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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第83話 森の管理者



元エルフの森――

かつて世界樹が立っていた場所は、今や不思議な光景になっていた。

「よーし、次!

休憩なしでスクワット百回だ!」

「「「は、はいっ!」」」

掛け声と同時に、

エルフ、ダークエルフ、元ハイエルフ――三種族が一斉に腰を落とす。

「……なんで森で筋トレしてるんだろうな、俺たち」

誰かがぼそっと呟いたが、

答えは誰も出さなかった。

出せなかった、というより――

もう考えるのをやめていた。

「フォームが甘いぞー」

黒いぶかぶかのタンクトップを着た少年が、

腕を組みながら歩き回る。

「背筋!

腹圧!

呼吸!」

「……あの子、神様の子だよな?」

「うん」

「普通に筋トレ指導してくるんだけど」

「考えたら負けだぞ」

その横では、

三つの首を持つ巨大な神獣が――

「ヴゥゥゥ……」

「はい、次はジャンプね」

少年が言うと、

「ワン!」

「「「うおおおお!?」」」

神獣が少年を背に乗せたまま、

五十メートルほど跳んだ。

着地は静かだった。

「すごいだろ!」

少年が胸を張る。

「ついに、僕を担いだままここまで飛べるようになったんだ!」

「……お前、重り扱いなのか?」

「筋肉は裏切らないからね!」

三つの首が、誇らしげにうなずく。

「「「主、見てー!」」」

別の方向から声が飛んだ。

振り向くと、

エルフ三種族がそれぞれ、

・丸太を担いでスクワット

・魔力を封じた状態で腕立て

・回復魔法を禁止したランニング

という、

よく分からない修行をしていた。

「はいはい、今行くぞー」

少年が手を振りながら近づく。

その様子を、

遠く――“上”から見ている存在がいた。

――念話。

『……もうだめですね』

『やっぱり?』

『完全に馴染んでます』

『世界樹、わざわざ倒さなくてもよかったのでは?』

『いや、一度は折っておかないと、また寄生するだろ?』

『それはそうですが……』

視線の先には、

筋トレに勤しむ元エルフたち。

笑っている者。

文句を言いながらもやっている者。

真面目に追い込んでいる者。

『これからの事を考えると……』

『管理者は必要だな』

『ですね。

誰かの目がないと、確実にサボります』

『ってなると――』

『アレになりますね』

『アレになると……コレがなぁ』

『コレは嫌がるでしょう』

『アレが立候補でもしてくれれば』

『アレは、まだ子供っぽいところがありますから』

『アレとコレ……難しいな』

二人の神は、

同時にため息をついた。

その瞬間。

「父上ー!」

元気な声が森に響く。

「なにをアレコレ言ってるのです?」

振り返ると、

少年が笑顔で手を振っていた。

「ケルちゃんがね!」

神獣が「ワン!」と鳴く。

「ついに、僕を担いだまま五十メートル飛べるようになったんですよ!」

『……』

『……』

念話が、一瞬沈黙する。

『……聞いた?』

『聞きました』

『管理者、向いてそうじゃない?』

『……向いて“しまって”ますね』

地上では。

「主、次はどうするー?」

「腕立て!」

「回数は?」

「限界まで!」

「「「了解!」」」

少年は満足そうに頷いた。

その横で、

神獣が尻尾をぶんぶん振る。

森には、

かつてなかった光景が広がっていた。

管理されているのに、

誰も不満を言わない。

監視されているのに、

誰も反発しない。

『……』

『……』

二人の神は、同時に悟った。

――もう答えは出ている。

だが。

『本人に言うと、逃げますね』

『全力で』

『……』

『……』

『もう少し、様子を見るか』

『ですね』

念話は切れた。

森では、

「主、フォーム見て!」

「よし、いいぞ!」

「ケルちゃん、補助お願い!」

「ワン!」

そんな声が響いていた。

この時はまだ、

誰も知らなかった。

この森に、

管理者が生まれつつあることを。

それを、

本人たちが一番分かっていないことを。

――それを知るのは、

もう少し先の話だ。


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