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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第67話 犬の散歩



「……たまには、下界に散歩に行くか」

筋トレを終え、汗を拭きながら統括がぽつりと呟いた。

その言葉に、天界の空気が一瞬止まる。

「散歩、って……」

アウローラが胡乱な目を向ける。

「まさか――」

「うん。犬の散歩だ」

足元では、三つ首のケルベロスが同時に首を傾げた。

「散歩?」

「下界?」

「燃やす?」

「燃やさない」

即座に否定する統括。

「今回はな」

「……今回は、ね」

アウローラは腕を組み、ため息をついた。

「どうせ狙ってるでしょ」

「まあな」

即答だった。

「ほら出た」

デーメーテールが苦笑する。

「でも、確かに最近――下界の数値、ちょっとおかしいのよね」

「森の魔力循環が鈍ってる」

エレブスがタブレットを覗き込みながら言った。

「特に、エルフの森」

統括は、ふっと目を細めた。

「……じゃあ、決まりだな」

「ちょっと待って」

アウローラが指を立てる。

「まさか、全員で行くつもり?」

「いや、分かれる」

統括はあっさりと言った。

「アウローラとデーメーテールは、エルフ族側」

「私たちが?」

「森の管理状況と信仰の流れを見てくれ」

「……了解」

デーメーテールが頷く。

「じゃあ僕は?」

エレブスが聞くと、

「お前とケルベロスは、ダークエルフ側だ」

「え?」

「向こうの方が、今は切羽詰まってる」

三つ首が、同時にうなずいた。

「任せろ」

「燃やす?」

「必要なら」

「いや、まず話を聞け」

「……我慢する」

統括は最後に、自分の胸を指した。

「俺は――ハイエルフに会いに行く」

その言葉に、全員が一瞬だけ黙る。

「……一番厄介なとこ行くのね」

アウローラがぼそりと言った。

「頂点が動かない限り、何も変わらん」

統括は淡々と答えた。


正義君とリンクし、座標をエルフの森へ。

光が収まった瞬間――

「……思ったより、ひどいな」

統括は、率直にそう口にした。

森は、確かに“緑”ではあった。

だが、その緑はどこか濁り、重く、息苦しい。

木々は成長を止め、

地面には魔力の澱が溜まり、

精霊の気配は薄い。

「循環してない」

「止まってる」

「……腐ってる」

ケルベロスの三つ首が、低く唸る。

「このままいくと」

エレブスが言葉を続けた。

「森、死にますね」

「だろうな」

統括は歩き出した。


一方、アウローラとデーメーテールは、エルフ族の集落へ向かっていた。

「……あれ?」

アウローラは眉をひそめる。

「働いてるエルフ、少なくない?」

畑は荒れ、

見張りは形だけ、

会話は愚痴ばかり。

「ハイエルフ様が何とかしてくれる」

「我々は選ばれし民だ」

「焦る必要はない」

そんな言葉が、あちこちから聞こえてくる。

「……完全に思考停止ね」

デーメーテールが低く呟いた。

「頂点への依存が強すぎる」

「信仰が、責任放棄になってる」

二柱の女神は、顔を見合わせた。

「これは……」

「放置すれば、崩れるわね」


ダークエルフ側では、空気が違っていた。

「食料が足りない」

「結界が弱っている」

「このままじゃ、エルフに飲み込まれる」

緊張と焦り。

だが――動いている。

「必死だな」

エレブスは静かに言った。

「生き残るために、考えてる」

三つ首のケルベロスが、周囲を見渡す。

「……嫌いじゃない」

「燃やさなくていい?」

「今は、いい」


そして――

森の最奥。

神木の根元。

白い光に包まれた広間。

そこにいた。

ハイエルフ。

豪奢な椅子に深く身を沈め、

目を閉じ、

指先一つ動かさず。

魔力はある。

圧倒的なまでに。

だが――

「……止まってるな」

統括の声が、静かに響いた。

ハイエルフは、ゆっくりと目を開ける。

「……神か」

「統括だ」

「用は?」

「散歩の途中でな」

統括は、肩をすくめた。

「森が死にかけてる」

「そうか」

興味なさそうに、ハイエルフは言った。

「それで?」

「……それだけか?」

「我らは永き命を持つ」

「数百年の停滞など、誤差だ」

「いずれ、戻る」

統括は、しばらく黙っていた。

そして――

静かに、言った。

「歯車が、噛み合ってない」

「頂点が動かないなら」

「下は、潰れる」

ハイエルフは、初めて眉をひそめた。

「……何が言いたい」

統括は、まっすぐに見据えた。

「選択しろ」

「動くか」

「――終わるか」

その瞬間。

森の奥で、何かが、きしむ音を立てた。

歯車が――

音を立てて、崩れ始めていた。



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