表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/122

第86話 文明開化


エルフの集落には、本がなかった。


口頭伝承だったため

正確に言えば、

「文字で記された物語」が、ほぼ存在しなかった。

古いハイエルフの中には、

石板や古代魔法陣の記号を“読める者”も、わずかにいる。

だがそれは、

儀式用、契約用、管理用――

物語を楽しむための文字ではなかった。

だから当然、こうなる。

「……暇だ」

「今日も森を眺めるだけか」

「昨日と同じだな」

「百年前も、たぶん同じだった」

時間はある。

寿命もある。

だが――やることがない。

文化が育たない理由は、

驚くほど単純だった。

◆◆◆

その日。

仮設住宅の広場に、

エルフ三種族が集められていた。

「……今日は何だ?」

「また筋トレか?」

「料理は昨日やったぞ?」

ざわつくエルフたちの前に、

統括が腰を下ろす。

椅子?

いいや、ただの木箱だ。

「今日はな」

統括は、

どこからともなく一冊の本――

正確には“薄い紙の束”を取り出した。

「物語を聞かせる」

「……物語?」

「神話か?」

「英雄譚か?」

「説教じゃないよな?」

「違う違う」

統括は笑った。

「ただの話だ」

「……?」

エレブスが首を傾げる。

「父上」

「こんな事、教える必要ありましたか?」

統括は、少し考えてから答えた。

「文化が無くて、長生きだと暇だろ?」

「……」

「暇だから、怠惰になるのさ」

その一言に、

ハイエルフたちが微妙に視線を逸らした。

「料理もな」

統括は続ける。

「筋トレもそうだ」

「極めるものがあれば、楽しい」

「楽しいと、人は前に進む」

エレブスは、

「なるほど……」と呟き、

何かをメモし始める。

「……流石父上です」


「で」

統括は本を開く。

「話は――桃太郎だ」

「……?」

「……もも?」

「……太郎?」

エルフたちの頭上に、

**大量の「?」**が浮かぶ。

「いいか」

「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」

その瞬間。

「……老いた者が二人?」

「最初から弱そうだな」

「寿命は?」

「そこは気にするな」

話は進む。

川を流れる桃。

割れる桃。

中から出てくる子供。

「なんだあの桃の精霊は!?」

「いや待て、植物から人が生まれるのはありなのか?」

「森の理に反していない……?」

「……むしろ、エルフ向きでは?」

話が進む。

鬼ヶ島。

鬼人族。

略奪。

「鬼人族は理不尽すぎる!」

「急に村を襲うな!」

「管理者いないのか!?」

仲間になる

サル。

イヌ。

キジ。

「獣人族のサル、強いぞ!」

「イヌの忠誠心が高すぎる!」

「キジ、空からの奇襲は卑怯では!?」

「戦術だ」

桃太郎、進軍。

「行け!」

「頑張れ!」

「モモタローー!!」

――誰が言い出したのか。

気づけば、

エルフ三種族が一斉に拳を握っていた。

鬼との戦い。

「痛そう!」

「でも止まらない!」

「仲間がいるからだ!」

勝利。

宝。

めでたしめでたし。


……沈黙。

次の瞬間。

「…………」

「………………」

「………………っ」

泣いていた。

「な、なぜ……」

「胸が……」

「熱い……」

「泣ける場面、あったっけ?」

統括が首を傾げる。

エルフの族長が、

震える声で立ち上がる。

「……族長」

「これは……」

「若い者たちに、伝えねばならぬ」

「語り継ぐべきだ」

別のエルフが叫ぶ。

「文字だ!」

「文字を覚えれば!」

「皆が、本を読める!」

「何度でも、この話を楽しめる!」

空気が、

一気に変わった。

怠惰な静けさが、

ざわめきと熱に置き換わる。

その横で。

エレブスが、

ものすごい勢いでメモを取っていた。

「……父上」

「それは何を書いているのだ?」

統括が聞く。

「え?」

エレブスは顔を上げる。

「今の話で学んだ事です」

「・物語は心を動かす」

「・心が動くと行動が変わる」

「・文化は管理の補助になる」

「・犬は強い」

「……最後いる?」

「重要です」

「……感化されすぎじゃない?」

エレブスは真剣な顔で頷いた。

「いつか」

「父上以上に“神”になるために」

統括は、

思わず吹き出した。

「そうか」

「じゃあ、しっかり学べ」

その日。

エルフたちは、

初めて「物語」を知った。

剣でもなく。

魔法でもなく。

筋肉ですらなく。

言葉が、

世界を広げることを。

文明は、

こうして――

桃から始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ