第75話 収容と説明
気が付いた時、
エルフたちは全員――同じ場所にいた。
「……え?」
「ここ、どこ……?」
「さっきまで森に……」
目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がるのは――
白。
壁も、床も、天井も、全部白。
妙に広く、妙に清潔で、妙に落ち着かない空間。
「……死後の世界?」
「いや、天国……?」
「違うわ、天国はもっと木があるはず……」
「じゃあ地獄?」
「地獄は黒いって聞いたけど……」
ざわざわと混乱するエルフとダークエルフ。
その中央で、ハイエルフだけが腕を組み、ふんぞり返っていた。
「落ち着け。
どうせ下等種族が何かしただけだ」
その瞬間。
「燃やすぞ?」
「消火する?」
「回復は後?」
三つの声が、同時に響いた。
「――――ひっ」
エルフ全員が、一斉に硬直する。
視線の先には、
三つの首を持つ巨大な神獣――ケルベロス。
ポチが口から炎をちらつかせ、
クロが足元の水を揺らし、
ハナがにこやかに光をまとっている。
「……な、なんで犬が……」
ハイエルフが言いかけた瞬間。
「燃やすぞ?」
「……っ!!」
言葉を失い、
ハイエルフはその場で正座した。
「よしよし、ケルちゃん落ち着いて」
聞き慣れた声が響く。
「……あ?」
白い空間の端から、
正義君に乗った統括が現れた。
「おはよう。
起きたみたいだな」
「な、ななな……」
「ここはどこだ!」
「なぜ捕らえられた!」
次々に飛ぶ質問を、
統括は手を振って止める。
「はいはい、順番な」
正義君が静かに着地する。
「ここは天界の簡易収容区画だ」
「天……界……?」
「そう。
神様の家」
一瞬の沈黙。
「…………」
「………………」
「……え?」
次の瞬間。
「「「「ふざけるなぁぁぁ!!!」」」」
一斉に叫ぶエルフたち。
「神の世界に下等種族を連れてくるなど冒涜だ!」
「我らは選ばれし民だぞ!」
「こんな白い箱に閉じ込めて――」
「うるさい」
統括の一言で、
全員の口がピタリと止まる。
「状況説明するぞ」
コホン、と軽く咳払い。
「まず――
お前らは全員、森を壊しかけた」
「!?」
「ハイエルフは怠惰。
エルフは見て見ぬふり。
ダークエルフは暴走」
「結果、世界樹が折れた」
「――――」
沈黙。
「で、放置したら森が死ぬ」
「だから一旦、全員回収」
統括は指を立てる。
「安心しろ。
処刑はしない」
「……ほ、本当か?」
「代わりに――」
ニヤリ。
「再教育だ」
「再……教育?」
その時。
「お仕置き?」
ケルちゃんが首を傾げる。
「いや、それは後」
「捕獲と威嚇だけだ」
「了解」
ポチ、クロ、ハナが同時に頷く。
「ちなみに」
統括が続ける。
「この子――
お前ら全員より強い」
「………………は?」
「レベル五千」
「世界を滅ぼせる」
「…………」
エルフたち、無言で震える。
「だから安心しろ」
「逆らっても勝てない」
「怖がらせるだけで済ませる」
「……や、優しい……?」
誰かが呟いた。
「あと、森をどうするかは――」
統括は視線を巡らす。
「お前ら自身に選ばせる」
「……選択?」
「そう」
「働くか」
「管理されるか」
「怠惰を捨てるか」
「それとも――」
「森を失うか」
重い沈黙。
その中で、
ケルちゃんが尻尾を振った。
「捕獲うまくできた?」
「完璧」
統括は笑った。
「よし、ケルちゃん」
「今日はここまで」
「よく頑張ったな」
「えへへ」
三つの首が、誇らしげに揃う。
エルフたちは理解した。
――これは裁きではない。
――逃げ場のない、選択の始まりだと。
そして統括は、
正義君の上で呟いた。
「……さて」
「明日が楽しみだな」




