第79話 筋肉で決める代表選挙
天界・簡易収容区画――
昨日の「再教育(準備運動)」を終えたエルフたちは、
全員が等しく、床に転がっていた。
「……体が……動かん……」
「魔力より先に、筋肉が枯れるとは……」
「これは拷問だ……」
その空気を、ぱちん、と音が裂いた。
「はい、集合」
統括の声だった。
「今日は大事な日だぞ」
「代表を決める」
一斉に顔が上がる。
「代表……?」
「族長ではなく……?」
「我らハイエルフが当然――」
「はい却下」
即答。
「昨日見ただろ」
「肩書きは何の役にも立たなかった」
統括は正義君から降り、床に立つ。
「これから森をどうするか」
「誰が責任を負うか」
「誰が管理に関わるか」
「それを決める代表が必要だ」
エルフが問う。
「……どうやって?」
統括は、にこっと笑った。
「筋肉で」
「「「……は?」」」
選考基準の発表
空中に文字が浮かぶ。
【代表選考基準】
・逃げない
・言い訳しない
・最後までやる
・泣いてもやる
「人格は見ない」
「信仰も見ない」
「血筋も関係ない」
「残るのは根性だ」
「……暴論だ!」
「いいや」
統括は指を立てる。
「森が崩れた理由は、誰も最後までやらなかったからだ」
静まり返る空間。
種目1:デッドリフト(責任の持ち上げ)
巨大なバーベルが現れる。
「これを持ち上げろ」
「重さは――」
ウェスタのタブレットが表示する。
【責任換算重量:各自異なる】
「……なぜ個人差が?」
「自業自得だ」
最初に挑んだのは、ハイエルフ。
「ふん……」
持ち上げた瞬間――
「――ぐっ!?」
一ミリも動かない。
「な、なぜだ……!」
統括は淡々と言う。
「管理放棄分、重い」
「!?」
ダークエルフ代表。
「……俺たちは、戦った……!」
持ち上がる。
だが、途中で落ちる。
「途中で投げた分、残ってる」
「……っ!」
エルフ代表。
震えながらも、少しずつ上がる。
「……逃げなかった……」
「何もしなかったが……」
「……今は、やる……!」
持ち上がった。
床に音が鳴る。
種目2:耐久プランク(現実逃避不可)
「時間無制限」
「言い訳したら失格」
開始。
1分。
「……」
2分。
「……」
3分。
ハイエルフ、崩れる。
「我らは……選ばれし……」
「失格」
「待て!」
「言い訳した」
退場。
種目3:最終判定
最後まで残ったのは、三名。
・エルフ代表
・ダークエルフ代表
・そして――
「……お前も?」
統括が見た先。
ケルちゃん。
「代表?」
「やる?」
「筋肉あるよ?」
「……参加資格、与えてないぞ」
「でも」
「最後までやるよ?」
沈黙。
エレブスが口を開く。
「父上」
「ケルちゃんは……逃げません」
統括は、少し考えてから言った。
「……じゃあ、特別枠だ」
最終種目:スクワット(共同作業)
「三人同時」
「同じ重さを持つ」
「一人でも崩れたら全員失格」
重りが置かれる。
「……森一個分、だ」
「「「……」」」
開始。
10回。
20回。
ダークエルフの足が震える。
「……先に……行け……」
「だめだ!」
エルフが叫ぶ。
「一緒だ!」
ケルちゃんが吠える。
「一緒!」
30回。
膝が笑う。
汗が落ちる。
40回。
「……限界……!」
「回復する?」
ハナの声。
「痛みだけ残すよ?」
「……やれ!」
50回。
床に、三人が倒れ込む。
結果発表
静寂。
統括が告げる。
「――全員、合格だ」
「……え?」
「代表は一人じゃない」
「三種族共同代表制だ」
ざわめき。
「責任は分け合う」
「逃げたら、他が引きずり戻す」
「筋肉的にもな」
ケルちゃんが胸を張る。
「管理、できる?」
「吠えるよ?」
「それは頼もしい」
エルフたちは、初めて理解した。
選ばれたのではない。
残ったのだ。
そして統括は、最後に言った。
「民主制は、話し合いじゃない」
「逃げずに立ち続けることだ」
その背中は、
昨日よりも、
今日よりも――
確かに、強くなっていた。




