今後もよろしく
全くの部外者である僕でさえも理解できるほどに、ハイヤーとウィンドルは懇切丁寧な説明をしてくれた。
ハジマリ王国の国王、勇者ウィンドルのお父上の話。
その母国とオワリノ帝国との戦争、そこの終結が間近なために、2年ほど前ウィンドルは帰ってきたこと。
まぁ、その戦争は終わることなく今は魔王軍との争いの激化を理由に冷戦中だが。オワリノ帝国は北国で魔王城に最も近い国なので冗談にならない被害が出ているのだろう。商人としてここ辺りの情報は理解していたが、やはり国家側の人間が言うと解像度が違う。
しかし、今回の争いで重要なのはそれよりも後の話だ。
ウィンドルが戦友に聞いた勇者の剣。戦場から帰ってすぐに探して引き抜いたようだった。理由は自分の剣技を少しでも補うために強い剣が欲しかったから。
向こうは善戦していたとは言え、前線だ。
その考えに至るのも無理はない。
そして、ちょうど引き抜いた後から暗殺されるようになった。国王の刺客を仕向けられたり、毒を盛られたり。
それを防いでいる中、暗殺を諦めたのか、国王から勇者にならないかと言われ、どうせ城にいても命を狙ってくるのだから冒険をしたかったのだと言う。
勇者ウィンドルは話す途中で言葉に詰まり、泣き出すこともあった。その度にハイヤーは謝り倒すので、本当に仲介者は必要だった。
対してそのハイヤーは、勇者の剣という存在が怪しいと思い調べたところ、本当に3000年前にあった勇者の剣の模造品だと発覚。国王に聞くと、今の魔王が作ったそうだ。
ついでに呪いとして持ち主が魔王になると聞いたときた。
それは姫を慕う人としては、居ても立っても居られないだろう。
それが発覚してウィンドルに剣を手放すように何度か言ったようだが効果なしで、ちょうど勇者になる話を聞いて、計画を立て、このダンジョンを作り、今に至るようだ。
それを聞いてミササギは考える。
「———ハイヤー、確認なんだけど、それは“呪い”という区分なんだよね?」
一応の確認だった。商人たる者、不確定なことは言ってはいけない。
「僕は区別が得意じゃないんだけど、“魔法”でも“まじない”でも“代償”でも“祝福”でもないってことでいいんだよね?」
「はい、ですが僧侶でも解呪はできないと。そんなマジックアイテムも存在しませんよね?」
ハイヤーはすでに調べているのだろう。確認のような言葉で、ミササギの顔を確認することもなかった。ウィンドルはずっとハイヤーのことを見ているため、彼女も気付かない。
ミササギは迷う。“呪い”と聞いて、とあるモノを思い出したが、これは言っても良いことなのかと。
迷いに迷って口に出そうとした時、すでにウィンドルは剣を抜いて、ハイヤーのことを斬っていた。なんて早業———唖然としている場合ではない!
「ウィン…ドル、様…」
体全体に斜めの線が走る。これは袈裟斬りというのだろうか、よく分からないが、とにかくヤバい。出血量からヤバいと分かる。あぁ、仲介失敗だ。
僕はこれでも旅商人。慣れはしないが、流血沙汰になる事件に出会った事がないと言えば嘘になる。むしろそこそこある。だから分かる。
それが彼の最後の言葉だと分かる。
「でも私は納得できないわ。もう貴方が信用できないもの」
頑固———でも命を狙われた貴人として、その対応は正しい。というか、本人が剣を渡さなかったとはいえ、窃盗は普通に犯罪だ。正確に言えば盗ろうとした、だがスキル禁止のダンジョンに入れたのがダメだった。悲しいほど正しい対応だ。
でも普通に人としてどうかと思う。
こういうのなんというんだったか…そう、倫理、倫理だろう。もしくは道徳。それが勇者ウィンドルには著しく欠けているように思う。
ウィンドルは再び勇者の剣を手に取り、自らの執事の首を斬ろうとした。文字通りのクビ宣告だ。
「待て待て待て!!もう死んでるよ!お前だって、そこまでやりたいわけじゃないでしょ!?」
自分でも馬鹿だと思うが、ハイヤーの前に身を乗り出して、身を挺して守るような形をとってしまった。
「勇者ウィンドルの気持ちはよぉく分かった!そりゃ不信感は積もるよね!しかも責任ある立場だ、誰を信じて良いのか分からないだろう!でもね!?死人への礼儀ってもんがあると思うのさ!」
ミササギの必死の言葉に、ウィンドルはやっと剣をしまってくれる。
彼女は王族としての意識が強い。戦争に出ていたということは、従軍していた、軍属経験があるというだから、僕という民間人には、イラついても基本手を出さない方針なんだろう。身内にだいぶ厳しいけど!
すると、通路の向こう側———入り口側からどしどしと足音が聞こえてきた。人ではない。
〈ハイヤー!〉
ウルフだ。そして恐らく、あのポーションを使った勇者パーティーのウルフだ。タイミングが良いのか悪いのか、彼彼女もとんでもない時に合流したものだ。
〈勇者、お前が殺したのか。お前の従者なのだろう〉
「…………ええ」
勇者は勇者呼びで、ハイヤーは名前呼び?もしかして仲が良いのか?
「…あー」
小さい声で呟き、自分の背負うリュックに目をやった。
ウルフは低姿勢になって今にも噛みつきそうだったが、ミササギがそれを静止させる。臨戦体制となっていたウィンドルへの配慮も忘れない。
「まあまあ!別に無益な殺傷をする必要はないでしょう!ほら、ウルフのお前もここは牙をしまうんだ」
勇者ウィンドルからは見えない位置…後ろ手で、こっそりとある液体をハイヤーにかけた。
「どうどう」
ウルフの方へ振り向いて、頭を撫でながらさらに小さい声で話す。
「万能薬だ。微かに息があるから、早く彼を連れて逃げろ」
〈…お前は誰だ?〉
あの時はすぐに帰ったので、当たり前だがウルフはミササギのことを覚えていないようだった。
「しがないマジックアイテム売りだよ」
冷や汗をかきながら自己紹介をしたのは初めてだった。震える手で名刺をハイヤーのジャケットに入れ込む。
「今後も何かあればご贔屓に」
◾️
「…貴方、名前は」
恐る恐る後ろを向けば、勇者ウィンドルがこちらをじっと見ていた。
「ミササギ」
そういえば名乗っていなかったな、と思う。
「ミササギ、貴方が今ここにいるのは本当に偶然?それとも…いえ、やっぱりいいわ」
それより、と続けて。
「人の嘘がわかるような、マジックアイテムはあるかしら?」




