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風の魔法

★☆★☆★



「リンちゃん、わたし、勇者になる日を1年間延長してきたよ!」

「オッケー!なら、その日までにとっても強くならないとね」

「うん!頑張るから、よろしくね」

「こちらこそ!」



リンはいつもと同じ青いワンピース。

別にこれしか服が無いってわけじゃないと思うけど、なぜかこの服がお気に入りらしい。

そして、集まる場所はいつものこのベンチだった。

お日様から気持ちのいい光が浴びられるぐらいに天気も良く、そのままいつもの剣の修行が始まる。



……と思っていたが、今日は少し違うようだ。



「これまで剣術ばかり見てきたけど、一度魔法も見てみたいんだけど」

「私、あんまり魔法は得意じゃなくて……」

「そうなの?何でもいいよ。使える魔法とかない?」

「一個だけで良かったら」

「わかった。一回その魔法を使ってみて」

「うん」



自信なさげに両手を天高く上げた。

そして大きく息を吸って、唱えた。



雷槍サンダーランス!」



両手の先に自分の身長より少し大きめの雷の槍が現れる。

リンはかなり驚いて、目を丸くしていた。

私はそれを手に握り、空へと投げた。



バチバチバチ!!



雷特有のはじける音と共に一瞬ではるか遠くに飛んでいき、霧散した。



「どう……かな?」

「魔法が苦手って言っていたからどんなもんだろうって思っていたけど、すごく良くできてるじゃん!この魔法、誰かに教えて貰ったの?」

「ううん……魔法が本当に苦手だったから、自分で編みだした」

「こんな魔法を一人で編みだした……」



リンは手を顎に持っていき何か考え事をしつつ、うなづいている。

なにかおかしいこと言っちゃったのかな……

私は頭を下げる。



「ごめんなさい。なんか変なこと言っちゃった?」

「どうして謝るの。とってもすごいことだよ!!」

「そう……?」

「うん、とってもすごいこと!火球ファイヤーボールみたいに火をただ出すだけの基本魔法はみんなができるんだけど、今回みたいに槍と雷を組み合わせて出す魔法は難易度が高いからできる人はある程度限られるの。クロはその才能があるのかも」

「ホント!?」

「えぇ。私が保証するわ」



わしゃわしゃ



リンは手を伸ばし、私の頭を撫でて褒めてくれる。

その手の感触を噛みしめるように、目を閉じる。

ただ、撫でるのが終わってしまい、少し寂しさを感じてしまう。



「因みに、他にできる魔法はあるの?」

「ううん、この魔法だけ。なぜか他の雷魔法もあんまりできなくて」

「基本魔法でも?」

「うん。火とか水は何も出なかった。土も全く動かなくて。だから、この魔法だけ頑張って覚えたの」



褒めて貰えた手前、素直に答える。

すると、リンの表情が少し曇った。



「ねぇ、クロ。もしこの呪文が対策されたらどうするつもりだったの?」

「対策?うーん……もっと早く飛ぶようにとか、大きくなるようにとか練習する!」

「そういう意味じゃないんだけど。わかった、今の呪文を本気で私に投げて貰っていい?」

「えぇ!!そんな危ないことできないよ」

「大丈夫。私はあなたよりはるかに強いから、お願い」



リんが真面目な顔で頼んでくる。

そこまで長い付き合いじゃないけど、この顔は何を言っても絶対に引かないやつだとすぐにわかった。

なので、諦めてやることにした。



「わかった……でも、私も危ないから少し離れるね?あと、威力は流石に二本目だから下がっていると思うけど」

「えぇ。それでいいから、お願い」



私は十歩ぐらいリンから離れる。

そして両手を天高く掲げて、もう一度集中する。



雷槍サンダーランス!!」



両手の先にさっきよりも少し小さめの雷の槍が現れる。



「ちゃんとさっきと同じぐらい本気で投げてきて!!」



リンが大声で怒鳴って来る。

もう、知らない!!

私は、全力で力を入れた。

すると雷の槍はどんどん大きくなり、さっき投げたのと同じぐらいのサイズまでなった。

それを全力でリンに向かって投げつけた。



バリバリバリ!



超高速で飛んでいく雷槍はリンが避けることができないことが容易にわかった。

あぁ、当たる!!!

私は怖くなって目を瞑ってしまう。



が、何も音が鳴らない。

いつもなら人や物に当たった時に発生する雷が落ちる時になるバリバリという音。

それが全く無かったのだ。


少し経った後に恐る恐る目を開くと、何もなかったかのようにリンは微動だにしていなかった。

ただ、よく見るとリンの前に黄色の魔法の盾のようなものが浮かんでいた。

そして、その盾からバチバチと本来聞こえるべき雷の音が響き、そして光っていた。

リンは目を開けた私をジッと見つめつつ、ニコッと笑う。



「ほら、大丈夫って言ったでしょ?」

「うん……でも、私の雷槍は?」

「この魔法の盾の中」

「えっ、嘘でしょ!?」

「ホントよ。雷が来るってわかってたら、雷を吸収する魔法を展開しておけば大丈夫なのよ。ただ、この魔法はかなり難しいから一般人だとできないと思うけどね。でも魔法ができる人が相手で雷槍だけなら、対策が簡単にできちゃうってわけ」



リンは指パッチンすると、魔法の盾がパッと消えた。



「だから、この魔法一つじゃこの先かなり大変ってこと」

「でも、雷の魔法以外はうまくいかないから……」

「因みに試した魔法はどれなの?さっき言ってた火と水と土と雷……他は?」

「他はどれもやってないの。魔法の先生が『火、水、土ができない奴は何もできない』って言ってて、それ以外は教えて貰ったことがないの。だから、雷の呪文は自分で勉強して使えるようになったんだけど、それでも雷槍以外は……」

「ふーん、相当頭の悪い変な魔法の先生に当たっちゃったわね……なら、クロが出来そうな他の魔法を教えてあげようか?試してみる??」

「えっ、教えて欲しい!」

「さて……どんな魔法を教えようか」



その時、風が二人を包み込んだ。

芝生や木からカサカサという音が響き、頬を気持ちよく撫でる。



「風……か。うん、クロには合ってるかも!」

「風の魔法……??」

「火、水、土のような魔法と比べるとマイナーな部類だけど、ちゃんとあるよ!例えば……」



疾風シルフ!」



リンは何かの呪文を口ずさんだ。

リンの足元から強い風が吹き一瞬にして周りの背の高い木を同じ高さまで空高く飛び上がった。

そして何事もなかったかの如く着地する。



「風の基本魔法は風を出すだけ。でも、それを足元に集中させることで一瞬だけど空高く飛ぶことができるの……一回試してくれる?クロがこれまで感じた風をイメージして唱えるだけでいいから」

「本当に出るかなぁ……全然自信が無いんだけど」

「できなくても、大丈夫。魔法は合う、合わないは絶対にあるから。合う魔法を探していこうよ」

「うん、わかった。頑張ってみる」



頭の中で風をイメージしてみる。

目には見えないし、手に持つこともできない風。

普通ならイメージすること自体が難しい。



でも……私の好きなこの場所で風をいつも感じてきた。

嬉しい時も、辛く苦しい時もすべてを優しく包みこんでくれるような風を。

その思いを胸に、独り言のように呟いてみる。



「……疾風シルフ



周りに吹いていた風が、一瞬止む。

次の瞬間芝生が一気に強く揺れ、遠くにある高い木が大きくしなる。

目の前にいるリンが風でよろめく。そしてこちらを向いて目を見開いていた。

そして風がゆっくり弱くなり、いつもの風に戻った。

リンが興奮しながら、満面の笑みで駆け寄ってくる。



「すごい……すごいよ!初めてなんだよね!?」

「えっ、ちゃんとできてた?」

「完璧だよ!普通はそよ風が吹くだけでも上出来なんだから」

「そ、そう?優しい風をイメージ見たんだけど」

「十分!あれだけちゃんとした風が出せるんだったら、色々できるよ!」

「ホント?えへへ、嬉しいな」



リンに褒められて少し浮かれそうになってしまう。



「たぶんだけど、クロは無形魔法が得意ってことじゃないかな!」

「むけい……?」

「火とか水、土みたいな目の前にとって触れることができる物質系魔法。逆に風とか雷みたいに手に取ることができない物を無形魔法って言うの。クロみたいに雷を雷槍にすれば手に取れるけど、雷だけだと手に取れないからね」

「ふーん。それってすごいことなの?」

「魔法はイメージだから、手に取れる水とかが一番簡単なの。逆に手にも取れないし、目にも見えない風とかはかなり難しい部類かな。そういう意味では魔法の先生が言うように火、水、土が基本になってる」

「そうなんだ……知らなかった」



私は、自分の手を見つめる。

まさか、魔法が使えるなんて知らなかった。

とても嬉しくなる。

リンも笑顔で話しかけてくる。



「良かったね!……他の無形魔法も試してみる?色々あるけど」

「ううん、いいや。私、そんな器用じゃない方だと思うから。あと……」

「あと?」



リンは不思議そうな顔でこちらを見てくる。



「私、この風の魔法が大好きみたい。リンちゃんに初めて教えて貰った魔法だから!」

「そっか!なら、まずはこの魔法で色々試してみようか。たとえば、クロの得意な雷の魔法と組み合わせて……」



日が暮れるまで、ずっとリンに魔法を習い続けた。

私にとって初めて友達から教えて貰った「風の魔法」を。


★☆★☆★


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