しく、面倒くさい。勇者ウィンドルとは正反対の意味で若干話が通じない。


そんな男の前に、ひとつの鎧が置いてあった。

触れたくない。しかし、触れねばならない話題なのだろう。


「これは?」


マダム・キッズ持参のクッキーをつまみながら一応聞いた。


「オレの新商品“絶対防御の鎧”さ!」

「矛盾が起きそうな商品名だね」

「起きやしないさ。コイツは何もかもを防ぐんだ!剣に斧…バフにデバフ…毒に回復…呪いに祝福…」


ミスター・ボックスは鈍く光る黒い鎧に触れながら話す。よっぽどの自信作のようだった。


「デメリットがデカいの。なんで毎回毎回、必要と不必要の間を攻めた商品を勧めるの。第一、ターゲット層がよく分からないの」


レディ・ブーケは辛辣に正論を放つ。


「…その呪いってどこまで防げるのさ」


ミササギが聞いたのはもちろん勇者の剣のためだ。だが、あまり期待はしていない。


「おやおやぁ!気になるんだな、ミササギよ」


コイツが勿体ぶるときは、大抵大したことない性能しかついてない。


「やっぱいい。僕の欲しい性能に届きそうにない」

「どこか、呪いを防ぐ必要のあるダンジョンへ向かうんですか?」

「いや、今抱えてる顧客の要望さ」


ミササギは悩む。

ここで勇者の剣のことを言ってもいいのだろうか。


言った方が情報は集まりやすいが、そもそもハジマリ王国が存在を隠している剣なので、言わない方がいい。


(…アテが外れたら言っちゃうか。この人たちは漏らさないし)


「僧侶とかはだめなの?」

「できないって」

「“解呪のシール”はどうなんだ?」

「効力が足りない」


どちらも一般的に流通している方法であり、呪いを解く数少ない方法だ。あまりにも厄介そうな顧客の呪いに名だたるマジックアイテム売りも顔を顰めた。


「そう、厄介なんだよね。つきましては———経験豊富な皆々様に相談したいことがありまして」


レディ・ブーケからの手紙のタイミングは悪かったが、このお茶会自体のタイミングはかなり良い。


「“呪い無効の王冠”についてなんだけど。誰か情報を持ってない?」


当然に調べ終わったわけではなく、まだまだ途中経過とも言えないが、序盤でさえも雲行きが怪しくあまり収穫が見込めそうにない。何せ初代勇者の昔話にしか出てこないマジックアイテムだ。


「その価値によっては十分な対価を支払うよ」


幻のマジックアイテムの価値は計り知れない。対策方法の限られる呪いに関係する物なら尚更だ。ミササギは守銭奴の商人たちの口を開かせるためにそう言った。


知ってる人がいたらラッキー。なんとしてでも口を割らせる。


“絶対防御の鎧”と同程度。

その程度の期待だった。


「氷風のダンジョンあると聞いていますよ?」

「あー聞いたことがあるね!」

「ブーケも知ってるの」


3人のマジックアイテム売りは当たり前のように顔を見合わせる。あ〜って感じの。それね〜って感じの。少々苦い表情だった。


氷風のダンジョンとか、僕知らない…。

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