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リリィとアイクの戦い

私は諦め、何も動くことができなかった。


だが、いつまでたっても痛い思いはなく剣が振り下ろされた形跡がない。

恐る恐る目を開くと、必死に剣を振ろうとしているアイクがいた。

そして倒れている私の前に立って、魔王城で私にやったことと同じように剣を片手で握りピタッと止めているリリィがいた。



「リリィさん……だっけ。その手をどけてくれない?これは身内の話だから首を突っ込まないで欲しいんだけど」

「もちろん、あなた方のお話に首を突っ込むつもりはありませんよ。実際、これまで何も話さずに遠くから傍観していたでしょ?」

「なら、最後まで傍観してくれると助かるんだけど、どうして俺の剣を握っているのかなぁ。そもそも力を入れているのに剣がびくともしないし」



アイクも必死に力を入れているのがわかる。

だが、ピクリとも剣は動いていない。



「ふふふ。当たり前じゃないですか」



剣を握っていない方の手で口元を隠しながらリリィが笑う。



「お友達が殺されそうなのに、見殺しにはできないでしょ?」

「友達?」

「もちろん」

「えっと……念のためもう一回聞くけど、魔族のあんたと人間の勇者であるこいつが?」

「えぇ。何か不思議ですか?」

「不思議だね。どんなことを企んでいるのか聞きたくなるぐらいには」

「ふふふ。それは秘密です」



リリィはいつもの感じで笑顔のまま、人差し指を立てて、口の前に持ってくる。

殺し合いをしている戦いの最中であるにもかかわらず。

でも……



涙があふれる。



こんな私であるにもかかわらず、友達とはっきり言ってくれたリリィに対して。

私はその言葉を何年振りに聞いたのだろうか。




「なら、恨みはないけどお前も殺させてもらうよ。あっ、あんたを殺せるんだったら、ラディアの町は攻めないであげるけどどう?我々の面目も十分に立つから」

「申し訳ないのですが、お断りさせて頂こうと思います。まだ殺されるのは早いかなぁとも思いますので」

「そうかい。そりゃ、残念だ」



アイクは動かせない剣からパッと手を離した。

そして、リリィに向かって私の時と同じく鋭いけりを放つ。

とっさのことで避けれなかったためか、リリィは私と同じように吹き飛ばされた……が、空中で体勢を整え倒れることもなく、何もなかったかのように立っていた。

そしてスカートについた汚れを手ではたく。



「この服はとてもお気に入りなので、あまり汚してほしくないのですが」

「そのメイド服が?」

「えぇ、とっても可愛いでしょ。大好きなんです、メイド服」

「……どうしてお前みたいなやつが魔王の側近なんだ?そんな風には全く見えないんだけど」

「ふふふ。もしかして褒めてくださってます?わたくしのことがとっても可愛いからそんな風に見えないってことですか?」

「ほんと、調子狂うなぁ……」



珍しく、アイクが小さく愚痴る。

リリィを蹴った時に床に落ちた剣を拾って、かまえる。

だが、それを見たリリィは体勢も変えず、ただ突っ立っていた。



「構えなくていいのか?」

「もちろん、ご自由に。あなた様ではわたくしを殺すことはできませんので」

「言ってくれるねぇ。恨みっこなしだぜ!」



アイクはリリィにとびかかる。

明らかに私と戦っていた時よりも数段、剣筋が鋭く早い。



――私と戦ってた時、本気じゃなかったんだ。



その攻撃を見ているだけで悟ってしまった。

手を抜かれていたことを。

ただそんな攻撃に対して、武器も何も持たずリリィは避け続ける。

だが、地面にぬかるみがあったのか、リリィの動きが一瞬鈍くなった。



「もらったぁ!!!」



アイクは神速ともいえる速さで踏み込み、剣を振り下ろそうとする。

その瞬間リリィは胸元に手を突っ込んだ。

そして手より少し大きいぐらいの棒のようなものを取り出し、その棒を使って剣を受け止めた。



ギン!!!



明らかに金属同士がぶつかる音が一面に響く。

その後のアイクの攻撃もその棒で軽く止め、受け流していた。

幾度となくそれが繰り返され、鍔迫り合いのような形で攻撃が止まった。

アイクは息も上がっていて汗だくになっているにもかかわらず、リリィは汗一つかいていない。



「どうして俺の攻撃が、そんな棒一本で防がれるんだ!?」

「ふふふ、これは棒じゃないですよ」



リリィは初めて、アイクを剣ごと遠くに弾き飛ばした。

そして棒と思われたものを前に出し、両手で広げ始めた。

広げた部分の下半分は濃い青、上半分は黒く全面が塗りつぶされていた。


下半分の濃い青の部分には色の濃淡によって海が描かれており、上半分の黒の部分をよく見ると、煌びやかに輝く小さな星が美しく描かれていた。

その模様をアイクに見せつける。



「これは扇子というものです。ちなみに、描かれている絵はとっても綺麗でしょ?」

「どうして訳の分からないもので俺の剣が……まさかその扇子、固い鉱物か何かで作られているということか!!」

「ふふふ、それは秘密です」



何事もなかったかのように、リリィはその扇子でゆっくりあおぎ始めた。



「このように風を起こすことも、もちろんできます。ただ、これはわたくし専用の特注品なので、ちょっと使用方法が異なりますが……でも扇いでいるとき、この模様がとても綺麗でしょ?ほら」

「……やーめた」



アイクは剣を腰につけていた鞘に入れる。

扇子を扇いているリリィは不思議そうに話す。



「あら?わたくしと戦わなくてよろしいのですか?」

「あんた……本気出してないだろ」

「いえいえ。そんなこと無いです」

「なら、どうしてあんたから攻撃してこないんだ?何回も俺を攻撃するチャンスはあっただろ?」

「ふふふ。あなたの攻撃を止めるだけで精一杯でしたので」

「はぁ、嘘ばっかりだな」



リリィは笑顔のままゆっくりと扇子を扇ぎ続ける。

それを見てアイクは大きくため息をついた。



「まぁいい。今回は引くことにする」

「いいのですか?魔王の側近を倒せる唯一のチャンスかもしれませんよ?」

「俺もそこまで自惚れてはいない。今のままでは勝てないことはよくわかった」

「ふふふ。とても良い判断と思います。ちゃんと長生きしますよ」

「あぁ、ありがとう」



戦意が無くなったのが分かったのかリリィも扇子を閉じて、胸元に入れた。

アイクは、地面で這いつくばっている私の方を振り向く。



「クロ、お前はまだまだ弱いな」

「くっ……」

「勇者になる前から何も変わらない。そしてお前なんかがどうして勇者に選ばれたのかも未だに理解ができない」

「……」

「そんなお前の過去なんて俺には全く興味が無いから勝手に調べてくれ。ただ……」



アイクからはいつものフランクな感じが無くなり、眼光が鋭くなる。



「次、俺の邪魔をしたら、容赦はしない。俺が勇者パーティーの一員として成し遂げようとしていることの邪魔をするなら」

「成し遂げようとしていること……」

「魔族を滅ぼすことだよ。俺は勇者パーティーのメンバーとしてその期待だけは応えるつもりだ。ちょうど一週間後……俺だけじゃなく大軍を率いてラディアを完全に叩き潰しにくる」



アイクは背を向ける。

私は、悲鳴を上げる体を無理やり起こす。



「ねぇ!!勇者パーティーが本当にすべきことって本当に魔族を滅ぼすこと……なの?」

「さぁな。そんなこと、この世界の神にだってわかりはしないんだ……ただ、俺が正しいと思った事を信じてやり遂げる、ただそれだけだ」



アイクは人間の町サーフィアの方に歩きはじめた。



「次に会う時までに、お前はどっち側に着くのかはっきりさせておけよ。俺たちと一緒に魔族を滅ぼす側なのか……それとも、そこのお友達と共に魔族を守り、俺たちの敵になるのか。じゃあな!」



さっきまで殺し合っていたと思えないぐらいサバサバした感じで、片手を振りながらアイクは歩いて去って行った。



勇者パーティーの意義、その仲間に殺されたという事実。

勇者としての立ち位置。

そして……圧倒的な自分の弱さ。



何もかもがわからず、ただ突き付けられた現実に目も耳もふさぎたくなる。

私はその場でそのまま倒れ込み、意識を失った。


ここまで読んで下さりありがとうございました。

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