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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第66話 森が悲鳴を上げる時



森が――

泣いていた。

それは音ではない。

言葉でもない。

けれど、確かにそこに生きる者すべてが感じていた。

木々の葉は艶を失い、

精霊の光は薄れ、

大地を巡る魔力の流れが、どこかで詰まり、歪み、濁っている。

「……おかしい」

若いエルフの斥候が、森の奥で足を止めた。

本来なら、ここは豊穣の地だ。

魔力が満ち、木々は自ら成長し、

精霊たちは戯れるように飛び交っているはずだった。

それが今は――

「精霊が……いない?」

静かすぎる。

不自然なほどに。


ハイエルフの居住区では、今日も変わらぬ光景が広がっていた。

白い石造りの回廊。

緩やかに流れる魔力の噴水。

そして――

「ふあぁ……」

長椅子に寝そべったハイエルフの一人が、退屈そうに欠伸をする。

「まだ騒いでいるのか、下の連中は」

「らしいですねぇ。森がどうとか、魔力がどうとか」

「はぁ……面倒だ」

別のハイエルフが、手元の果実酒を揺らしながら答えた。

「森は放っておいても回る。

我らがいる限り、均衡は崩れぬ」

「そうそう。

少しくらい枯れようが、戦おうが、

どうせ数百年もすれば元に戻る」

彼らの声に、危機感は一切ない。

寿命三千年。

世界を内包するほどの魔力量。

長すぎる時の中で、“責任”という概念は摩耗しきっていた。

「……それより、次の宴はいつだ?」

「明日でも明後日でも。時間は腐るほどある」

その瞬間。

――遠くで、鈍い衝撃が走った。


森の中心部。

一本の大樹が、音もなく倒れた。

精霊樹。

森の魔力循環を担う、要の一本。

「……な」

それを見上げていたダークエルフの女が、言葉を失う。

「嘘……よね?」

ありえない。

精霊樹は、森が生きている限り枯れない。

だが、倒れた幹の断面は――

黒く、濁っていた。

「魔力が……腐ってる……?」

周囲にいたエルフたちが、ざわめく。

「こんなの、聞いたことがない」

「ハイエルフ様に……報告を――」

その時。

――森全体が、軋んだ。

地面が震え、

空気が揺れ、

魔力の流れが一斉に逆流する。

「う、うわぁっ!」

若いエルフが膝をつく。

精霊たちが姿を現し、

怯えるように、逃げ惑う。

その“悲鳴”は、

ついに――頂点へと届いた。


ハイエルフの庭園。

「……ん?」

長椅子に寝転んでいたハイエルフの一人が、眉をひそめた。

「今の……揺れたか?」

「気のせいじゃない?」

「いや……」

彼はゆっくりと立ち上がり、空を仰ぐ。

魔力の流れが、目に見えて乱れていた。

「……妙だな」

その瞬間、遅れてやってきた報告役のエルフが、転がるように駆け込んでくる。

「ハ、ハイエルフ様!

精霊樹が! 森の中心で精霊樹が倒れました!」

「……は?」

庭園に、静寂が落ちる。

「倒れた……?

精霊樹が?」

「は、はい……!

魔力が濁り、精霊たちが――」

言い終わる前に、

ハイエルフの一人が小さく笑った。

「大げさだな。

一本くらい倒れたところで、何が変わる」

だが。

その笑みは、次の瞬間――凍りついた。

ドン……

森の奥から、さらに重い衝撃。

そして、空気が――

悲鳴を上げた。

「……これは」

初めて、

ハイエルフの顔から余裕が消える。

「……森が、限界を迎えている?」

彼らが“動かぬ頂点”として君臨し続けた結果。

怠惰が積み重なり、

管理されぬ魔力が腐り、

均衡は静かに、だが確実に崩れていた。

そして――

森は、

もう黙ってはいなかった。


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