赤竜のメルナ
真っ赤に燃えるような二つの瞳。
赤い鱗はびっしりと並び、星の光によって宝石のように赤くきらめいて美しい。
そして、口元からは静かに炎がこぼれ出ていた。
ゆっくりと翼をはためかせながらこちらをジッと見ているのは、ここ数年全く姿を現さなかった伝説の魔族と言われている……
私は声の震えを止めることなく、リリィに話しかける。
「ねぇ……あ、あれって」
「ふふふ。魔界最速の乗り物ですよ」
「乗り物……いや、絶対に乗り物じゃないよね!?」
「空も飛べますし、とても強いので安心安全です!」
「空が飛べる中では断トツの最強だとは思うけど……」
「名前はメルナっていうんです。ちなみに女の子なので、女子会ができますね!」
「メルナちゃんっていうんだ……いや、あの竜が?女の子!?」
目の前にいる巨大な竜とリリィを交互に見てしまう。
余りの情報の多さに頭にハテナが量産されてついていけない。
竜は近づいてきて広々したバルコニーに下りて、翼をたたんだ。
リリィがスッと近寄り、竜のメルナの頭を両手で抱えて愛おしげに撫でる。
メルナは目をゆっくりと閉じて感触を楽しんでいるようだ。
「リリィ、久しぶり!半年くらい呼んでくれなかったから寂しかった!!」
「ふふふ。ごめんなさい。とっても忙しくて……わたくしも寂しかったわ」
軽やかでさっぱりしつつ、少し高めの声が竜の口から響く。
確かに、少女っぽい。
久々に会うなんて、いい話だ……じゃない。
竜が人間の言葉を話している!?
そんなこと聞いたことが無い。
いつもは巨大な火球を吐くか、大地を揺らすほどの大きな咆哮を上げている印象しかない。
とはいえ、実際にこの目で見たのは初めてだが。
空いた口は塞がらずポカンとしてしまう。
そんな私は居ないものとして話が進む。
「そもそもどこにいたの?城の中で何度も会いに行こうしたけどリリィの部屋はずっと閉まってたし」
「ふふふ。それは秘密です」
「また~、リリィは秘密が多すぎるって!」
「良いじゃないですか。メルナちゃんも秘密の一つや二つはあるでしょ?」
「ぼく?ないよ。基本的にオープンだから!」
「なら……」
リリィは竜のメルナのお腹を指さす。
メルナは大きな体をビクッと揺らして反応してしまう。
口の中にためているであろう炎もチロッと漏れ出ている。
「最近太ったでしょ」
「な……!」
「ダイエット器具を買いましたね?」
「どどど、どうして知ってるの!?」
「ふふふ、それは……」
「それは!?」
「わたくしがこの城の情報を司るメイド長だからですよ」
「ふ、不覚」
メルナからグルグルグルと喉を鳴らす音が聞こえる。
その後もメルナとリリィがダイエットの話を仲良く続ける。
久々に会ったからか、話が尽きないらしい。
うーん、何を見せられているんだ?
話を聞く限り仲の良い二人が話をしているだけ。
でも実際は自分の百倍は大きい赤竜と、魔王の側近であり魔族の中のNo.2であるメイドの会話なのであるが。
威厳溢れる竜のイメージが私の頭の中でガラガラと崩壊していくのがわかる。
「でも、それもこれもリリィが悪いんだよ!一緒に飛んでくれなかったからお腹が……」
「それなら良かった!!」
「えっ、一緒に飛んでくれるの!?」
「うん!今からサーフィアの町の近くまで飛んで欲しいんだけど、いい?」
「えぇ、サーフィア!?……さすがにちょっと遠いよ~」
メルナからは露骨に嫌な声が出る。
こんな巨大な竜が飛ぶのを嫌がるぐらい遠いってことなんだ。
ちゃんとリリィの提案を受けてよかった……
「ねぇ、お腹を引っ込めたいんでしょ?わたくしとクロ様をお願い」
「リリィとクロ様?」
クロという言葉から何かを思い出しているようだ。
「ク……ロ……あれ、それってもしかして!?」
大きな首だけを動かして、私の顔近くまで近づいてくる。
品定めをするかの如く、赤い瞳で顔をジッと見つめられる。
何なら、鼻をひくひくさせながらにおいまで嗅がれている。
あまりの恐怖に体が凍り付いたかのように私は指一本動かせなかった。
目の前の竜がそのまま大きな口を開けたら、私なんてパクッとされて終わる。
口の中の炎の熱さなのか、恐怖によるものなのか、全身の汗も止まらない。
じっと見ていた赤い瞳が何かを思い出したかのようにスッと細くなり顔が笑顔になった……気がした。
巨大な頭を離すと、陽気な声で話しかけてきた。
「やっぱり、クロじゃん。久しぶり!元気にしてた!?」
「……っ!?え、えぇ。元気にしてた……よ」
「全然会えてなかったからね。ほんといつぶりだろ?」
「えぇ、そうだね……」
「ちゃんと来るなら迎えに行くから遠慮なく連絡してって言ってたのに、忘れてたの?」
「……ご、ごめん」
「急にこんな大きくなるからすぐにはわからなかったけど……あの頃よりもしっかり胸も大きいし、背も高いし、何よりも美人になったね!私の予言通りじゃん!!」
「……あ、ありがとう」
あまりの状況にうわの空で返事をしてしまう。
なんだ?
初めて会ったのに……どうして、昔からの友達みたいな感じで話しかけてくるんだ?
そんなことを察してか、少しずつ笑顔だった竜の顔が険しくなり、チロチロと口から炎が溢れる。
「ねぇ、もしかして……ぼくのこと覚えていないとか??あれだけ一緒に飛んだり、遊んだりしたのに!?」
「そんなことは……いや、ごめん……」
「えっ!?冗談のつもりだったのに、本当に忘れちゃったの?ちょっとショックかも……いや、もしかしてこの姿が……」
「ねぇ、メルナちゃん」
メルナの話を遮って、リリィが助け舟を出してくれる。
「クロ様は、ついさっき死んで復活したばかりらしいの」
「死んだ!?つまりクロが負けたってこと?……あれだけ修行してたのに、やっぱりまだまだお子ちゃまってことか~」
「それで記憶が少し混濁しているらしくて」
「えっ、記憶が!?ねぇ、大丈夫!?」
メルナはその大きな瞳で私の方を見つめる。
その声や言動からも、心の底から心配していることは私でも感じた。
「えぇ。急に思い出させちゃうとしんどくなるから、おいしいものを食べて、自然と思いだしてもらおうと思ってね。だから思い出のあるサーフィア近くまで連れて行こうって話になったの」
「そうなの……わかった。別にクロのためだったら、サーフィアまで飛ぶよ。僕の背中でゆっくりしてね」
機嫌を損ねていたメルナは再びにっこりして私の方を見た。
「ありがとう。その……心配してくれて……」
「友達なんだから心配して当然じゃない?ちゃんと思い出したら何かおごってよね」
「……うん。絶対に」
心の底から湧き上がって来た言葉が口から出ていた。
そして唇をギュッと噛み、目を服の裾で拭った。
私は魔族の頂点である竜と友達だった……らしい。
そして、私の記憶が無いことでショックを受けて、しょんぼりしてくれたし、心の底から本気で心配までしてくれている。
そんな仲だった友達のハズなのに……
赤の他人と同じように、私はメルナとの記憶を何一つ思い出すことができなかった。
勇者になる前の記憶が無いことが自分にとって気持ち悪いのは確かだが、仲の良かった友達を気づかない間に傷つけているという事実が何よりも辛かった。
胸がギュッとなる。
「メルナちゃん、とりあえずわたくしとクロ様を乗せてサーフィア近くまで飛んでもらっていい?飛んでる間に色々お話したいし。あと……」
「……うん、わかった。クロのためになるなら別にいいけど……」
「お願いね。じゃあ行こうか!」
リリィはコソコソと何かを伝え、メルナもうなづいた。
メルナはその場で翼を畳んで屈み、竜の背中部分をこちらに近づけて、乗りやすくしてくれる。
「さぁ、二人とも行こう!!」
「クロ様、どうぞこの紐をお手に」
「ありがとう……って、うわっ!!」
先にリリィがメルナの背中に乗り、私がその後ろに乗った。
リリィが魔法で赤い紐のようなもの出してくれたので手に取った瞬間、急に空高く舞い上がりこれまで体験したことのないような猛スピードで飛び始めた。
私は必死に渡された紐を握る。
「ねぇ!速いって!!!」
「ふふふ……優しく手に取ってあげてくださいね」
「そうだよ!その紐は僕の体に巻き付いているから、強く引っ張ったら僕が苦しいんだから!」
「わかったから……もう少しゆっくり……」
「嫌だね!僕を忘れた罰ってことで!」
「ちゃんと謝るから、もう少しだけゆっくりにして!お願い!!」
「~~~♪♪」
私はそのあと必死に謝り続けたものの、メルナは鼻歌交じりでしっかりと無視された。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
「この話面白い!」「続きを読んでみたい!!」思う方は、是非以下をお願いします!
①ブックマークのほど、何卒よろしくお願いします!
②広告の後にあるポイント評価欄を
『☆☆☆☆☆』⇒『★★★★★』
にして評価をしていただけると、めっちゃ喜びます!!!
どれも私のモチベーションにつながります。
毎日を更新を続けるためにも是非お願いします!




