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とあるカフェにて


お日様が真上を過ぎ、少しだけ傾き始めたころ。

私はカフェの椅子にぼーっと座っていた。



広場で色々聞きたかった私だったが、リリィの提案によってカフェで話をすることにした。

リリィのおすすめの店に入り飲み物をオーダーして飲み物を待っていた。

色々あったためか、くたくたになっていた私は椅子の上で放心状態だった。



店員がオーダーティーポット一つとカップが三つおいてくれる。

自分たちで注ぐスタイルのようだ。



当たり前のようにリリィが椅子から立ち上がってそのティーポットを手に持った。

そして、少し赤みがかった透明な液体を全く同じ量を注ぎ込む。

手際は完璧でかつ優雅なので、ずっと見てられる。



私とメルナの前にそっとカップを置いた。



「はい、どうぞ。魔界のお茶です。とってもおいしいですよ」

「待ってました!これが大好きなんだ。頂きます!」



メルナはすぐにカップを手に取り、飲み始める。



「あぁ……いい香り。本当においしい」

「ふふふ。まだありますから」

「うん、でも次は自分で入れるから置いといて」

「わかりました」



リリィも椅子に座り、

ゆっくりとカップの中の物を飲み始めた。

私は、カップを手に取ったものの、どうしても飲むことができなかった。



「どうかしましたか?」



そんな私を見て、リリィが心配してくれる。



「別に……まだ気持ちの整理がついていないだけ」

「すみません……これまで何もお話ができず」



リリィは頭を深く下げる。



「そんなことやめて。私に話せない理由があったのでしょ?」

「えぇ。でも……ようやく、すべてお話することができます」

「ホントだよ!魔王城で『魔王様のことは記憶に悪いから言わないで』なんて言ってくるから。気にしちゃってクロと話しする度に気を使ってたじゃない」

「メルナちゃん、ごめんなさい。これも魔王様からのお願いだったから」



リリィは肩の荷が下りたようすで、息を吐きながら答える。

ここまで疲れている様子を見るのは初めてだ。

いつも笑顔を絶やさず、戦闘も家事も完璧で、疲れも知らないのだろうと思っていた。



ただそれは、彼女自身の頑張りの上に成り立っていたことを知った。

そんな彼女を見て、責める気持ちは全く生まれなかった。



「正直、何から聞けばいいのかわからない……。先にリリィから話せることをすべて話して欲しいんだけどいいかな?」

「えぇ。わかりました」



リリィはすぐに背筋をピンとさせ、こっちを見て話し始める。



「まず初めに知って頂きたいのは、魔王様はずっと……後悔されておりました」

「リンちゃんが後悔……それはどうしてなの?」

「口癖のように言ってたのは『私があの最後の夜、クロの言うことをちゃんと聞いて、勇者になる以外の道を選ばせてあげればこんなことにはならなかったのに』と言っておられました」

「ねぇ、それって……」

「えぇ。魔王城の中で私とお会いしたときに、お話していただいた夢の内容かと思います」



それって、魔王城で復活するときに見た、一番初めの夢のお話……

私が勇者になるのを悩んでいるって少女に打ち明けた夜の日のこと。

それを……ずっと後悔してくれていたんだ。



「魔王様はクロ様が勇者になり、すぐに勇者パーティー共に魔族と戦っている話を聞き違和感を覚えたそうで。すぐに実際に戦う姿を遠くから何度か見られて、クロ様の記憶が無くなっていると、お気づきになられました」

「いやいや……どうして見ているだけで気づけたの!?」



つい強く尋ねてしまう。

魔王城にいたころから、ずっと疑問に思っていたからだ。

どうして私が勇者になる少し前の記憶だけ無くなっていることを知っていたのか。



「だって、リンちゃんは私が戦っているのを見ただけで記憶が無くなっていると気づいたって言ったけど記憶が無くなっているかなんて、ただ見ただけじゃ分からないと思うけど。それも勇者になる前っていう期間も含めて……確かリリィは私に魔王城にいる時にピンポイントで聞いてきたよね?」

「もちろん、わたくしはクロ様が本当に記憶を失っているのかは見ても全くわかりませんし、記憶を失っている期間含め魔王様からお聞きしていただけですので」

「でしょ?じゃあなんでリンちゃんはそれがわかったの?」

「それは魔王様がクロ様と共に一年間、しっかりと修行していたのが理由です」

「?」



全く意味が分からない。

一緒に修行をしていたことと、記憶を失った事との関係が見えない。

勇者になってからも修行をしていたのであれば、何か違和感のようなものを修行中に感じるかもしれない。

だが、修行をしていたのは記憶を失う期間だけなのだから、それも違う。

そんなことを頭の中でぐるぐると考えていると、リリィはしっかりと私の目を見る。



「それは、クロ様がどんな戦場においても『雷槍サンダーランス』しか使わなかったからです」

「別に私の十八番なんだから普通じゃない」

「それは、クロ様目線のお話なのです」

「えっ……もしかして」



背中が急にぞわぞわする。

記憶が無いことがこれほど気持ちの悪いことだとは思わなかった。



「お気づきになりましたか。クロ様の十八番は『雷槍』ですが、それ以外にもいくつかあったそうです。宿屋で唱えられたであろう風の魔法を使った技もあった……そのように魔王様はおっしゃっておりました」

「つまり、私の魔法は……」

「少なくともいえるのは、アイクに負けるはずがないとわたしくは思っています。魔王様曰く、無形魔法のセンスは魔王様を上回っていたとおっしゃっていました。歴代魔王の中でも魔法の能力がピカイチだった魔王様を、ですよ?」



そっか。

自分の中でようやく理解ができた。

リンとの修行の中で、本当はもっとたくさんのことを教えて貰っていたんだ。

この町に来るときに見た夢の中で習っていた風の魔法の『疾風』のように。

なのに、私がリンと会う前のように『雷槍』しか使っていない所を見れば、確かに修行をした記憶が無いと思ったというわけか……



「ようやく腑に落ちたわ。で、リリィはリンからその話を聞いていたから、魔王城で私に記憶が無いことを聞いたってわけね」

「はい。その通りです」



リリィは目の前にあるカップを手に取り、優雅に中身をすする。

そしてカップを置くと、これまで固かった顔が少しだけ笑顔になった。



ここまで読んで下さりありがとうございました。

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