第7話 脳筋消防士、神の「成長」を理解したつもりになる
水の神、ウェヌスの教育は、
ひと区切りを迎えていた。
文字。
言語。
世界の構造。
他神との距離感。
「……覚えるの、早いな」
俺は素直にそう言った。
隣にいたウェスタが、
当然のように頷く。
「神ですから」
「……それ、便利な言葉だな」
否定はされなかった。
ウェヌスは、
相変わらず少女の姿をしている。
だが、
受け答えは落ち着いていて、
判断も的確だ。
「神は成長が早いって、
前に言ってたよな?」
「はい」
「じゃあ……」
俺は少し考えてから、
率直に聞いた。
「ウェヌスは、
いつ頃大人の姿になるんだ?」
一瞬。
天界が、
ぴたりと静まった。
「……?」
ウェヌスが、
きょとんと首を傾げる。
「父上」
「うん」
「私は、
もう大人ですよ?」
「……は?」
思考が、
一拍止まる。
「この姿で?」
「はい」
「いや、
どう見ても……」
俺の頭上に、
大きな「?」が浮かんだ。
その横で、
ウェスタが静かに口を開く。
「彼女は、
少女神ですね」
「……しょうじょがみ?」
「成長段階ではなく、
神格の型です」
「……型?」
「えーっと」
黄色の羽の天使が、
噛み砕くように言う。
「年齢じゃなくて、
属性みたいなもん?」
「なるほど?」
「納得してないでしょ」
「……半分くらい」
「人間基準、
まだ抜けてないな〜」
「父上、
頭固いです」
ウェヌス本人にまで
言われた。
「……悪かったな」
「神は、
姿で成熟を測りません」
ウェスタが、
きっぱりとまとめる。
「覚えておいてください」
「……覚える」
俺は頷いた。
多分。
その時だった。
「……あれ?」
緑の羽の天使が、
自分の腹部を見下ろした。
「……?」
「……あれ?」
二回目。
周囲の視線が、
一斉に集まる。
「来た?」
黄色の羽の天使が、
楽しそうに聞く。
「……来たかも」
緑の羽の天使は、
少し照れたように笑った。
「私、
妊娠神です!」
「……は?」
俺が言った。
「今?」
「今」
「ついさっきまで、
普通だっただろ」
「だって、
普通だったし」
「……」
「神ですから!」
またそれか。
ウェスタが、
一歩前に出る。
「昇格条件、
確認しました」
「妊娠神として、
認定されます」
緑の羽の天使は、
ぱっと表情を明るくした。
「やった!」
「早かったな……」
「やることやってたからね」
黄色の羽の天使が、
さらっと言う。
「……聞かなかったことにする」
「えー?」
天界が、
また騒がしくなる。
俺は、
少しだけ遠い目をした。
「……神の世界、
スピード感おかしくないか?」
「慣れてください」
ウェスタが即答する。
ウェヌスが、
静かにこちらを見る。
「父上」
「うん」
「でも」
「ちゃんと、
見てくれてますよね」
少女の姿のまま、
落ち着いた声で。
俺は、
少しだけ笑った。
「……ああ」
「それでいい」
天界は、
今日も忙しい。
だが。
世界は、
確実に前に進んでいる。
俺はまだ、
全部を理解できていない。
それでも。
創造神として、
見守ることだけは――
間違えていないはずだ。




