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戦士アイク



勇者パーティーの一員である戦士アイクは、片手を上げつつこちらに近づいてきた。



「ちなみにそのお隣さんは……」

「魔王の側近をさせて頂いております、リリィと申します」

「やっぱり!?まさか噂通り本当にメイドの格好をしているとはなぁ。俺は勇者パーティーで戦士をやらせてもらってるアイク。今後ともよろしく」



いつもの適当なノリで答える。



ギリ……

奥歯の噛みしめる音が頭に響く。

冷静になるために深呼吸をしつつ、私は口を開いた。



「アイク……どうしてあなたはこんな場所にいるの?」

「いやいや、それは俺のセリフだね。どうして、もうこの場所にお前がいるんだ?」

「……どういうこと?」

「あぁ、説明するのが面倒だな……」



アイクは頭をくしゃくしゃとかきながら話す。



「どうして俺がお前を殺したのに、こんなところに居るんだ?」

「……」



きっぱりとアイクは言い放った。

その言葉に対して、何の言葉も浮かばなかった。

ただ、アイクは不思議なことがあるのか質問攻めをしてくる。



「それより、どうしてこの場所まで戻ってこれたんだ?復活にはかなり時間がかかる上、復活する場所も魔界の奥地になるっていう話を聞いていたのに……どうなってる?」

「そんなこと私に聞かれても知らないわよ。ここまで来たのは友達のおかげ……あと、やっぱり私を戦場で殺したのはあなただったのね」

「あぁ、否定はしない。そもそも、お前は俺が殺したことを覚えていただろ?」



もちろん……覚えていた。

だが心のどこかで、そうじゃないと信じたくて、その真実から目を背けていただけ。

仲間に殺されたという真実を。



アイクはそんなことですら何も悪びれることもなく話してくる。

まぁ、アイクらしいとは思う。

そんな態度のおかげで、怒りを通り越して少し冷静になれた。

私はゆっくりと口を開く。



「そうね。覚えていたわ。でも、まさか剣を収めた瞬間に後ろから殺されるなんて思わないじゃない」

「そりゃそうだろ。お前と真正面から挑んで戦うとか絶対いやだね。めっちゃ抵抗してきて、くたくたになるほど疲れそうだから嫌だ」



抵抗しない訳が無い。

誰が好き好んで殺されるのだろうか。

そんな言葉をぐっと飲みこんで、丸く話す。



「もちろん、私にも自分の身を守る権利はあるからね」

「まぁ、その一件については許してくれとは言わない。でも、これはお前のためでもあったんだから」

「私を殺すのが、私のため?」



意味が分からなさ過ぎてひとまず思いっきりにらみつけるが、どこ吹く風でアイクは話を続ける。



「……あの戦いの前、ついにエデン城の王様が戦いに入らない奴は反逆罪にすると言い始めたんだ。だから、勇者パーティーとしてお前を殺してこの先のラディアの町を攻めることを決定した」

「えっ!?そんな話……」



私は思わず声が出てしまう。

反逆罪になる話も、攻め込む決定も全く聞いたことが無かった。



「エデン城の王様が一向に戦線が上がらないことに痺れを切らした。魔族をすぐに攻め滅ぼせと命令を下したんだよ」

「ねぇ、待って。ラディアの町の話も、魔族を攻め滅ぼす話も私は聞いてないって!!」

「いつも魔族と戦う時に邪魔をしてくる『不殺の勇者』様にそんなお話をして、良い方向に話が進むと誰が思うんだ?」

「……」

「別に俺はあんたを恨んじゃいない。魔族を殺せない理由も、邪魔をする理由も未だに何も見つかってないし、俺は何かの呪いだと今でも信じている。だがな……勇者パーティーはみんなバラバラで民の評価も最悪。お前もさすがに色々限界だっただろ?」

「……だから、私を戦場で殺したの?」

「あぁ。パーティーのみんなは優柔不断だったから俺がお前を殺した。理由としては今言ったことがすべてかな」



淡々と、今日の朝ごはんの食べたものを話すかのように話す。

……こいつは昔からこいつはこういうやつだった。

どう思っているのかはさておき、さっぱりしている……どういう話であっても。



私は次の言葉が何も頭に浮かばなかった。

その様子を見た戦士が、ハァと大きくため息をつく。



「エゴかもしれないが、これは俺なりの優しさのつもりだ。俺がお前を殺して、時間をかけて復活、そして遠くから人間の町に戻ってくるまでの間に、戦いを終わらすつもりだった」

「戦いって言うのは、ラディアの町を襲うっていう話?」

「もちろん。ラディアの町を滅ぼすことができれば、王様へのご機嫌取りもできるし、何より……地に落ちた勇者パーティーの宣伝もできる。この作戦は他の勇者パーティーとも話して許可を取った上で実行している」

「……ねぇ。一度私と話して決めることはできなかったの?」

「すでに崩壊していた勇者パーティで何を話すんだ??魔族と戦い、殺そうとした瞬間にいつも邪魔をするお前と話をして、何が決まるっていうんだ?」

「……」



何も言い返せずに涙が出そうになる。

勇者パーティーが崩壊してしまっていることも。

その理由が、魔族を殺せない上、味方の邪魔をしてしまうことであることも。

事実を突きつけられると、何も言えなかった。



「今日は、攻め滅ぼす魔族の町の下見に来ただけだったんだけどなぁ~」



アイクはゆっくりと腰にある剣の柄に手をかける。



「まさか、もう一度人間を……いや、同じ仲間をこの手で殺さないといけなくなるとは思わなかったよ……自分のやっていることに吐き気がするね」

「ねぇ、戦う前に一つだけ教えて」

「別に。一つと言わずいくつでも。時間はあるんだ」

「なら……私の記憶について何か知らない?」

「記憶?急に何の話だ」



アイクは剣の柄から手をはなし、首をかしげながら顔をしかめる。



「記憶が……ないことに気づいたの。勇者になる前の」

「そんなもの俺が知るわけがないだろ。そもそもお前、勇者になる式を一年間、勝手に伸ばしたことを忘れたんじゃないだろうな?」

「覚えてない」

「これだから!」



アイクは手を目に当てて、天を仰いだ。



「お前が勇者になる式典の三日前に『ごめんだけど、修行したいから勇者になるの一年伸ばさして!』とか言ったんだろうが!!その上、俺たちの前から消えやがって。勇者パーティーのメンバーは無駄に一年間も待たされたんだぞ」

「ねぇ、勇者になる式の前に、私が変なこと言ってなかった!?」



一途の望みにかけて尋ねてみる。

アイクは少し悩みつつも何かを思い出したのか、ため息をつきながら答えた。



「はぁ、変なこと……あぁ、あれか。お前が式の後に大切な話があるってみんなに言ったのに、式が終わってから俺が何の話か聞いたら、『何の話?』ってとぼけて聞いてきた事か?パーティーのメンバーが全員、ポカーンだぞ。あれは今思い出してもめちゃくちゃイラッとするのに!」

「やっぱり。みんなの私を見る目がおかしいなって思っていたけど、そういう意味だったんだ」



式の直前まで記憶は失ってなかったんだ。

リンと別れる直前ぐらいに話したであろう“夢”についてパーティーのメンバーに何かを言う予定だった。

でも、式で記憶をすべて失い、それを仲間に伝えることができなかったんだ。

その話を覚えていない私は、勇者の式の後になぜか眉をひそめているみんなの顔だけ覚えている。



自分の中で何かがつながった。

が、目の前の戦士は明らかに苛立っていた。

今度はスパッと腰から剣を引き抜いた。



「もう質問は終わりってことでいいか?」

「いえ、最後にもう一つだけ」



私も腰から剣を引き抜く。



「前回私を殺すとき、躊躇ちゅうちょはしなかったの?」

「全くしなかった……って言えばウソになる」

「なら、今からでも……」

「それは無理だな」



アイクは持っていた剣を目の前で構える。

これまでのフランクな感じから一転、勇者パーティーの前線で戦って来た戦士としての強者のオーラが溢れる。

気を引き締めるため、剣を握りしめる力が強くなる。



「もしここでお前を殺さなかったら……これまでの俺の決断がすべて無駄になっちまう。それだけは出来ねぇな」

「そうね……ごめんなさい。いつも辛いことを押し付けて」

「気にすんな……さぁ、始めようか」


これ以上は話しても意味が無いことが空気でわかる。

私も同じく剣を構えた。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

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