第60話 統括帰る。そしてやらかす
「よし、帰るか!」
統括の一声に、二つの声が重なる。
「はい」
「ああ」
テレスとセインがそれぞれ頷いた。
ダンジョン前。
事件は収束し、あとは後処理だけだ。
「バルガン」
統括は鍛冶ギルドマスターに向き直る。
「ダンジョンコアの補助端末は、こちらで管理する。異論はないな」
「……はい」
バルガンは深く頭を下げた。
「それと」
統括は少しだけ笑う。
「鍛冶の技を磨くなら、筋トレが一番だ。まずは上半身から始めろ」
「……はい」
どこか吹っ切れたように、バルガンも微笑んだ。
「じゃあ、行こう」
統括はセインを送り届け、そのままテレスと共に天界へと転移する。
「ただいま~」
天界に戻った瞬間――
「父上ぇぇぇ!!」
エレブスが全力で飛び込んできた。
「父上凄いです! やっぱり父上はカッコイイです!」
「はは……統括はカッコイイか?」
少し照れながら頭を撫でる。
「ありがとうな、エレブス」
その直後。
「パパァ~♡ お帰り~!」
今度はヘルメースが抱きついてきた。
「今回もカッコよかったよ!」
「そうかそうか」
満更でもない統括。
――次の一言が来るまでは。
「でね、私、決めたの」
「ん?」
「パパの子供、産む!」
「……は?」
統括の思考が止まる。
「聞こえなかった? パパの子供を産むって言ったの♡」
「いやいやいや、親子でそういうのは……」
「神の世界では普通よ?」
ヘルメースは、ちらりとウェスタを見る。
「ね、ママ!」
「……神界では、ありますね」
冷静さを装ってウェスタが答える。
「血のつながりではなく、神格のつながりで神を産むことは」
「……まぁ、それはおいおいな」
誤魔化す統括。
(もう! そこははっきり否定してよ!)
頬を膨らませるウェスタ。
そこへ、アウラがふと口を挟む。
「でもさ、よくアダマンタイトなんて見つけたわよね? あれって確か――」
「そうなんだよ!」
遮るように統括が答える。
「正義君で移動してたら、たまたま落ちててさ。どっかのバカが落としたのかなって」
ぴくっ。
アウラとテレスの肩が、同時に震えた。
「一応待ったんだぜ? そのうちバカが取りに来るかと思って。でも全然来ないんだよ。もうバカっていうより間抜けでさ」
「……」
「ん? どうした?」
震え続ける二人。
そして、アウラが静かに告げる。
「アダマンタイトはね……土の神の涙が、下界の土と交わる時に生まれる金属なの」
「……え?」
統括の顔が引きつる。
「それを……あなたは……」
「正座!」
「はい!」
即座に正座する統括。
「いいですよ、母さん」
テレスが前に出る。
「テレス……」
心配そうに見るアウラ。
「どうせ僕は……」
テレスの声が震える。
「ダンジョン設計もまともにできないバカで……」
「泣いて生まれたアダマンタイトすら回収しない、間抜け神で……」
「そ、そんなことないぞ!」
慌てて否定する統括。
だが。
「お父さんなんて――」
テレスの目に涙が溜まる。
「きらいだーーーー!!」
「テレス――――!!」
叫び声と共に、テレスは非常口から下界へ飛び出した。
静まり返る神界。
その空気を、のんびりと割ったのは――
「若さよなぁ~」
湯呑みをすすりながら、クロノス。
「……」
この日。
世界のアダマンタイトの埋蔵量が、
ほんの少しだけ増加したという。
そして。
第3章――
ドワーフ王国ダンジョン作成編は、こうして幕を下ろした。




