第8話 脳筋消防士、部屋から出ない神に頭を抱える
出産は、
静かに――そして一瞬で終わった。
「……生まれました」
ウェスタの落ち着いた声が、
天界に響く。
光に包まれて現れたのは、
ふわりと宙に浮かぶ存在。
緑の羽の天使だった彼女は、
すでに違っていた。
翼は、
風そのもののように揺れ。
「――風を司る神、
アウラ」
俺は、
名を告げる。
「よろしくねー!」
返事が、
軽い。
軽すぎる。
「……神になった自覚あるか?」
「あるある!」
「自由!」
即答だった。
「大丈夫か……」
「大丈夫大丈夫〜」
風が、
天界を一周した。
「次は?」
黄色の羽の天使が、
身を乗り出す。
「……次?」
俺が聞き返す。
「もう一柱、
来てるよ?」
「……え?」
その瞬間。
**ずしん**
天界が、
揺れた。
「……重っ」
「来たね」
ウェスタが頷く。
光の中から、
静かに現れたのは――
巨大な少年だった。
無口。
無表情。
そして。
そのまま、
歩き出す。
「おい?」
止める間もなく、
彼は部屋へ入った。
**ばたん**
扉が閉まる。
「……」
「……」
「……え?」
沈黙。
「……今の、
何?」
「土」
ウェスタが即答した。
「大地を司る神です」
「……名前は?」
「――テルス」
「……ちょっと待て」
俺は、
扉を指差した。
「出てこないが?」
「はい」
「教育は?」
「部屋で受けてます」
「……ニートか!」
叫んだ。
天界が、
ざわつく。
「ニートじゃないけど?」
扉の向こうから、
小さな声が返ってきた。
「……仕事してるし」
「仕事?」
「地殻、
安定させてる」
「……は?」
ウェヌスが、
そっと補足する。
「今、
地震ゼロです」
「山脈、
形成完了してます」
「……いつの間に」
「さっき」
黄色の羽の天使が、
吹き出した。
「引きこもり最強じゃん!」
「部屋から出ない神、
爆誕〜」
「……出てこい!」
俺は扉を叩いた。
「顔くらい見せろ!」
しばらくして。
**がちゃ**
扉が、
少しだけ開く。
テルスが、
顔を出した。
「……部屋、
好き」
「……それだけ?」
「落ち着く」
「外、
うるさい」
「……」
ウェスタが、
腕を組む。
「最低限、
出るように」
「……努力する」
努力。
努力なのか、それ。
「まぁ……」
俺は、
ため息をついた。
「仕事してるなら、
いい」
「ありがとう」
扉が、
また閉まる。
「……本当に
大丈夫か?」
「大丈夫です」
ウェスタが断言する。
「彼は、
世界の基盤です」
「動かないからこそ、
揺るがない」
なるほど。
アウラが、
くるくる回りながら言う。
「真逆だね〜」
「私は動く!」
「彼は動かない!」
「バランス、
いいでしょ?」
「……確かにな」
黄色の羽の天使が、
肩をすくめる。
「統括神、
胃痛増えそう」
「やめろ」
俺は、
玉座にもたれた。
神は、
増えた。
性格は、
バラバラだ。
でも。
世界は、
安定している。
「……まぁ」
俺は、
小さく笑った。
「部屋好きな神様も、
悪くないな」
扉の向こうで、
小さく返事がした。
「……ありがとう」
聞こえたのは、
それだけだった。




