魔王の能力とこの後について
サッとリリィがハンカチを手渡してくれる。
それを受け取り、涙を拭いて返す。
「ありがとう」
「いえ。お気になさらず」
「色々謎が解けてよかった。ようやく『不殺の勇者』と共に生きていける気がする」
「それは良かったです」
「あと……話を聞いて少し思ったんだけど、もしかして魔族が人間側を急に攻撃するのをやめたのも……」
「それも魔王様の意向でした。まぁ、様々な魔族を説得するのに時間がかかり、数年かかってしまったのですが」
色々腑に落ちた。
宿屋で魔族の攻撃が止まった話をした時、二人がどうして納得していたのかを。
リリィは暖かな眼差しでこちらを見ていたが、その目も一瞬で真面目な顔つきになる。
「話を戻します。そして現在、魔王様は……」
「ドワーフのルドさんが行方不明って言っていたけど、本当は?」
「あの話は事実です。魔王様が今、どこにいるのかは全くわかりません」
「いつからいなくなったの?」
「半年前からですね。なので、魔王城はもぬけの殻、みたいなものです」
「だから……私の記憶を戻す旅について来るなんて言い始めたわけなんだね」
「もちろん。ちゃんと魔王城を出る時、ちびメイドたちには魔王様のお世話ではなく『この城のお世話をお願い』とお伝えましたし、お暇も頂くことができたというわけです」
確かに。
お世話する相手がいなければ、城の世話をお願いとしか言えない。
よく考えてみると、あれだけ色々魔王城に居たにもかかわらず、リリィ以外の魔族と誰とも会わなかった理由がよくわかった。
「ねぇ、リンちゃんがどうしていなくなったのか誰も知らないの?」
リリィは静かにうなずいた。
横でメルナがお茶を飲みつつ、プクーと膨れた。
「魔王様は本当に何も言わずにどこかに消えちゃったの。そのせいでリリィは色々なところの調整や戦闘の指揮とかを引き継いだってわけ……とはいえ、前からリリィがやっていたから別に大きな混乱まではなかったんだけどね」
「ふふふ。その部分は助かりました」
「何か手がかりはないの?」
「うーん……」
リリィは手を口元に持って言って、必死に思い出しているようだ。
「ないですね。居なくなる直前に魔王様から色々伝えられたことはありますが、それぐらいしか……」
「えっ、まって。それは初耳!!僕に聞かせてよ!!」
メルナも身を乗り出してリリィの話を聞こうとする。
「居なくなる直前の話ですが、魔王様が慌てた様子でわたくしの方まで来て、『今すぐ旅に出る、戻ってくるのはかなり後になると思う』と言いに来たのです」
「リリィだけずるい!ちゃんと最後の挨拶ができてるじゃん」
「いえ、わたくしもちゃんとした挨拶はできてないです。だってその後に続けて、『半年後ぐらいに魔界に誰かくる。その人を魔王城に来るように色々準備をしておいてほしい』と言われてから、そのまま部屋を出て行きましたので」
「えっ!?どうして??」
次は私が大声を上げてしまう。
「半年前から私が魔王城で復活することがわかっていたってこと!?」
「いえ、そこまではわかっていなかったはずです」
「なら、どうしてそんな話がでたの?」
「えぇっと、それは……」
リリィは何かを知っているようだ。
それを話すべきかどうかを必死で考えている。
周りに誰も他の魔族がいないことを確認して頷き、ゆっくりと答えた。
「絶対に他言無用でお願いします。これを知っているのはわたくしと魔王様だけなので。魔王様には……予知能力があるのです」
「……えっ?」
「ホントに!?」
私だけでなく、メルナも口を開けて驚いていた。
いや、言葉として聞いたことはあるけども……
「予知能力!?僕、魔王様からそんな話聞いたこと無かったけど!?」
「いえ、予知能力と言っても、魔王様の奴はかなり限定的なのです。運命のターニングポイントになる部分がほんの少し見える程度だそうです。あと、このことを話さないのは、知っている人が多くなることで未来予知の精度が低くなるかららしいですが……」
「でもそれって、なんか中途半端な能力ね」
「そうとも言い切れません。そもそも、どうしてクロ様は魔王様とあのベンチでお会いできたと思っていましたか?」
「えっ……それはどういう……こと?」
その先のことを聞くのが怖いのか……鳥肌が止まらない。
「言い換えましょう。どうして魔王様があの丘のベンチで泣いているクロ様に出会ったと思いますか?」
「その出会いも……たまたまじゃないってこと?」
「魔王様はあの日、出発前にわたくしにこうおっしゃっていました。『私たち魔族と人間との関係が変える人がラディアとサーフィアの間らへんにいるらしいの。だからちょっと行ってくるね』と」
「つまり、リンは私に会いに来たってこと?」
「えぇ、そうです。ただ、まさか行った先で出会ったのが少女で、将来勇者になる子だとは思いもしなかったようですが。魔王城に帰って来た時とても驚いていたのを覚えています」
「……」
息をするのも忘れてしまう。
私に声をかけてくれたのは、偶然ではなかったのか……
「今のお話でも分かったと思いますが、魔王様の予知はかなり限定的な上にその内容はすごくふんわりしているのです。ただ、その日を境に魔王様がいなくなったことと、その予言は、運命を大きく変えるほど大切であるのはわかっておりましたので、わたくしはその日から部屋に引きこもってあらゆる魔術を施していました」
「だからか~。僕をあんまり呼んでくれなかったのは」
「メルナちゃん、本当にごめんね」
「うん、いいよ。リリィが部屋に引きこもって必死に何かをやっていたことは知っていたからね」
メルナは手を上にあげ、体のコリをほぐすかのように大きな伸びをしながら答える。
「だから……私を見つけたとき、『探していた』と言ったのね」
「おっしゃる通りです。とはいえ、まさか勇者の復活先が魔界で、こっちの場所に飛ばされてくるとは思いもしなかったのですが。でも……正直あの時はとっても嬉しかったんです。魔王様が必死になって記憶を戻そうとしていた方が目の前に来てくれたので」
魔王城のことを少し思い出す。
だから、リリィはずっとニコニコと嬉しそうにしていたのか。
「なるほど、色々わかった。でも、もう一つだけ教えて欲しいんだけど」
「なんでしょう?」
「どうして、今までリンのことを教えてくれなかったの?」
「……」
リリィが珍しく言い淀む。
「それは……わたくしに自信が無かったのです」
「自信?」
「そうです。記憶を失ったクロ様に魔王様の話をして、信用してくれるという自信が」
私は、何も言えなかった。
その通りだろう。
仲間に殺され、復活した先が魔王城で、その夢に出てくるのが魔王であなたは仲が良かったんだ……なんて言われて、信用できるはずがない。
リリィやメルナの優しさに触れ、あの像を見た今だからこそリリィの話をすんなり信じることができている。
「ごめん、悪かったわ……たぶん、魔王城にいる時に話しても、信じなかったと思う」
「良いタイミングを計っていただけと思ってくだされば」
「そうね。今が一番良いタイミングだったと思うわ」
「ふふふ、それは良かったです」
ようやくリリィがいつもの感じで笑ってくれた。
その笑顔を見て少し安心できた。
すると、メルナがつまらなさそうに口を開ける。
「で、これから僕たちはどうするのさ?」
「わたくしはもちろん、魔王様を探そうと思います。クロ様はいかがなされますか?」
「私は……」
リンを探したいと思いつつ、記憶を取り戻すことも進めないといけない。
あと、勇者としてどうするのかも決めないといけなかった。
ただ、私にはもう一人、問い詰めないといけない人物が頭の中で思い浮かんでいる。
もちろん、私から会いに行くことなんてできないが……会える可能性が高まる方法が一つ思い浮かんでいた。
だからこそ、直近のやることだけは私の中で決まっていた。
「私は……この町を攻めるって言っていたアイクを止めようと思っている」
「お仲間と戦わないといけなくなると思いますけど……辛くはないのですか?」
リリィは心配そうに話しかけてくれる。
「もちろん辛いと思う。でも、リンのためにもこの町を守らないといけないし……アイクを止めれるのは私だけだから」
「……わかりました。なら、わたくしもお手伝いいたしましょう」
「仕方ないなぁ~なら僕も手伝う!」
「えっ!?」
どうして!?
勇者パーティーの喧嘩みたいなものなのに。
簡単に手伝ってくれると言ってくれたことに驚いてしまう。
「いや、仲間同士の喧嘩みたいなものだから別に……」
「全く気にしてないよ?僕は自分の町を守りたいだけ。リンのお仲間には全く興味ないから」
「わたくしも魔王様のいない間、魔界の町を守る義務がありますので。ただ、そのかわり……」
リリィはウインクして右手を出してくる。
「この戦いが終わったら、一緒に魔王様を探す旅に付き合ってくれませんか?」
自然と……笑みがこぼれる。
もちろん、右手を出して握った。
「もちろん、私の記憶を取り戻すのも手伝ってくれるんだよね?」
「ふふふ。それは、この町を守れた時の成果報酬ってことでいいですか?」
「えぇ。いいよ」
「ねぇ、僕も二人と一緒に行っていい?魔王城に居るの、暇なんだ!!」
「もちろん、いいよ!!」
「メルナちゃんと旅をするなんて、凄く楽しみです!!」
リリィと握手しているところにメルナも手を乗せた。
みんな、素敵な笑顔になっていた。
二人の手はとっても温かく……
久々に心も暖かかった。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
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