ハンカチと言伝
「……ロ様、クロ様!!!!」
「あっ……」
眼前には焦ったリリィの顔。
私の両肩を握って、必死に揺らしていた。
「しっかりしてください!大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫。どうかしたの?」
「どうかしたの、じゃないです!クロ様はそのハンカチを見た瞬間、急に電池が切れたみたいにボーっとして……話しかけても全く反応はないし、びっくりしましたよ」
「ごめんなさい。ちなみに、どれぐらいぼーっとしてた?」
「大体、十秒ぐらいでしょうか」
「……」
私は眉をひそめてしまう。
明らかにそんな短くない内容だった。
空から注ぐ暖かい光、草のにおい、少女の声、手に触れた時の温かさ……
それらすべてが感触として残っていて、経験したとしか思えないぐらいリアルな内容だった。
そんなことを考えていると、リリィが心配そうに尋ねてくる。
「因みに、何か思い出しましたか?」
「えぇっと……私はリンっていう少女と出会っていたんだと思う」
「リン……?」
「どうかした?」
リリィは顔をしかめ、首をかしげながら手を口元に持っていく。
「いえ……因みにその方はどんな方でした?」
「たぶん、さっき話した子と同じ人だと思うんだけど、えーっと……」
夢で見た少女の特徴を話す。
濃い青のワンピースを着た少女で年上のお姉ちゃん的な感じ。
声はきりっとしていて、瞳は透き通るような青色。
魔族で、指パッチンをしたら頭に二本の角が出てきた話もする。
話を聞くリリィはどんどん笑顔に変わっていった。
「……って感じの人だった」
「ふふふ、その方がリン、と名乗ったのですね」
「えぇ。ちなみに、魔族でリンっていう人はいるの?」
「人型の魔族でリンという名前をわたくしは聞いたことがありませんね」
「そっか……」
リリィは首を横に振りながら答えた。
私は少しショックを受ける。
だが、その顔は明らかに不自然なほどにこやかだった。
――この顔、絶対知ってるけど言わないやつだ
ここまでリリィと話してわかったが、リリィはメイドの格好はしているものの感情が豊かなため意外とわかりやすい。
ただ、意思も岩のように固いため、ここで問い詰めても「そんなこと言われても……わからないです」とか言って何も教えて貰えない可能性が高すぎる。
どうすればよいのか……自然と手をギュッと握るとそこに何かの感触を思い出す。
そこには意識を失っていたため渡し損ねていたハンカチがあった。
これなら何か聞けるかもしれない……
そう思い、ハンカチをリリィの方に差し出して尋ねる。
「これ、ありがとう。ちなみに、このハンカチは誰のものなの?」
「もちろん、わたくしの物ですが。ただ……とても大切な宝物です」
「大切な物……誰かからもらったの?」
私からハンカチを受け取ったリリィはそのハンカチの皺を払い丁寧に四つにたたむと、ポケットにしまった。
そして唇の端を少しだけ挙げて、小悪魔みたいな感じで笑った。
「ふふふ……どうしてそんなことを聞くのですか?」
「可愛い花の模様がついていたから、私も欲しいなぁって思っただけ」
「リンって少女から、似たようなハンカチを借りたのでしょ?」
「い、いや。別に……」
図星だったので、つい声がうわずってしまう。
「ふふふ、クロ様はわかりやすいですね」
「……あなたには言われたくない」
「何か言いましたか?そのハンカチについてせっかく何か話そうかと思ったのに……」
「冗談だって!お願い、何でもいいから教えて!!」
「初めからそう言ってくれたら教えて差し上げるのに。でも、残念ながらこれは元から私の物です」
「……はぁ。なら私が気にしすぎってことね」
「ただ……」
リリィが何かを答えようとした瞬間、何かを思い出すかのように遠い目をしたのに気づく。
そして誰に言うわけでもなく、独り言のように呟いた。
「一時だけ、わたくしの手元を離れて色々なところを旅行していたようですが……」
「旅行?」
リリィは人差し指を立てて口の元に近づける。
「ふふふ、お気になさらず。ただの独り言ですから」
「そう言われても、気にはなるんだけど。ハァ……私の記憶が無くなっているなんて、思いもしなかった。その上、どうやったら記憶が戻せるのかわからな……いや待って」
私はリリィの瞳をじっと見る。
リリィは顔をそむけ、わざとらしく恥ずかしそうな素振りをする。
「ふふふ、急にそんな情熱的な目線を送られても困りますわ。わたくし、同性のクロ様に対して、まだ恋愛感情は……」
「馬鹿な事言わないで。どうして私があなたなんか……いや、今はそんなことどうでもいいの」
コホンと咳払いをする。
「そもそもあなたはどうして、私の記憶が無いことを知っていたの?」
「おっしゃっている意味が分かりませんが……」
「私に記憶があるかを尋ねたよね?それも無くなっている時期もピンポイントで。それって私の記憶について何か知っていないとそんな質問できないと思うのだけど?」
「……そうですね」
恥ずかしそうな素振りから一転、ここまで話を始めてからほとんど絶やしていなかった笑顔が顔から無くなった。
そして、何かを思い出すように私から目をそむけつつ、口を開く。
「信じて頂けるかわかりませんが、この言葉は誰かからの言伝のようなものだとお思い下さい。つまり、わたくしには詳しい話はわかりかねるのです」
「つまり、あなたじゃない他の誰かが、私が記憶を失っていることを知っていて、それをただ伝えただけってこと?」
コクリ
言葉はないものの、リリィは小さく頷いた。
「ちなみに、その伝えた人が誰なのかを教えてもらえない?」
「それだけはお教えできかねます。申し訳ございません。」
「なら仕方ないか。で、記憶を思い出す方法について何か言伝はあるのかしら?」
「お話した通り、記憶の部分以外の言伝は何もお答えできないです……が、記憶を少しでも思い出したのであれば、その場所に実際に行くのはいかがでしょうか?何か思い出すかもしれませんし」
「いい案ね。確かあの場所は……」
目を瞑りゆっくりと思い出す。
ここで復活した時に見た夢も、さっき見た夢も、全く同じ場所だった。
一面が芝生で、ポツンと置かれている特徴的な木のベンチ。
あれは確か……
「サーフィアの町の外れだ」
「魔界に最も近い人間の町、サーフィアですか?」
「えぇ。そのから少し歩いたところに一面芝生の広い場所があるんだけど、ちょうど魔界と人間界の間だから、誰も近づかないのよ。よくあの場所で勇者になるための修行をサボっていたから間違いない」
「ふふふ。修行をサボっていたんですか?」
「……別にいいでしょ。私だって別に勇者になりたくてなったわけじゃないのよ」
「なら、どうして勇者になられたのですか?」
「正直わからないわ。いや、覚えていないだけかもしれないけどね」
私はため息をついてしまう。
そしてリリィに向かって尋ねた。
「そんなことはどうでも良いでしょ……そもそも私はこの後どうなるの?捕虜としてここで捕まってればいいのかな?」
「そんな無駄なことはしなくていいですよ」
「無駄って……そしたら、人間の町まで帰っていいの?」
「もちろん、ご自由に。何をしていただいても結構です」
「えっ……やった!ホントに!?」
「ただ……」
リリィはリリィ自身にゆびを指した。
「わたくしと一緒に行くことが条件になりますが」
リリィは満面の笑みを浮かべた。
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