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脳筋消防士、死んだら神にスカウトされた  作者: antomopapa


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第55話 止まらない崩壊



 ドワーフ王国ダンジョン。

 その内部で起きている“異常”は、もはや偶発的なものではなかった。

 天界。

 土の神テレスは、タブレットに映る映像から目を離せずにいた。

「……また、か」

 第三層南側通路。

 昨日、補正をかけたはずの壁面が、再び削られている。

 削られている――その表現が、最も正確だった。

 本来ならダンジョンコアが自動修復する。

 魔力循環も正常。

 地盤強度も、十分すぎるほどに設定してある。

 それなのに。

「鉱脈の“位置”が、変えられている……」

 テレスの声は、かすれていた。

 これは自然崩落ではない。

 魔物の暴走でもない。

 ――意図的な再構築。

 しかも、極めて巧妙だ。

「……ダンジョンの“ルール”を、理解している」

 通路幅は、冒険者が一列で進める程度に保たれている。

 崩落の角度も、致命的にならないよう計算されている。

 魔物の出現位置も、戦闘を誘発しやすいが、全滅はしない配置。

 ――まるで。

「……“利用”している」

 ダンジョンそのものを。

 円卓では、すでに何度目かの会議が始まっていた。

「負傷者数、先月比で三割増」

「死者は出ていないが、撤退者が急増している」

「冒険者ギルドからも、正式な問い合わせが来ている」

 報告が続く中、テレスは俯いたままだった。

「……ダンジョンの補正、追いついてない?」

 ウェヌスの問いに、テレスは首を横に振る。

「補正は……追いついています」

「でも、それ以上の速度で“削られている”」

 ヘファイストスが、眉をひそめる。

「削られてる、ってのは……」

「……採掘、だ」

 静かに、だが確信を込めてテレスは言った。

「通常の冒険者じゃない」

「ダンジョンの構造を理解し、効率よく、必要な部分だけを掘っている」

 空気が、重くなる。

「……鍛冶ギルドか」

 誰かが、ぽつりと呟いた。

 テレスの指先が、わずかに震えた。

(違う、と思いたい)

 ドワーフの職人たちは、誇り高い。

 ルールを破るような真似はしない――はずだ。

 だが。

「……ギルドマスターの動きが、妙だな」

 統括の声は、低かった。

「最近、王都の会合に顔を出していない」

「代わりに、部下を頻繁にダンジョンへ出入りさせている」

 テレスの胸が、ぎゅっと締め付けられる。

(……やっぱり)

 頭の中で、嫌な予感が形を持ち始めていた。

 その夜。

 下界から、緊急報告が届く。

「第四層で、大規模な通路崩落」

「冒険者数名が閉じ込められています!」

「死者は!?」

 アウラが即座に叫ぶ。

「……今のところ、なし」

「帰還石で脱出した者もいますが……」

 映像に映る、崩れ落ちた岩壁。

 露出した鉱脈。

 そして――その奥に、本来存在しないはずの空洞。

 テレスは、息を呑んだ。

「……ここ、設計にない」

 完全に。

 決定的に。

「……誰かが、ダンジョンを“内部から作り替えている”」

 円卓が、静まり返る。

 統括は、ゆっくりと立ち上がった。

「……もう、偶然じゃないな」

 その言葉に、テレスは耐えきれず声を上げた。

「父さん……」

「僕が……もっと、早く……」

 声が、震える。

「僕が、気づいて止めていれば……」

「こんなことには……」

 だが、統括は首を振った。

「違う」

 はっきりと。

「お前の設計は、完璧だ」

「これは――意図的な破壊だ」

 その言葉は、テレスを少しだけ救った。

 だが同時に、もっと重い現実を突きつける。

 ――誰かが、利益のために世界を削っている。

 テレスは、タブレットを強く握りしめた。

(こんなはずじゃ、なかった)

 冒険者のためのダンジョン。

 世界の底上げのための場所。

 それが今――

 欲と権力の道具になろうとしている。

「……止めなきゃ」

 小さく、だが確かな声。

 テレスは、初めてはっきりと思った。

(これは……僕の試練だ)

 設計者として。

 神として。

 そして――父の息子として。

 崩れ始めた歯車は、まだ完全には壊れていない。

 だが。

 このまま放置すれば、

 次に崩れるのは――人の命だ。

 ダンジョンは、静かに呻いていた。

 そして、テレスの心もまた――

 限界に、近づきつつあった。



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