第81話 ハイエルフ、管理会議に乱入する
天界・管理会議室。
白い円卓。
白い空間。
筋肉痛を抱えた三人の代表が、真面目な顔で議題を整理していた。
「では、次は生活圏の再配置について――」
その瞬間だった。
バァン!!
会議室の扉が、音を立てて吹き飛んだ。
「――ふざけるなぁぁぁぁ!!」
怒声と共に現れたのは、
かつて“森の頂点”に君臨していた存在。
元・ハイエルフの長
アルシェル。
豪奢だった衣装は乱れ、
誇り高かった瞳は、怒りと混乱で血走っていた。
「なぜ我らが囚われねばならぬ!!」
「なぜ下等種族と同列に扱われねばならぬ!!」
「神の使いである我らを――!」
会議室の空気が、一瞬で凍りつく。
エルフ代表とダークエルフ代表は、
何も言わず、視線を床に落とした。
――来た。
――一番来てほしくないやつが。
「……落ち着け、アルシェル」
エルフ代表が、震える声で言う。
「今は管理体制の再構築中だ」
「話は順番に――」
「黙れ!!」
アルシェルは一喝し、前へ出る。
「貴様らが何を理解したという!!」
「我らハイエルフは神に最も近き存在だ!!」
「管理?責任?そんなもの――」
その時。
「……やめろ」
低い声が響いた。
会議室の奥から、
黒のぶかぶかタンクトップを着た神――
エレブスが、前に出ていた。
「もう終わった話だ」
「お前は負けた」
「そして、選ばなかった」
アルシェルは一瞬、言葉を失い――
次の瞬間、顔を歪めた。
「……貴様ごときが!!」
拳が振るわれる。
止めに入ったエレブスの胸元を、
真正面から殴り飛ばした。
鈍い音。
エレブスが数歩、よろめく。
――次の瞬間。
空気が、死んだ。
エレブスの足元から、
闇が“溢れた”。
床に影が広がり、
アルシェルの足首を絡め取る。
「……あ?」
「……殺す」
低く、感情のない声。
闇が、アルシェルの身体を
地面の中へ引きずり込もうとする。
「――やめろ!!」
統括が叫ぶ。
だが、間に合わない。
闇は、明確な殺意を持っていた。
その時――
「ダメだよ、エレブス」
やさしい声が、割って入った。
闇の中心に、
三つの首を持つ神獣が立っていた。
ケルちゃん。
「主が悲しむ」
「ダメなやつ」
「私が、治してあげる」
ハナの首が、
淡く光る。
その光が、
エレブスの闇に触れた瞬間――
闇は、止まった。
「……っ」
エレブスの瞳が揺れ、
殺意が、ふっと消える。
「……ハナ」
「迷惑かけて……ごめんね」
「ううん」
「だいじょうぶ」
アルシェルは、
床に転がり、震えていた。
「……さて」
統括が、一歩前に出る。
「アルシェルは――っと」
そして、にこっと笑う。
「ケルちゃん」
「おいで」
「はーい!」
ケルちゃんは嬉しそうに走り、
統括のそばへ。
二人は、顔を近づけ、
ごにょごにょと何かを話す。
数秒後。
ケルちゃんの尻尾が、
ぶんぶん振られ始めた。
「……話、終わり」
統括が、淡々と告げる。
「ケルちゃん」
「お仕置き(痛い方)」
「やってしまいなさい」
「ヴゥゥゥ……」
三つの首が、揃って構える。
「ワンワン!!」
――地獄が始まった。
ポチが、噛んだ。
(※食べてない、が、本人には区別がつかない)
クロが、水を操り、
逃げ場を完全に塞ぎながら、
低く唸る。
ハナが、回復をかける。
わざと、痛みだけを残して。
「ぎゃあああああ!!」
「や、やめ――」
「死なない!?」
「なんで!?」
「痛い!!」
「でも治ってる!!」
「何これぇぇぇ!!」
会議室は、
完全な地獄絵図だった。
エルフ代表とダークエルフ代表は、
無言で視線を逸らす。
(……現実逃避しよう)
(……ケルベロスって)
(……俺は白い壁)
(……回復もできるんだな……)
数分後。
アルシェルは、
床に突っ伏し、微動だにしなかった。
――生きている。
――心は、完全に折れている。
「よし」
統括が満足そうに言う。
「これでいい」
ケルちゃんは、誇らしげに胸を張る。
「お仕置き」
「上手?」
「完璧」
その日を境に――
ハイエルフは、
驚くほど友好的になった。
・話を聞く
・指示を守る
・逆らわない
・ケルちゃんを見ると正座する
誰も、理由を口にしなかった。
だが全員が理解していた。
――あれは、裁きではない。
――“二度と越えてはいけない線”の提示だったのだと。
そして管理会議は、
今日も静かに続いていく。
ケルちゃんが、
尻尾を振りながら、
見守る中で。




