閑話12 魔王、複合ビルドに目覚める
――あいつ、どうやって天界に入ってきたんだ?
統括は、天界の窓を見ながら腕を組んだ。
「いやほんと、どうなってんだ?
結界は張ってあるし、許可も出してないし……」
「愛の力、って言ってましたよ」
ウェヌスが淡々と答える。
「いや、それ理由になってねえからな?」
アウラが肩をすくめる。
「魔王って、そんな便利な存在だっけ?」
「便利じゃない。しつこい」
ウェスタが即答した。
原因は、言うまでもない。
――魔王ゼノス。
女神ヘルメースに振られ、
それでも諦めきれず、
今度は別の方向に迷走を始めた男である。
魔王城・地下修練場。
そこには、かつての筋肉至上主義の魔王の姿はなかった。
タンクトップは脱ぎ捨てられ、
代わりに分厚い魔導書の山。
床には魔法陣、壁には属性図。
「……なるほど」
ゼノスは腕を組み、真剣な顔で頷いた。
「筋肉だけではダメだった。
魔法だけでもダメだった。
つまり――」
目を見開く。
「複合ビルドだ!!」
誰に言うでもなく、堂々と宣言する魔王。
「筋力 × 魔力 × 愛の執念!
これが最強構成に違いない!」
なお、理論は一切ない。
だが本人は大真面目だった。
「ヘルメースたんは魔法の神。
ならば魔法を極めれば……!」
――いや、それでも無理だと思う。
その現実には、まだ気づいていなかった。
数週間後。
統括の元に、呼び出しがかかる。
「……またか」
嫌な予感しかしない。
転移した先は、魔王城の玉座の間。
そこには、以前よりも明らかに様子のおかしい魔王が立っていた。
全身から魔力が漏れている。
だが同時に、筋肉も増えている。
「来たな、創造神!」
「……お前、何やってんだ?」
「修行だ!」
ゼノスは胸を張る。
「今度こそ貴様を倒し!
ヘルメースたんを――いただく!!」
「目的が全部ダメだ」
即断だった。
統括が額を押さえた、その時。
「ちょっとパパ、代わって」
「へ?」
隣にいたヘルメースが、一歩前に出る。
その瞬間。
魔王の目が、希望に満ちた光で輝いた。
「ヘルメースたん……!」
「この――」
一瞬、静寂。
次の瞬間。
「いいかげんにしろーーーー!!」
神代雷魔法が炸裂した。
空間が歪み、
音が消え、
光が走る。
直撃。
「――――――」
魔王ゼノス、黒焦げ。
床に大の字で転がりながら、
それでも口は動いていた。
「……いつか……
ヘルメースたんに勝って……
告白して……見せる……」
「目的、完全に変わっとるがな」
統括の冷静なツッコミが入る。
ヘルメースは腕を組み、冷たく言い放った。
「二度と関わるな」
「ご褒美……?」
「違う」
追撃の雷が落ちた。
こうして。
魔王ゼノスは今日も敗れた。
女神を愛し、
女神に愛されず、
それでも諦めず。
筋肉に走り、
魔法に走り、
複合ビルドに走り。
だが、たどり着く場所はいつも同じ。
「……筋トレを怠るからこうなるんだ」
統括はそう言い残し、帰っていった。
床に転がる黒焦げの魔王は、
薄れゆく意識の中で呟く。
「……でも……
次は……勝つ……」
――魔王ゼノス。
彼は今日も、
あきらめの悪さだけは最強だった。




