思い出の場所 思い出のベンチ
一面には見渡す限り芝生が広がっていた。
遠くには背の高い木々が点々と立っていて、こちらを遠くから見守っているようだ。
お日様はまだ高く上がっていて、近くの木の影が差し込んでいる。
そして、この場所の唯一の特徴である木のベンチがただポツンと置かれていた。
自然とそのベンチを目指して進み始める。
リリィは何も言わず、後ろについてきてくれた。
ベンチの前にたどり着き、自然と二人で座った。
目の前は一面の芝生と背の高い木しか見えない。
風が吹くと、芝生や木がまるで生きているかのように右に左に揺れ動く。
慣れ親しんだいつもの風景に、つい昔の話を口にしてしまう。
「ふぅ……とても懐かしい。私、このベンチで勇者の修行をよくサボっていたの」
「ふふふ。クロ様がサボるなんて全く想像ができないです」
「私だって、なりたくて勇者になったわけじゃないってこと」
「そうなのですが。てっきり、人間の勇者はなりたい人がなるのかと」
私は大きく首を振った。
「そうだったらどれだけ良かったか……実際は女神様が決めるの」
「女神……が?」
「そう。前に勇者だった人が勇者を辞めるって言うと女神様が次の新しい勇者を勝手に決めるんだ」
「つまりクロ様は、勇者にさせられたってことですか?」
「そうなるかな。幼いころ、朝に目が覚めたら色んな人に取り囲まれて。そのままエデン城に連れていかれて、勇者になる日を伝えられたって感じ」
「えっ……」
「救いは私が幼くて弱かったから勇者になる日を結構猶予してくれたことかな。過去、明日勇者ね!って言われた人もいたらしいからさ」
「……」
私はから笑いをしながら話す。
リリィは初めて聞いた話が多かったのか目を丸くして話を聞いてくれた。
だが、いつもの笑顔はなく同情してくれたような、少し悲しい顔に見える。
ちょっとでも明るくしようと、そのまま笑いつつ話しを続ける。
「でね、そこからは勇者になるための修行ばっかり。剣術、魔術の修行から礼儀作法まで。こんな風に見えてテーブルマナーもバッチリだし、実はダンスとかも踊れるよ」
「辛くは……なかったのですか?」
リリィは心の底から心配して尋ねてくれる。
本来は魔族の敵であるハズの私に対して。
「……辛くなかったって言えばウソになるかな。友達とも遊べなかったし、勇者になったことに対してすごく嫉妬もされた。その上、魔術が全く駄目だったから、よく怒られてさ……」
「そんなことも全く知らず先ほどは無神経で失礼なことを言ってしまいました......申し訳ございませんでした」
リリィが頭を下げる。
私はリリィの肩をポンッと叩きながら口を開く。
「そんなこと気にしなくてもいいよ。魔族の人が知らないなんて当たり前だし。あと、いいこともあって、剣術の修行ではお師匠様が色々な人間の町に行かせてくれたんだ。そのおかげでこんな最高の場所も知れたから」
「どうしてこんな場所に来たんですか?別に何かがあるわけでもないのに」
「えっとね……そもそもこの場所は人間が来てはいけない場所になっているの」
「それはどうして?」
リリィの質問に私はベンチに座りながら向かって左を指をさした。
そっちの方向をリリィも向く。
少しだけこの場所が高台になっていて木々が無いから視界が良い。
そのため、遠くにある町が指先にぼやけつつも見える。
「あっちが人間の町、サーフィアでしょ」
「えぇ」
次にそのまま向かって右側を向くと同じく遠くに町がぼやけて見える。
あれはさっきメルナが降り立った町だ。
「あっちが魔族の町ラディア」
「そうですね」
「つまり、この場所はちょうど人間と魔族の町の間らへんってこと」
「それが……?」
リリィには全くピンと来ていないように見える。
まぁ、リリィほど強い気にするわけないか。
「つまり、この場所は魔族の町に最も近い場所ってことで、来てはいけないって強く言われているのよ。変に魔族に思われるのも良くないからね」
「なるほど……でも、クロ様はよく来ていたと」
「えぇ。剣のお師匠様に一度だけ連れて来てもらったことがあったの。この場所がこの世界で最も心を落ち着かせることができる場所だよって」
私はゆっくりと目を閉じた。
その瞬間、優しくゆったりとした風が肌をなで、サーッと芝生の上を走る風の音や近くで葉の擦れる音が聞こえてきた。
もちろん、風は近くにある草木の青い香りも共に運んでくれる。
――あぁ、この感触と音と、そしてにおい。
街中や山、川、他のどの場所にいても感じることができない。
自然が優しく包み込んでくれていることが実感できる。
風があたかも親友になったかのように。
子供のころ、辛い時に心を落ち着かせるためによくここに来た。
いや、夢の通りなら勇者になる直前まで来ていたらしい。
自然と目に溜まっていた涙を手で拭った。
「この音と風の感触が本当に大好きで、この場所に一人で来てたの」
「怖くなかったのですか?魔族が襲ってくるかもって」
「もちろん初めは怖かった。でも、何回か来ているうちに魔族も来ないことに気がついたの」
「……えぇ、その通りです。クロ様を信用してお話しいたしますが、この場所は魔族も近寄ってはいけない場所になっております。なので、魔族も来ることはほぼあり得ないです」
「だと思った!」
私はニコリとした。
そして、二人の間に風が流れる。
少し沈黙していたが、全く嫌な感じはない。
「クロ様」
「なに?」
「もし教えて頂けるのであれば、この場所にはどんな時に来ていらっしゃったのですか?」
「うーん……」
私は目を瞑って昔のことを思い出す。
「剣のお師匠様に怒られた時、魔法の先生に才能が無いって言われた時、周りからのプレッシャーがきつかった時、勇者になることを疎まれた時……私、いつもここでは泣いていた気がする。そう考えたら、全くいい記憶はないハズなんだけどね、でも心はなぜか落ち着くの」
「勇者になるって、そんなにも辛いとは思いもしなかったです」
「まぁね。私がポンコツって言うのもあると思うけど、あまり勇者はおすすめできないかな」
「いえ、クロ様は立派な勇者ですよ。わたくしが保証します!」
「いやいや、魔王の側近に言われても……」
私とリリィは目を合わせる。
そして二人で声を出して笑った。
本当に……心の底から笑えた。
「はぁはぁ……面白かった」
「ふふふ。わたくしも面白かったです」
「なら良かった」
「因みに……失った記憶については何か思い出しましたか?」
リリィは少しだけ不安そうな顔をしながら声をかけてくれる。
私は首を横に振った。
「ううん、夢で見たこと以外は何にも思い出せないかな」
「リンという方についても」
「うん。夢で見た通り、ここで初めて出会って……ここで最後に別れたのは間違いない。このベンチだったことは確かなんだけどね」
「そうですか……」
「まぁ、いつか思い出すだろうし気にしないで!」
少し残念そうにするリリィに声をかけた。
すると、さっきまで吹いていた風がぴたりとやんだ。
それまで草のこすれる音で隠れていた音が鮮明に聞こえ始めた。
ザッ……ザッ……
――草むらを踏みしめる音が近づいてくる
私とリリィは共に左側、つまりサーフィアの方から来ていたその音の方向に顔を向けた。
そこには、短髪で濃い目の茶髪、胸と肩にだけ甲冑をつけており、パッと見ると細身の体に見えるが引き締まった筋肉質な体。
そして動きやすそうな濃い緑色の上の服と冒険者が着るような茶色のズボンとブーツのような靴。
腰には一般的な長剣より太めの剣を一本ぶら下げている男が一人でゆっくりと歩いて近づいてきていた。
その人物を見た瞬間、私は勢いよく立ち上がり顔をじっと見る。
その顔は街でイケメンと呼ばれるが、よく見るとヘラヘラしている感じがにじみ出ている。
だが、強さだけは確固たる自信を持っている、そんな顔……
「戦士……アイク」
「えっ!?マジか……こんなところでお前と出会うとは。とりあえず久しぶり!!」
いつものノリで戦士アイクが手を上げて返事を返してきた。
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