竜の背中の上で
全身で風を切る感触。
少しヒヤッとしているものの、全身にかかる何とも言えない風の力はこれまで肌で感じた何よりも格別だった。
私は握っていた紐から手を離し、両手を左右に大きく広げてその風を楽しむ。
ふと上を見ると、遮るものは何もなく無く満天の夜空。
光には強弱があるものの一つ一つが宝石のように綺麗に、それでいてはっきりと見ることができる。
雲もないため、輝いているものは全て見ているのだろう。
――もしかしたらこの手で取れるんじゃないか?
そう思って手を伸ばすものの、空を切る。
当たり前で馬鹿なことをしていると思うものの、つい顔がにやけてしまう。
その手を見つめつつ、自然と言葉が漏れた。
「こんなきれいな夜空を初めて見た……」
「ふふふ。良かったですね」
「僕が空を飛ぶときはいつものこんな感じだけどねー。そんなにも綺麗かな?」
「うん、とっても綺麗だよ。これまで見た夜空の中で間違いなく一番。私、夜空がここまできれいだなんて知らなかった」
「まだまだ先は長いですし、いっぱい楽しんでくださいね」
「そうだよ。まだまだ時間はかかるからね~」
「ありがとう」
飽きることなく空を見上げる。
すると、ふふふっと笑い声が聞こえる。
「もしかして、クロ様は空を飛べないのですか?」
「まぁね。一部の魔法使いは少しの間なら空を飛べるけど、そもそも魔法自体がからっきし駄目なんだ。雷槍しか使えないし」
「ということは、空を飛ぶのは……」
「もちろん初めて。こんなにも気持ちいいって知らなかった」
「えっ!何を言ってるの、クロ。みんなで一緒に飛んだことあるじゃん」
「えっ、そうなの!?」
「ホント早く思い出してよね~あの時のクロったら『怖い!』って泣き叫んで大変だったんだから!」
「……」
確かに昔の自分なら、確かに言いそうではある。
なんなら、さっきまで同じような言葉をずっと叫んでいた。
あと、すべてを忘れている私に対して、メルナは明るく笑いながら話してくれる。
――メルナと一緒にこんなに素敵な空を飛んだことがあるんだ
その時も同じように風を切る感触に感動を覚えたのだろう。
色々な話をして、その時間を全力で楽しんだはずだ。
もしかしたら、あまりの高さに泣き叫び続けた可能性もあるけど。
……ただ何一つ、思い出すことができなかった。
その事実だけが胸に突き刺さる。
友達だったであろう人が目の前にいるのに、私は何も覚えていない。
心の奥から何かがこみあげる。
涙腺が緩みかけ、メルナの言葉に対してすぐに答えることができなかった。
下唇を必死に噛んで、心を落ち着かせてから答える。
「うん、絶対に思い出すから……少しだけ待っててね」
「大丈夫!思い出すよ!!」
「……ありがとう。メルナちゃん」
「あと、もし疲れたんだったら勝手に寝てくれてもいいからね。落とさないようにゆっくり飛ぶからさ」
「なら、お言葉に甘えちゃおうかな」
私は足でメルナの背中をつかみつつ、仰向けにゴロンと倒れた。
目の前すべてが夜空に変わる。
何も考えずにその風景を楽しむ。
リリィとメルナは久々に会ったからか、最近あった話やおいしいご飯屋、噂話などで盛り上がっていた。
魔界の話が大半なので私は話の内容が全くわからなかったので、ただただ聞き流す。
でも、何も悪い気はしない。
これまで私がいた場所みたいに、喧嘩や無言の空間よりも。
凄く居心地が良かった。
今までの疲れがどっと出てきたのか、まぶたが急に重くなってきた。
竜の背中はぽかぽかしていて、飛ぶために羽を上下に動かす振動が絶妙に心地いい。
私は自然と目を閉じていた。
・・・・・・
「…ロ様、クロ様!」
「クロ、そろそろ起きてよ~」
包み込まれるような優しい声が二つ聞こえる。
自分の体が揺らされていることに気づく。
「……ふわぁ~」
大きな欠伸と共に目を覚ました。
リリィはわざわざ体の正面を私の方に向けて、いつもの笑顔でゆっくりとゆすってくれていた。
誰かが私を優しく起こしてくれるなんて、いつぶりだろうか。
体を起こしてからうーんと伸びをした。
お日様は昇っていて暖かな光を全身に受ける。
目の前にあったはずの夜空は澄んだ青色の世界に変わっていた。
私は起き上がり、起こしてくれた二人に声をかける。
「おはよう、リリィ、メルナちゃん」
「おはようございます。クロ様」
「クロ、おはよう~。人間の町に最も近い魔界に町のラディアは通り過ぎたから、サーフィアの町近くに着くよ!」
「えっ!?もう着くの?」
「そりゃ、僕が超頑張ったからね!」
メルナが鼻息荒く答える。
私はメルナの大きく暖かな背中をゆっくりと撫でた。
「ありがとう。夜通し飛んでくれたってことでしょ?」
「もちろん。結構疲れたけど、竜族は一日程度なら寝なくても全く問題ないからね~。あと、ずっとリリィも寝ないで話に付き合ってくれたし」
「わたくしもメルナちゃんとずっと話せて楽しかったですよ。またお話しましょうね」
「約束だよ!そう言って、いっつも呼んでくれないんだから」
「ふふふ、今回こそ約束です!」
リリィも満面の笑みでメルナの背中をナデナデしていた。
優しさにあふれたリリィ笑顔は、横からのお日様の光も相まって少しだけ愛しいと思ってまった。
じっと見ていたのに気づいたのか、ふふふ、と笑って撫でていない方の手を振って来た。
私は急に恥ずかしくなってしまい、顔をサッとそむけてしまう。
「ねぇ!クロ!」
メルナから呼ばれ、顔をフルフルと横に数回振り意識をはっきりさせて応える。
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