第80話 代表三人、初めての管理会議
天界・簡易管理会議室。
白い円卓。
白い椅子。
白い壁。
――そして、
誰一人として、まともに座れていない。
「……っ、椅子が……高い……」
「いや違う、膝が……」
「太ももが裏切ってくる……」
三人の代表は、それぞれ不自然な姿勢で固まっていた。
・エルフ代表:背筋だけで浮いている
・ダークエルフ代表:片膝立ちを諦め、床に座る
・ケルちゃん:普通に座っている(なぜか無傷)
「……なんでお前だけ平気なんだ」
ダークエルフが呻く。
「筋肉ある」
「毎日やってる」
「楽しい」
「……そうか……」
その様子を、正義君の上から統括が眺めていた。
「いい眺めだな」
「責任を持つ姿勢が、よく分かる」
「……嫌味ですか?」
エルフ代表が歯を食いしばる。
「事実だ」
議題1:森の現状報告
ウェスタのタブレットが展開される。
【旧エルフの森:完全崩壊】
【魔力循環:停止】
【再生可能性:0%】
沈黙。
「……もう、戻らないのか」
エルフ代表が呟く。
「戻らない」
統括は即答した。
「管理を放棄した森は、再生しない」
「奇跡は、怠惰の後始末には使わない」
ダークエルフが拳を握る。
「……俺たちが戦っても、足りなかった」
「足りなかったのは力じゃない」
統括は淡々と続ける。
「最後まで責任を持つ覚悟だ」
ケルちゃんが首を傾げる。
「じゃあ」
「次は?」
「森、ない」
「だから会議だ」
議題2:これから“何を管理するか”
統括が指を立てる。
「まず確認だ」
「森はもう戻らない」
「だから、“森を守る管理”は終わりだ」
「……では、我らは何を?」
「人を管理する」
一同、固まる。
「え……?」
「人……?」
「正確には」
「怠惰にならない仕組みを管理する」
統括は言葉を続ける。
「土地じゃない」
「種族でもない」
「信仰でもない」
「行動だ」
議題3:役割分担
「三人で全部は無理だ」
「だから役割を分ける」
統括は三人を見る。
「エルフ代表」
「は、はい」
「お前は――」
「記録と調整」
「魔力の流れ」
「生活の変化」
「問題点」
「全部書け」
「逃げるな」
「……やります」
次。
「ダークエルフ代表」
「……俺か」
「現場対応だ」
「揉め事」
「サボり」
「逃亡」
「拳は使うな」
「言葉と行動で止めろ」
「……できるか分からんが」
「やれ」
「逃げたら重り増やす」
「……やる」
最後。
統括は、ケルちゃんを見る。
「ケルちゃん」
「はーい」
「監視と抑止」
「近づきすぎるな」
「だが、見ていろ」
「お仕置きは――」
「ちょっと痛い?」
「死なない?」
「それだ」
ケルちゃんが尻尾を振る。
「管理」
「楽しそう」
議題4:最初の決断
沈黙の後、エルフ代表が口を開く。
「……一つ、確認させてください」
「言え」
「我らが失敗した時……」
「責任は、誰が取るのですか」
統括は、即答しなかった。
代わりに、正義君から降りる。
三人の前に立つ。
「まず――」
「お前ら自身だ」
「逃げたら?」
「言い訳したら?」
「投げたら?」
「その時は――」
ケルちゃんを見る。
「燃やす?」
「消す?」
「治す?」
「……お仕置き」
三人、黙ってうなずく。
会議終了
「以上だ」
「今日はここまで」
統括が背を向ける。
「……あの」
エルフ代表が呼び止める。
「我らは……」
「本当に、管理者になれるのでしょうか」
統括は振り返らない。
「知らん」
「だが――」
「立ち続けてる限り、失格じゃない」
その言葉だけを残し、去っていった。
会議室に残る三人。
ダークエルフが呟く。
「……地獄だな」
「はい」
「でも」
ケルちゃんが笑う。
「逃げない」
「楽しい」
二人は、少しだけ笑った。
そして三人は、同時に思う。
――これは、
――戦争よりも、
――裁きよりも、
ずっと重い仕事だ、と。
それでも。
立ち上がる時、
筋肉は痛み、
心は震え、
だが――
誰も、逃げなかった。




