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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第84話 芽生えるもの



森は、まだ完全には戻っていなかった。

世界樹の残骸は整理され、

新しい苗木がいくつも植えられているが、

かつての圧倒的な生命力には程遠い。

それでも――

森は、確実に「生きて」いた。

「……静かだな」

元ダークエルフの代表が、周囲を見回す。

「前は、もっと魔力が濃かった」

「濃すぎたんだよ」

元エルフの代表が肩をすくめる。

「今思えば、あれ……吸われてたよな」

「……言うな」

三人は、並んで森を歩いていた。

後ろでは――

三つの首を持つ神獣が、軽快に歩いている。

「ワン」

「静かにね」

少年の声に、神獣は素直にうなずいた。

「……なあ」

元ハイエルフ代表が、言いにくそうに口を開く。

「その……」

「?」

少年が振り返る。

「……前は、悪かった」

一瞬、空気が止まる。

「……どの前?」

少年は本気で分からなそうだった。

「その……偉そうにしてた件だ」

「……ああ」

少年は一度考え、首をかしげる。

「でも、今は?」

「……今は」

元ハイエルフ代表は、視線を逸らす。

「普通に、仲間だと思ってる」

沈黙。

次の瞬間。

「じゃあ、問題なしだね」

少年はあっさり言った。

「え?」

「今の方が楽しいでしょ」

三つの首が、同時にうなずく。

「「「楽しい!」」」

元ダークエルフ代表が吹き出した。

「……ああ、くそ」

「なんでだろうな」

「捕獲されたはずなんだけどな」

「気づいたら、筋トレして」

「一緒に飯食って」

「森、立て直して」

元エルフ代表が、ぽつりと言う。

「……俺さ」

「昔、他種族と話すの、嫌だった」

「弱いって決めつけてた」

「怖かったんだと思う」

「守る立場だって言いながら、

 本当は何もしない自分が」

誰も笑わなかった。

少年は、立ち止まった。

「ね」

「守るってさ」

「一人でやるもんじゃないよ」

「……」

「重いものは、みんなで持つ」

そう言って、少年は神獣の背をぽんと叩いた。

「だから、筋トレする」

「……理屈おかしくない?」

「でも、合ってるだろ?」

元ダークエルフ代表が、苦笑する。

その時――

森の奥から、不穏な気配が走った。

「……来る」

三つの首が同時に唸る。

「何だ?」

「残滓だ」

少年が短く言う。

「世界樹に寄生してた、魔力の澱」

「数は?」

「多くない」

「でも――」

少年の声が低くなる。

「油断すると、苗木を食う」

元エルフ代表が一歩前に出た。

「俺たちがやる」

「……いいの?」

「やらせてくれ」

元ダークエルフ代表も頷く。

「逃げない」

「見て見ぬふりもしない」

少年は少しだけ考え、笑った。

「じゃあ――」

「一緒にやろう」

戦いは、派手ではなかった。

だが、確実だった。

魔法を合わせ、

位置を声で伝え、

傷を見つけたら即座にフォローする。

「左!」

「抑える!」

「今!」

「回復、入れる!」

「ワン!」

炎は燃やしすぎず、

水は森を守り、

回復は“立ち上がれる程度”に留められる。

――いつか見た、“お仕置き”の調整版。

だが今回は、

誰も怯えていなかった。

最後の残滓が消えた時。

「……終わったな」

元ハイエルフ代表が息を吐く。

その場に、

静けさが戻る。

苗木は、無事だった。

「……守れた」

誰かが言った。

「守ったな」

別の誰かが返す。

元エルフ代表が、ぽつりと呟く。

「……さすが、地獄の門番だな」

「いや」

元ダークエルフ代表が首を振る。

「もう、神の門番だろ」

「違いない」

三人の視線が、同時に神獣へ向く。

「?」

三つの首が、揃って小さく傾いた。

「ワン?」

少年が吹き出す。

「褒められてるんだよ」

神獣は一瞬考え――

次の瞬間、全力で尻尾を振った。

「ワン!!」

「……分かってないな」

「でも、それでいい」

元ハイエルフ代表が、静かに言った。

少年は、少し照れたように言う。

「ほらね」

「一人じゃない」

神獣が、三人の前に座る。

「ワン」

元エルフ代表が、恐る恐る手を伸ばす。

――撫でた。

「……温かいな」

「当たり前だろ」

少年が笑う。

「生きてるんだから」

三つの首が、満足そうに尻尾を振った。

その光景を見て、

三人は同時に思った。

――ああ。

――もう、戻れないな。

昔の森にも。

昔の自分にも。

だが、それでいい。

「なあ」

元ダークエルフ代表が言う。

「この森さ」

「時間かかっても、ちゃんと戻そうぜ」

「……ああ」

「筋肉もついたしな」

「関係ないだろ」

笑いが起きた。

少年は、森を見渡した。

「大丈夫」

「ここは、もう独りじゃない」

友情は、

誓いでも、言葉でもなかった。

――ただ、同じ場所に立ち、

同じものを守ろうとした結果だった。

そしてそれは、

確かに芽生えていた。

静かに、

確実に。

次にこの森が問われるのは――

「誰が管理者になるのか」

それは、

もう避けられない未来だった。



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